自然の豊かさと都市部の便利さが調和する武蔵野市。クリエイティブエージェンシー・ロフトワークでプロデューサーを務める濱田さんの住まいは、三鷹駅から徒歩15分ほどの静かな住宅地の一角にある。奥様の幸絵さんと2匹のトイプードルと暮らす3階建ての一軒家を訪ねた。シンプルで整頓されていながら、ふたりのこだわりが散りばめられた空間には、心地よい風が通っていた。
名前:濱田真一さん 幸絵さん職業:ロフトワークのプロデューサー(真一さん) 電機メーカー社員(幸絵さん)
場所:東京都武蔵野市
面積:97㎡ 3LDK+サービスルーム(3階建て)
家賃(建設費):非公開
築年数:5年 新築
上:陸玖(りく) 下:ボッサ
お気に入りの場所
丸いタイル張りに白目地が効いた洗面所幸絵さんのいちばんお気に入りの場所は、自らパーツを探してイメージ通りに造作してもらった1階の洗面所。グレーの丸いタイル張りに白い目地の洗面台に、アルネ・ヤコブセンがデザインしたVOLAシリーズの黄色い水栓が映える。鏡は無印良品のものをDIYで塗装した、毎日の身支度が楽しくなるような空間。
「元からイメージができていたので、タイルや洗面器は自分で探して指定したんです。洗面器は国内外いろいろなものがあって迷いましたが、形が極力シンプルで、散歩から帰ってきた犬の足を洗いやすい、大きめのサイズを選びました。ちょっとレトロな形のタイルが気に入っています」(幸絵さん)
真一さんの書斎家で仕事をすることが多い真一さんの書斎は、1階の玄関を入った先。階段下から続くオープンな空間に、希望サイズに合わせて組み立ててもらった無印良品のスタッキングシェルフとデスクが配置されている。階段は蹴込をなくしているので、玄関から書斎まで視線と光が届く。
「家ではここにいることがいちばん多いですね。僕は個室だと散らかしてしまうので、あえてオープンな書斎にされてしまいました(笑)」(真一さん)
幸絵さんがピアノやフルートを練習する音楽室市の交響楽団に所属している幸絵さんの音楽室。ピアノの横には、古書店でまとめて購入したという暮らしの手帖の全集が積まれていた。
「古書店でたまたま見つけて。ちょうどふたりの財布の中身の合計金額で、即決しました。まとまった休みのときにでもゆっくり紐解こうと思いつつ、ほとんど積んだままになってしまっています(笑)」
この家を建てた理由
“武蔵野市の一軒家”というシチュエーションに、憧れる人は多いだろう。しかし、実際に東京での住まいを考えるときに戸建てという選択はやはりハードルが高い。なぜこの場所に一軒家を建てることにしたのか、その経緯をうかがった。
「家を探し始めたときはマンションのリノベーションを考えていたのですが、犬が2匹飼えて、楽器可となると条件はかなり厳しく……。次第に、制約のゆるい戸建てが選択肢に入るようになりました。そんなとき、夫がここの土地が売りに出ているのを発見して。このあたりは私の独身時代の通勤路で、思い入れがある土地だったので、これはもう運命だと思って、翌日には不動産屋で契約してしまいました。
実は30歳の頃、住宅に興味を持って、勢いで建築科の夜学に通い、狭小住宅を学んだりしていたんです。夜学の課題でこの辺りを仮定して制作したりしましたし、これはあの経験が役に立つな、と思いました(笑)。更地の状態からイメージを形にすることができたので、戸建てにしてよかったと思います」(幸絵さん)
壁と天井は珪藻土で塗装
「最初は『一軒家、しかも注文住宅なんて、大それたものを……』と思っていましたが、妻の熱意もあり、意外と作れてしまいました(笑)。自分たちで部材の選定をしたり、調達先を見つけたり、余分なものを省いたりもしているので、費用面では周辺の新築建売と変わらないくらいでしたね。
プランには半年くらいかかったと思います。妻が簡単な図面を作成して、3社に見積もりを出してもらいました。たぶん建売と違うのは、家主がかけなければならないエネルギーの量ではないでしょうか? わが家の場合は、毎週末施工会社と打ち合わせという期間が、何ヶ月か続きましたから(笑)」(真一さん)
残念なところ
窓の位置「住み始めてから分かったんですけど、キッチン横の窓からの風景は、空が開けているんですよね。他の窓と合わせたサイズにしたのですが、もっと縦に大きく配置したかった! これは、住んでみないと分からないことですよね」(幸絵さん)
お気に入りのアイテム
ALESSIのキッチングッズやインテリアコレクションキッチンには真一さんが独身時代から集めているALESSIのプロダクトが並ぶ。「9091 ホイッスルケトル」でお湯を沸かし、コーヒーを淹れてくれた。
「ずっと好きなメーカーで、使っていると幸せな気分になれるんですよね(笑)」(真一さん)
TISTOUのフラワーベース幸絵さんの友人が代表を務める、べルギーフランダース地方のデザインブランドを中心にしたプランターを扱うTISTOUが扱うフラワーベース。ガラスの色合いとぽってりした形にぬくもりを感じるHENRY DEANをはじめ、さりげなく置いてあるだけでも画になるものばかり。
グラフィックデザインのポスター真一さんはグラフィックデザインのポスターを収集するのが趣味で、グラフィックデザインと暮らすことについて会社のブログも書いている。リビングの壁に飾ってあるのは、田中一光氏による、1966年にイタリアで開かれた日本の現代美術展「MODERN ART OF JAPAN」のポスター。その他の部屋にも、巨匠と言われるデザイナーが手掛けたポスターが飾ってある。
「ポスターを飾ることのいい点は、優れたデザイナーの作品を毎日見ることができる、これに尽きます。だいたいはヤフオク! や、古書店で購入しますね」(真一さん)
「本当はもっとあるんですが、1度に1個以上が視野に入ると、情報過多になって休まらないので……飾りすぎないように決めています」(幸絵さん)
映画会社のノベルティを製品化したランプリビングの棚に置かれているのは、もともと映画制作会社のノベルティとして製作され、その秀逸さゆえに製品化されたというFLOSのLAMPADINA table lamp。照明の土台に映画フィルムのカセットが使用されている。
STANDARD TRADEのダイニングテーブル前の住まいから使っているダイニングテーブルは、良質なオリジナル家具を製造・販売するSTANDARD TRADEのもの。円形なので空間への圧迫感がなく、椅子を足せば来客時も座りやすい。
「このメーカーのインテリアは、シンプルさが気に入っています。実は今、リビングに置く棚もお願いしているところなんです」(幸絵さん)
データをダウンロードして作れる、犬用ベッド原研哉氏がはじめた犬のための建築・Architecture for Dogsのプロダクトのひとつ「wanmock」。ブループリントのpdfをダウンロードし、ロフトワークが運営するデジタルものづくりカフェ・FabCafeのレーザーカッターで合板をカットし組み立てたもの。愛犬・陸玖もすっかりくつろいでいた。
暮らしのアイデア
生活動線に合わせた間取り配置キッチン横のロールスクリーンを開けると、洗濯機が。珍しい配置だが、生活動線を考えてのことだという。
「キッチンで料理をしながら洗濯機を回して、終わったらリビングの先のバルコニーに干す。家事の全般を2階で済ませることができるので、動線的に便利だと考えてこの配置にしました。ウォークインクローゼットが1階のバスルーム横にあるのも同じ理由で、そうすることで朝の身支度はすべて1階でできます。コートやジャケットなど家で使わないものは、帰ってすぐにクローゼットに掛けていますね」(幸絵さん)
寝室は物を置かず、眠りに集中する場所に3階の寝室にあるのは、無印良品のシングルベッドフレームを2つ繋げてマットを置いたベッドと、植物のみ。1階と2階にその他の生活同線を置いているため、眠るためだけのシンプルな部屋が実現している。
「眠るときは、眠ることに集中できる空間がいいと思って。天窓を作ったり、カーテンは遮光ではないリネンのものにしたり、朝はきちんと光が入るようにして、太陽の光で目覚めています」(幸絵さん)
壁を贅沢に残す濱田家には、意外と窓が少ない。マンションと異なり、希望の位置に窓が開けられる一軒家にも関わらず、通常窓がありそうな場所にもあえて作っていないのだ。
「壁って贅沢だと思うんです。リビングのソファの後ろの壁も、窓を付けたらもっと明るくはなるんですが、窓で切り取ってしまうよりも壁が続いているほうが、すっきりと広く見えますし、夫の好きな大きいポスターを飾ることもできるので、あえて窓を付けない選択をしています」(幸絵さん)
バルコニーのルーバーの幅は、透過性を高くバルコニーのルーバーにも、隠れたこだわりが。手すりの存在がわからないように、他のポール間と同じ幅になるように調整しているのだ。そのちょっとの工夫がバルコニーの洗練度をアップしている。
ちなみに、広いベランダにはたくさんの植物が置かれているが、種類が多く、安く購入できる大きな園芸屋さんで購入しているとのこと。
無印良品の「壁に付けられる家具」を利用した収納棚言われるまで気がつかなかったが、CDが並ぶ棚は無印良品の壁に付けられる家具・箱を組み合わせたもの。ランダムに組み合わせているため、そういうデザインの棚のように見える。真似したいアイデアだ。
これからの暮らし
客間
「これと言ってはないんですが、家を建てて5年経ち、生活のサイクルみたいなものができてきたので、それを楽しみながら仕事や趣味を頑張りたいですね」(真一さん)
「幸い、立地的にも思い入れのある土地に家を建てられたので、当分はこの家での生活を楽しみたいですね。もっと年をとったらここを売るか貸すかして、平屋に住むのも憧れるな、なんて思ってます(笑)。
これから家を作りたい人は、近々建てる予定がなくても、好きな窓の形や壁の色……小さなことでも具体的に思い描いていくことで、実現の機会が近づく気がしますね」(幸絵さん)
羨ましいくらいの理想の住まいに暮らして5年。さまざまな面でハードルが高そうな“注文住宅の一軒家”。濱田家にお邪魔して、家ができる過程に耳を傾けるうちに、一から思い通りに住まいを作るという、贅沢なワクワク感に胸が躍った。
いつか実現するときのために、まずは妄想だけでもしておこうか。
Photograghed by Kenya Chiba
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