こなごころ

もう二度と酒は飲まない

2017/08/23 01:14 投稿

  • タグ:
  • 思い出
私には幼い頃からの友達がいた。
小学生の頃までは、いつも彼と一緒に遊んでいた。
私の方が勉強や運動はできたけど、彼の方がゲームソフトをたくさん持っていたし、私よりもゲームが上手かったのはちょっと羨ましかった。
お互いちょっと変わり者で、負けず嫌いなところもあったけど、喧嘩はほとんどしなかった。
私は彼を親友だと思っていた。

小さな町だったから、小学校の同級生は皆同じ中学校に入った。
別の小学校だった子も入ってくるから、クラスも増えた。
彼とはクラスが別々になってしまい、疎遠になってしまった。
私は人見知りでこそあったが、なぜか人当たりは良かったから新しい友達もできた。



ある時、学校の帰りに別の友達に連れられて、彼の家に行くことになった。
というのも、彼が不登校になっていると聞いたからだ。
家に着くと、おばさんは喜んで上がらせてくれた。

とりあえず会ってはみたものの、気まずい雰囲気だった。
連れてきてくれた友達との会話から察するに、不登校の原因はいじめだった。

「何があったの?」
って聞こうか。

「学校行こうよ。」
って言おうか。

「また何かされたら助けてあげるよ。」
って無責任な発言をしても良いのだろうか。

考えてはみたものの、私は詳しい事情を知らなかったし、下手なことを言って傷付けてしまうのが怖くて、そういうことは何も言えなかった。
久しぶりに次の休みに遊ぶ約束だけ取り付けて、その日は帰った。

それからというもの、また小学生の頃のように一緒に遊ぶようになった。
時には仲の良かった友達も加えて遊びに行った。
そうしていれば、そのうち戻ってきてくれると思っていた。



結局、彼は不登校のまま中学校を卒業し、私は地元の公立高校へ進学した。
その1年後、彼は定時制の高校へ進学し、いつの間にか新しい友達も作っていた。
近所に住む、1つ年下の子だ。

その子を含めた3人で一緒に遊ぶようになった。
遊ぶ約束を取り付けるのはいつも私からだった。
中学生の頃に一緒に遊んでいた他のメンツは次第に疎遠になった。



私は勉強嫌いだったから、高校での成績はガタ落ちだった。
部活は真面目に続けていたものの、センスがなかったから、ろくに活躍できなかった。
人見知りが悪化してコミュ障になっており、クラスでは浮いていた。
クラスに友達はおらず、一言も言葉を発しない日もザラにあった。
それに加えて家庭環境の諸事情もあり、甚大なストレスを抱えていた。

休日には逃げるように彼の家に遊びに行った。



私は大学に進学した。
と言っても成績は良くなかったから、大学のランクはかなり下げた。
高校の時のクラスメイトは誰一人いない大学だ。
片道2時間半はかかるのに、わざわざ実家から通った。
その理由は色々あるが、彼と遊べなくなるからというのも理由の1つだった。

私は彼を支えているという自負を少なからず感じていたが、それと同時に惰性で関係を続けているような気がしていた。
同じ部屋にいるのに会話も少なく、別々のゲームをしているということも多くなった。
なんとなく、彼からの風当たりが強くなっているのを感じた。
私は少しずつ面倒くさいと感じるようになっていた。



遊びに行ったある日、麻雀で負けたら罰ゲームをしようという提案を彼が持ちかけてきた。
罰ゲームとは、酒を飲むことだった。
それも、アルコール度数のかなり高いやつだ。
彼らは飲み慣れていたけど、私は飲んだことがなかったから、罰ゲームとしては不公平な気がした。

しかし、ここで断っても空気が悪くなるだろうと思い、仕方なく受けて立った。
負けなければ良い。そう思っていた。

結局その日、私は一度も負けなかった。
しかし帰り際、彼は

「せっかくだから一杯くらい。」

と私に酒を勧めてきた。

どうでもいい相手だったら、適当に誤魔化して断ることもできたと思う。
でも彼が傷付くことを恐れて、断れなかった。

コップに注がれたそれは、少量ではあったが、顔を近付けるだけで酷い臭いがした。
後に引けなくなった私は彼の様子を伺いながら、しばらくして覚悟を決め、一口飲んだ。

焼けるように喉が熱い。
自分の口から異臭がする。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

まだコップには半分残っている。
勢いで残りを飲んだ。

再び喉が焼けた。
呼吸が荒くなり、吐き気がした。

私はそのままその場を後にした。
目の焦点が合わず、体は思うように動かなかった。

親に顔を見られるとマズいと思い、家に帰ってすぐに自室へ逃げ込んだ。
もう二度と酒は飲まない。そう決意した。
もうこんな思いはしたくない。

少量だったから、翌日には酒は抜けていた。



その次の週末、私は懲りずに遊びに行った。
彼はまた罰ゲームを賭けて麻雀をしようと持ち掛けてきた。

この日も私は負けることはなかった。
彼はそれが気に入らなかったのか、UNOに変更しようと提案してきた。
さすがにUNOでは運要素が強いから、どうしても負ける確率が高くなる。
そこで私は「罰ゲームは酒の代わりになるもので」という条件で承諾した。

何回かやって、とうとう私が負けた。
罰ゲームに用意されたのはブラックコーヒーだった。
少し飲んではみたが、苦すぎてそれ以上喉を通らない。

私がこれを飲まなければ、次の勝負が始まらない。
でも、とても飲めたものではない。

ごねてはみたが、彼は苛立ち交じりに突っぱねた。
先週のこともあって、急に嫌気が差してしまった。

なんでコイツに付き合っているんだろう。

そういえば最近コイツと一緒にゲームで遊んだっけ。

今までコイツから遊びに誘われたことってあったっけ。

コイツ、私のことをどう思っているんだろう。


……コイツは本当に友達なのか?


無言のまま数時間が経過した。
もう罰ゲームのことなどどうでもよくなっていた。

私は小さくため息を吐いて、怒るように、哀しむように、呆れるように、

「帰るわ。」

とだけ言い残し、見送られることもなく静かに帰った。
その日を最後に、私から連絡することはなくなった。

事実上の、絶交だ。



私は大学でも友達を作ることはしなかった。
もう独りでいることにも慣れていた。
彼と絶交してから1年ほど経った頃、携帯に彼からの着信履歴が残っていた。

私は自分からは連絡したくなかったから、待つことにした。
あの時のことを、今更謝罪するつもりだろうか。
もし謝罪があったら、それを許すべきだろうか。
もう一度、関係をやり直した方が良いのだろうか。
期待と不安でいっぱいだった。

その日のうちに、もう一度着信があった。
恐る恐る、その電話を取った。

「もしもし。」

「もしもし。久しぶり。」

「久しぶりだね。何か用?」

お互い緊張気味だった。
最初に切り出されたのは、最後に遊んだ日のことだった。

「あの時は、ごめん。」

予想以上に素直な謝罪で、拍子抜けしてしまった。
その後、それまでのことを色々話した。



まず、いじめに遭った時のこと。
私が聞くのを避けていた話を、彼自身から話してくれた。

いじめの内容はここには書かないが、彼は執拗にいじめを受けていた。
それに耐えかねて、一度いじめっ子に仕返しをした。
しかし、仕返しをしたことがバレて、クラスの担任に呼び出しを食らった。

椅子に座らされ、説教をされた。
言い訳をすると引っ叩かれ、椅子から転げ落ちた。

彼が不登校になったのはそれからだ。
彼はいじめっ子と担任を憎んだ。

それから、彼はもう一度いじめっ子に仕返しすることを決めた。
今度は誰にもバレずに、確実に仕返しするため、念入りに計画を立てた。

仕返しは見事成功した。
彼はそれで満足したという。

彼は私に「どう思う?」と聞いてきた。

もちろんいじめは良くないが、仕返しをして良いものだろうか。
それが陰湿であれ、暴力的であれ、やられたらやり返すことが正しいだろうか。
私ははっきりした答えを出せなかった。

彼は定時制の高校に入学する前、面接でこのことを話したらしい。
そこで面接官に言われたのは、

「よくやったね。」

だった。
説教でも罵倒でもなく、返ってきたのは称賛だった。
初めて理解してくれる人がいた。
彼はそれで入学を決めたのだという。

私にはできない回答だと思った。
たとえ世間一般的には正しくないことだとしても、彼は勇気を振り絞って仕返しをしたのだ。
私は彼の気持ちを理解してあげられていなかった。



それから、彼が不登校になった後に私が初めて家に訪ねた時のことを話した。
その時、彼は私に何か言ってほしかったのだそうだ。

事情を知らないのなら、聞いてあげれば良かった。
ありきたりな言葉でも、励ましてあげれば良かった。
今更後悔した。

その後も長らく一緒に遊んではいたが、私がそういうことを何も言わないから、彼は日に日に不信感を募らせていた。

彼はずっと私のことを「いつもクラスの中心にいる子」だと思っていたという。
言われてみれば、確かに彼の知る限りの私はそうだったのかもしれない。
だから、私が高校生の頃に友達ができないことを愚痴った時も、私が誇張しているだけだと思っていたようだ。

私は彼を親友だと思っていたが、彼はそうではなかった。
彼にとっての親友は、あの1つ年下の子だった。
その子はちゃんと彼の話を聞いてくれたし、良き理解者だった。
親友とは、そういうことだ。

一方、私は彼を支えられていないどころか、傷付けていた。
彼は私を友達だとすら思っていなかった。

私は彼に謝罪した。



話の最後に、彼の方から遊びに誘ってくれた。
仲直りはしたかったし、私はためらいながらも承諾して、電話を切った。



次の週末、久しぶりに彼の家に遊びに行った。
彼の親友も含めた3人で、一緒にゲームもしたし麻雀もUNOもした。
もちろん、酒も罰ゲームもナシで。
そして、帰り際には見送ってくれた。

「またね。」
とは言わなかった。

あれから彼とは一度も会っていないし、連絡も取っていない。
それがお互いのためだと思ったからだ。



もう二度と酒は飲まない。再びそう決意した。
酒を飲まない理由を聞かれた時、彼のことを思い出せるからだ。

親友にはなれなくても、私は彼の理解者でありたい。

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事