桜が咲いて初々しい新社会人を街で見かけたら「春だなぁ」と、道すがら蚊取り線香の匂いがすると「夏だなぁ」と、なんとなく思うことがあるものの、僕らが日常生活の中で季節の変化を意識することはそんなに多くない。

今から約150年以上前に暮らしていた人びとは、1年の季節を24分割にした「二十四節気」と呼ばれる区分けと、そこからさらに細分化された「七十二候」を暮らしに取り入れていた。72個の季節というと、だいたい5日に1つのペース。そのときの旬の食材を食べ、旬の花木を愛でる生活をし、自然の移り変わりとともに今よりずっと細分化された季節の移ろいを感じていたのだ。

七十二候の「意味」や旬の食材を知ることで、普段よりも敏感に季節の変化を意識できる。季節の移ろいを感じ、取り入れてみて、暮らしに深みをもたせよう。

前回の七十二候:「蚕起食桑」養蚕業の主、活動を始める

七十二候:麦秋至(ばくしゅういたる)

5月31日~6月4日ごろ
四季:夏 二十四節気:小満(しょうまん)

ビールや焼酎、麦茶などに使用される大麦が、収穫時期を迎える季節。大麦には「二条種(にじょうしゅ)」と「六条種(ろくじょうしゅ)」などと呼ばれる品種があり、種類によって穂の色合いも変わってくるという。

岡山県にある「児島湾干拓地のビール麦畑」は、色の違いを活かした格子模様ができあがっている。

ちなみに小津安二郎監督が1951年に撮った映画は『麦秋』。いわゆる「紀子三部作」の2本目の作品だ。

旬の食材

びわ

6月に出荷のピークを迎えるびわは、長崎県や千葉県、愛媛県など、比較的暖かい地域で多く収穫される。

「大薬王樹」とも言われるほど、びわの木にはさまざまな薬効があるという。

べら

写真は青ベラ(「キュウセン」とも呼ばれる)

「べら」はものすごく種類が多く、日本近海だけでも約130種類が生息している。「ホンソメワケベラ」という種類は「掃除魚(そうじうお)」と呼ばれ、他の魚に付いた寄生虫や死んだ皮膚組織を食べる。広い海の中ではこうした特性のように、他の種類の魚と、互いに利益のある関係性を持つことがあるという。

べらは刺身や煮付けが一般的。また、煮付けた後に1日置いて、再度焼き上げる「はぶて焼き」は広島の郷土料理で、「はぶてる」とは広島弁で「怒る、いじける」といった意味。

本日の一句

すがたみにうつる月日や更衣

横井也有

平安時代に日本へ伝わったといわれる「衣替え」。夏の衣替えが6月1日に決まったのは、江戸~明治時代のころ。

現在では学生の制服や会社員のスーツ姿が変わる景色で、「衣替えの季節」を感じることができるが、この句の作者のように、鏡に映った自分の姿を見るだけで時間の経過を感じる人もいるだろう。

次回は「蟷螂生ず(かまきりしょうず)」。

illustrated by Kimiaki Yaegashi

参考文献:白井明大(2012)『日本の七十二候を楽しむ ―旧暦のある暮らし―』東邦出版.
Multicolorfin Rainbowfish-Halichoeres poecilopterus, on white background image via Shutterstock
nispero, Japanese medlar fruit, on table image via Shutterstock

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