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「どうかしら。ポニーテールも似合うと思うんだけど」
「さすが依恋先輩! スタイリストの才能もあるんじゃないですか?」
「神薙先輩、なんてお綺麗な……」
「まさに女王の存在感です!」
山里を筆頭に、一年女子たちが感嘆の声を上げる。一方、男どもの語彙力の貧困さは致命的だった。
「やばい、これはやばい」
「マジやべえ」
「ウヒョー!」
――アマ女王防衛戦が明日に迫った。すると依恋がもっとオシャレするべきと言い出して、紗津姫の髪をあれこれアレンジしだすと、部活はそっちのけになってしまった。
前日だというのに何をやってるんだと、来是もはじめは文句を言っていたが、七変化する紗津姫のヘアースタイルに、すっかり見入ってしまった。
いつもアクセサリーなど着けずストレートで通している紗津姫だが、今見せている巻髪ポニーテールは、彼女の華やかな魅力が最大限に引き出され、内なる大人の香りがたちこめるかのようだった。依恋の手鏡で自分を覗きながら、紗津姫は頬を緩ませていた。
「これ、すごく気に入りました。何だか自分じゃないみたい」
「決まりね。そのシュシュも貸しといてあげるから、バッチリカメラ映りよくなってちょうだい」
「それにしたって、すごいですよねー。ニッコ動でやるなんて。しかも解説が伊達さんとか」
金子が言った。来是も今からワクワクが止まらない。
「名人が相当にプッシュしたんだろ。敏腕プロデューサーだよな」
対局はニッコリ動画での生中継が決定しており、しかもプロデューサーの伊達が自ら解説を買って出たことで話題を呼んでいた。
アマ女王戦は将棋連盟ではなく、一アマ団体の主催。だから決定戦の三番勝負は将棋会館ではない場所で行われてきたし、そもそも非公開が慣例だ。その慣例を取っ払うため、伊達は精力的に動いたのだろう。もちろんニッコ動側も、集客が充分に見込めると判断したからこそ実現したのだ。
「ところで、防衛祝いの打ち上げはどうしようか?」
「依恋ちゃん、そういう話はまた後日で……」
「いいじゃない。どうせ負けることはないんだから。来是だってそう思うでしょ」
紗津姫の敗北は想像できない。しかしくどいようだが勝負に絶対はない。ここはその真理にしたがって、冷静な意見を述べるべきだろう。
「依恋、今さら先輩を困らすなよ」
「わかったわよ。でもみんな、月曜日はそのつもりでいてね」
はーい、と元気な声が重なった。
あとの余った時間は軽めの指導対局に費やして、終了後はさっさと解散した。後輩たちは口々に勝ってくださいと言いながら帰っていった。
「それじゃーお先に。明日はおじいちゃんと一緒に、ニッコ生見ますよ」
「ええ、おじいさんによろしく」
「そういや紗津姫さん、服はどうするの?」
「フレッシュカップのときと同じく、この制服で行くつもりです」
「うーん、あたしとしてはもっと華が欲しいんだけど。ノースリーブとかどう? せっかくの晴れ舞台なんだから、自分を魅せる努力を惜しむべきじゃないわよ、紗津姫さん」
「わかってないな依恋は。大和撫子らしく、あくまでも慎ましく! 適度に隠されていたほうが、先輩の場合は絶対にいいんだ」
「私も同感ですよー。そのほうがエロいです」
「そうだ、三番勝負なんだし、二局目は衣替えするってのはどうかしら。きっと視聴者も盛り上がるわよ」
「……ありだな」
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