花見シーズンが終わると、一気に新緑の季節を迎える。休日は、自然の中ででものんびり過ごしたいところ。
そこで訪れたいのが、千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館。約30ヘクタール(9万坪)の広大な北総台地の自然に囲まれた、緑豊かな美術館だ。現在開催中の展覧会が、「ヴォルス―路上から宇宙へ」。
セルフ・ポートレイト 1938年 Kupferstich-Kabinett, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo: Herbert Boswank
ヴォルス(WOLS)こと、本名アルフレート=オットー=ヴォルフガング・シュルツは「アンフォルメル(非定型)の先駆者」と評されたドイツ人芸術家だ。アンフォルメルとは、1940~1950年代にかけてヨーロッパで流行した抽象絵画を中心とした美術界の動向を表した言葉。
ヴォルスの人生は短くも波乱万丈であった。彼の才能は、戦争という悲しい運命に翻弄されながら開花していく……。
《ごみのある一隅、浮浪者》 1940-41/1976年 ゼラチンシルバープリント 16.3x17cm The J. Paul Getty Museum, Los Angeles
第一次世界大戦後のドイツに育ち、1930年代フランスに移住し、写真家として成功。しかし、ドイツとフランスの戦争が始まり、写真家としての職も奪われ、敵国人として収容所へ送られることに。
そんな不遇な環境の中で、独学で水彩画を描くことに没頭。何かをスケッチするのではなく、目を閉じて浮かんだイメージを「幻視」して描いた、蜘蛛の巣のような描線と淡い色合いが魅力を放っている。
《構成 白い十字》 1947年 油彩、カンヴァス 32.5×45cm 国立国際美術館
戦後は、油彩画をはじめ、ヴォルス作品を特徴づける慣例にとらわれない画風がどんどん進化していく。文学者や詩人たちの目に留まり、挿絵の依頼を受け銅版画を作成し始めたのも束の間、貧窮のまま38歳という若さでこの世を去ったのだ。
今回の展覧会では、彼の残した言葉とともに写真、水彩画、油彩画、銅版画など約120作品を日本で初めて展示する機会となっており、見逃せない。アクセスは、東京駅発着の高速バスのほか、JR佐倉駅・京成佐倉駅から無料送迎バスの利用がおすすめ。「ヴォルス―路上から宇宙へ」展は7月2日(日)まで開催中だ。
路上の石や虫を見ながら、遠く宇宙までも「幻視」したヴォルス作品の数々。鑑賞後は余韻にひたりながら、美術館を囲む自然の中を散策しよう。きっと特別な休日になるはずだ。
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