北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■ラーメン活動月報(2月)
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
『日本でも広がる「蘭州ラーメン」の背景』山本剛志
東京は相変わらずラーメン店は新店ラッシュ。中でも注目したいのが「蘭州ラーメン」の動き。2017年8月に、中国で100年以上の歴史を持つ老舗チェーン店「馬子禄 牛肉面」が神保町に開店して以降、「火焔山@池袋」「ザムザムの泉@西川口」が立て続きに開店。開店直後は大行列を作っていた「馬子禄」は、最近は落ち着きつつも人気を集めている。
そして、最近になって増えているのが、「蘭州ラーメン」「蘭州牛肉麺」を看板に掲げるラーメン店や中華料理店。「人気店をインスパイアした店が増えているのかな?」と思っていたが、実際にはもう少し深い事情があった。今回は、名古屋大学大学院経済学研究科附属国際経済政策研究センターの中屋信彦准教授による「中国回族ビジネスにおける宗教と政治-蘭州拉麺、チベット・ビジネス、イスラーム金融-」(PDF)と、ブログ「ユーウェン中国語講座」の「蘭州ラーメン店チェーンの実情と東方宮」の記述に興味を受けて、まとめた上で私の感想を述べたいと思います。
蘭州ラーメンの特徴は「清湯スープ、白い大根、紅いラー油、緑のパクチー、黄色い麺」。スープには牛肉や牛骨を使いつつ澄んでいる。トッピングに味玉がある店は多いが、豚肉や豚骨は使われていない。その事で、「ハラール対応」を謳う店もある。
この「ハラール対応」は、決して健康志向やブームだけを狙ったものではない。中国で蘭州ラーメン店を営む人物の多くもまた、ハラールの戒律を守るイスラム教徒(回教徒)であるからだ。普通の中華料理では、イスラム教でタブーとされる豚肉が多用されるため、独自に食べられるものを作るしかない。1919年に蘭州市で創業した「馬保子牛肉拉麺店」の馬保子もイスラム教徒であり、現在中国で5万軒以上とも言われる蘭州拉麺店の多くが、回教徒による経営とされている。
蘭州拉麺店が中国全土に広まったのは1990年代以降の事とされる。回教徒の行商文化の影響に加え、中国の「改革開放路線」によって個人経営の飲食店が認められるようになった事、経済成長で外食文化が広まったことが挙げられている。そしてもう一つは、蘭州市がある甘粛省と隣にある青海省の「化隆回族自治県」出身者が、中国国内で多くの蘭州拉麺店を開業させているという事実である。
農民が多い化隆回族自治県では外食店が少なく、蘭州拉麺店は都市部へ出稼ぎに行く事になる。県が出稼ぎ期間中にも農民としての権利を保証したり、国内各地に置いた県事務所が出店をサポートするなど、県の政策が「拉麺経済」を支えている。
現在蘭州市には「蘭州ラーメン」の技術を教える学校があり、ここで修業した外国人が母国に出店するなどしている。「馬子禄」や「金味徳」といった蘭州ラーメンの大手チェーンが、日本に進出するだけでなく、現在は世界40か国、地域に広がっている。
蘭州ラーメンの普及には、自治県だけでなく中国政府としても注目している状況である。それは、蘭州で修業する外国人を紹介した記事が、国営通信社から発信されていることからも感じられる。
東京に開店した蘭州ラーメン店は、日本に住む中国人からも強い支持を集めている。「馬子禄」に並んでいた人の多くは中国人で、私も中国のネットメディアのインタビューを受けた。日本に住む中国人にとっては、「故郷の味」とも感じられるのだろう。
多くの従業員を抱える大型店がある一方で、職人が一人で作る蘭州ラーメン店もある。「ザムザムの泉」は後者の典型であり、イスラム教の断食月「ラマダン」の期間は、夜営業を休止するなど、イスラム教の戒律を守りながら営業している。2018年に入って、各地に「蘭州ラーメン」を看板に掲げる店舗が増えているが、そのスタイルは千差万別。これからもその動きに注目したい。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は千葉で展開する「まるはグループ」の新業態「牛そば まるは」の 「牛そば」を、山路と山本が食べて、語ります。