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■6

 将棋日和――なんてものがあるのかどうかは知らないが、ゴールデンウィーク初日は気持ちよく指せそうな快晴になってくれた。
 来是と依恋に加えて新聞部の浦辺は、駅前ですでに待っていた先輩ふたりと合流する。
「おはようございます。昨夜はよく眠れました?」
「……それがあんまり。なんかドキドキして」
「あらあら」
「笑い事じゃないわよ、紗津姫さん。体調管理も部活のうちでしょ」
「無理もないって。この俺も最初はそうだった」
 いつもお気楽なこの部長でも、緊張することはあるらしい。
「こういうときは、無理に落ち着こうとするのもマイナスなんですよ。思いっきりドキドキしてください。それも勝負の醍醐味なんですから」
 その言葉に、来是はおおいに勇気づけられた。
 移動はたった一駅なので、乗車時間はわずかだった。子供の頃から何度も利用してきた路線だが、ひとつだけ離れたこの駅に降りたことは記憶になかった。
 改札を抜けておよそ十分ほど歩いていくと、目指す対戦会場が見えてきた。
 彩文ほどではないが、創立から長い歴史を持つ私立大蘭高校。文化系の活動に力を入れており、特に将棋部は全国高校将棋選手権で個人団体ともに優秀な成績を残したことがある、都内有数の強豪……。
「ほえー、すごいっすねえ」
 紗津姫の説明を、浦辺は歩きながら器用にメモしている。
「つーか、そんな情報、今初めて知りましたけど」
 来是はちょっと冷や汗を掻いた。強いだろうということはわかっていたが、いくら何でもレベルが違いすぎるのではないか。
「すみません。直前まで余計なプレッシャーを与えたくなかったので。とにかく中学時代から腕に覚えのある人が集まるそうです」
「よくそんなところが、うちと交流戦をしてくれますね? 伝統とはいえ」
 そう聞くと、関根は苦笑いした。
「うちも昔は強かったらしいんだけどな。ここ数年はさっぱり。実際去年で打ち切りって話もあったんだよ」
「じゃあどうして」
「もちろん、神薙が力を見せつけてくれたからな」
 来是は道場で会った城崎という男を思い出した。
 去年、紗津姫に惜敗した大蘭将棋部のエース。その去年よりも、きっと実力を上げているはずだ。ほぼ互角だったであろう紗津姫との差は、今どうなっているのか……。
 だが、来是はこの女王が負ける光景など、少しも想像できなかった。
 きっとこの人は、勝つはずだ。だから俺も、実力では及ばないにせよ、よくやったと言ってもらえる将棋を目指そう。そう強く誓った。