北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■連載コラム(第29回)
『ラーメンの憂鬱』〜料理人としての矜持があるか(山路力也)
『教養としてのラーメン』〜戦後ラーメン史(3)~インスタントラーメンの発祥~(山本剛志)
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
「ラーメンにはまった瞬間」北島秀一
「北島がラーメンにハマった瞬間」と言うと、おそらくかなりの人が「ああまた桂花の太肉麺の話か」と思うだろう。確かにまあそこが一番山場ではあるんだが、本当の意味で「ハマった瞬間」の話をするならその前段階が一個所。そして、その後の「本当にハマった瞬間」のもう一個所、計二カ所を話さなくてはならない。
私がラーメンにハマったのは進学で上京してからで、高校(&浪人)までを過ごした広島市時代は自宅近所の中華屋で普通のラーメンを食べるだけだった。すずめも陽気もしまいも未食どころか名前も知らない。当然ラーメンにいろんな種類がある事も知らない状態で上京。大学生活がスタートしたそこの学食にあったのが「九州ラーメン」だった。今にして思えば業務用の豚骨ペーストをとかしただけのスープに、醤油も味噌も九州も共通の普通の麺。具材には何故か唐揚げが載り、その唐揚げが無くなるとゆで卵半個に切り替わると言う謎のラーメンだったが、とにかくその時に始めて真っ白な豚骨スープを見たし、そもそもが「九州にはこんなラーメンがあるの?」と衝撃を受けたのをよく覚えている。
進学先の関係で、通学路に渋谷のあった私はその衝撃が覚めやらぬ間に、当時渋谷で大人気だった「ふくちゃん」に出会った。さすがに学食のラーメンより更に本格的な九州豚骨。替え玉システムに驚き、替え肉・替えスープ・5つの具材入れ放題など、本当にカルチャーショックだった。そして少し遅れて更に衝撃を覚えたのは、当時秋葉原に出来たばかりだった「九州じゃんがららーめん」。この出会いで私は九州豚骨ラーメンを強烈に意識するようになり、「桂花」で完全に心を鷲掴みにされる事となる。
が、ここまでの話はあくまで「桂花にハマった瞬間」だ。より広く「ラーメンにハマった瞬間」を言うなら、桂花のあった渋谷プライム麺道場に「げんこつ屋」が登場した瞬間であろう。鶏と魚介のマイルドで奥深いスープに、多加水で柔らかいのにもっちりと歯ごたえと風味のある麺。卓上調味料を載せないこだわりに、肩ロースの柔らかくジューシーなチャーシュー。ある意味「桂花」とは真逆な設計なのに、このラーメンがまためっぽう美味い。この二杯を対比する事で、「大桂花馬鹿」だった私は「ラーメンの驚異的な幅広さ」を知り、本を片手に有名店を片っ端から食べ歩くようになった。
その「本」の、「ベストオブラーメン 文庫版」にもまた並々ならぬ思い入れがあったりするのだが、その話はまた別の機会に(笑)。(ラーマガ011号より転載)
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は今年5月にオープンした新店「ふるめん」の「しょう油らーめん」を、山路と山本が食べて、語ります。