===村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編(2回目)===
今後のMLCC事業は大きく展望が開けている状況です。
高い単価が得られる車載向けの数量が急拡大するという見通しが持てるからです。
需要の拡大の背景の理解には、コンデンサそのものへの理解が先決です。
それではMLCCという製品の詳細をみていきましょう。
=MLCCの構造=
コンデンサは構造的には誘電体(絶縁体)を電極で挟む単純な構造です。
誘電体には物性による誘電率があり、高い誘電率を持つチタン酸バリウムなどが主材料です。
内部電極にはニッケルを使用しています。MLCCはmulti-layer ceramic capacitorの略です。陰極と陽極の違いがない無極性コンデンサです。
電荷Qは内部電極の面積Sと薄さdと誘電率εなどで以下の比例関係式にて決定されます。
QはSε/dに比例
(電荷は内部電極の面積Sと誘電率εの積を誘電体厚みdで割った値に比例する)
つまり誘電体の薄さdを半分にすれば集められる電荷は倍増します。
内部電極の面積Sを大きくすること(誘電体とバインダーのスラリーであるグリーンシートの面積でもよい)も電荷量に効きます。
材料を半分にすれば製品の付加価値が倍増するのですから、長期投資に向いた製品です。
わたしの銘柄選択の基本は、
1)数量が伸びて、
2)製品価格が上がって、
3)費用が下がる見通しがある
という3拍子揃った製品への投資です。
MLCCはこの要件に当てはまると考えます。
製品への理解が投資には重要だとわたしたちは考えていますが、ご納得いただけたのではないでしょうか。
さて、誘電率は分子構造に依存しますが、チタン酸バリウムは誘電率が非常に高いことが知られています。積層することでコンデンサの並列回路となり、並列した数だけ電荷は加法的に蓄えられます。
上の絵(note参照)では、内部電極がプラスとマイナスで2つずつしか描かれていないので2個のコンデンサの並列になっていますが、実際のMLCCでは数百もの並列を実現できます。
交流では分極の符号が時間と共に逆になるので、高誘電材料で分極が大きいものは高周波特性や温度特性の悪さになります。誘電率が高ければよいというものではありません。
電荷Qは上絵の下段に書いたように、静電容量Cと電圧Vとの積となります。
誘電体が分極すれば電場が和らぎますので、電圧が下がり、結果として静電容量Cが上がるのです。誘電率と静電容量の関係式が上記Q=CVなのです。
製法はキャリアシートに粒のそろった誘電体セラミック粒子(たとえばチタン酸バリウム等)とバインダーを均等に混ぜて塗布したものをつくります。
これをグリーンシートとよびます。
グリーンシートは長期のトレンドにおいては大型化しています。グリーンシートに内部電極を印刷し、その後、焼結します。バインダーが飛び、セラミック粒子が凝縮することでグリーンシートは大きく縮みます。
製法で一番重要な要素はバインダーといわれているのですが、これが企業秘密となっています。焼結後にはバインダーは蒸発してしまうので他国の競合が、容易にリバースエンジニアリングによる真似ができず、日本が競争力を保つことができている分野です。
さらにMLCCでは積層を数百のレベルで積むため(積んでから焼結するので)、位置決めが難しく製法の難易度は非常に高いものになります。
電極を塗布したシートを積み上げてから、最小ではサイズ0201(縦横それぞれ0.2mmと0.1mm)という非常に小さい個片にシートを切り分けます。未焼成のままでなければカットが難しいのです。
個片化してから焼成工程となり、焼成後に外部電極を付与しますので、個片の品質が揃っていなければなりません。高度なノウハウが必要となります。
コンデンサの容量は誘電体を高誘電化することで増えますが、高誘電材料は電圧をかけない状態で分極しているため、高周波特性や温度特性が非常に悪いものになります。従って、高い誘電率を求めるよりも、多層化し、積層数を増やすトレンドが存在します。
当然、積めば積むほどたわむわけで限界はあります。コンデンサの容量は積む以外にもグリーンシートを薄くすることで増やすことができます。
薄くすればするほどに容量は増えるのです。
2015年のIR資料では500ナノの薄さまで来ていることが村田製作所
のHPで開示されています(参照:村田製作所インフォメーションミーティン
グ2015資料の20ページ)。
チタン酸バリウムの分子の大きさは数ナノベースなので、まだ薄膜化へのト
レンドは続きます。ニッケル粒子や誘電体粒子を今後もさらに細かく小径化し
ていくトレンドが存在しているのです。2008年当時でも径20ナノ程度の
粒子作成は実現できているので粒度を揃えることができていれば、将来は、2
00-300ナノぐらいの薄さまでグリーンシートは薄くできるのではないで
しょうか。
(参照:2008年セラミック学会シンポジウム発表論文「薄膜の成膜性に及ぼすチタン酸バリウムナノ粒子分散状態の影響」牧野晃久,有村雅司,藤吉国孝,桑原誠
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pcersj/2008F/0/2008F_0_766/_article/-char/ja/)
誘電体の粒子の径そのものも重要ですが、常識的に考えれば粒の大きさのばらつきが少ないなどが総合的に(高電圧対策、高温対策、高周波対策などに)効くようです。
そして積層数を倍にすれば容量はさらに倍になります。
平坦なシートをつくり、プレスを有効利用するには様々な試行錯誤が必要でしょう。ひとつでも大きな粒子があると、あるいは、異物が混入していると、積層後にプレスをしてシート間を圧着するので、プレスのやり方やシートの出来が悪いとシートを突き破りショートしてしまいます。
=誘電体チタン酸バリウムBaTiO3=
チタン酸バリウムBaTiO3の分子構造ですがTiO2とBaOがイオン結合していると見られており、全体でイオン結合型結晶BaTiO3分子を構成します。
サイコロの中心にあるのがバリウムです。チタンは四隅にある。酸素は辺の中点にある。酸素が非共有電子を持ち、酸素側がδ-(共有結合の電子が酸素に寄ってわずかにマイナスに帯電)でバリウムやチタンなど金属側がδ+(共有結合の電子が金属から遠ざかってわずかにプラスに帯電)となっていて、酸素の配置のバランスの悪さ(3つの酸素分子の対称性のなさ)から外部に電場がない状態でも分極しています。
このような物性を強誘電体と呼びます。
ABO3(金属―金属―酸化物)となっている典型的なペロブスカイト構造です。電圧がかかるとサイコロ中心のバリウムとチタンがマイナス電極側に寄り、酸素がプラス電極側によるため、分子構造が電圧方向に歪みます。
大きな分極が生じるため、誘電率が高まるという構造です。この分極を利用して電気エネルギーを運動エネルギーに変えるのがSAWフィルターなどの圧電素子です。
この辺りは「長期投資読本」note vol.5-6で化学の基礎としてすでにご説明している箇所です。
村田製作所のベースの技術は誘電体などのセラミック材料です。
材料から製造までの一貫プロセスで参入障壁を築いてきました。
=MLCC製造プロセスの長期トレンドと利益成長への落とし込み=
MLCCの製造における長期トレンドですが、
グリーンシートの大型化(現状2022年200mm角ですが15年ほど前は100mm角程度だったと記憶している)
グリ-ンシート(誘電体とバイナダー)や金属印刷(内部電極)のさらなる薄膜化
グリーンシートのさらなる積層化
「最新の卑金属電極積層セラミックコンデンサのプロセス技術」
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejisso/30/0/30_229/_article/-char/ja/)
2016年太陽誘電開発研究所の発表によれば当時の10年間で容量は10倍になるペースで進化しているとのことでした。第30回エレクトロニクス実装学術講演大会の春季大会での会議です。
その講演会資料によれば誘電体厚は600ナノ(2016年)で積層数は600まで来ていました。チタン酸バリウム粒形は200ナノであったものを50ナノに進化させたとのこと。これは村田製作所の2017年のインフォメーションミーティング資料でも紹介されています。
村田製作所のIR資料によれば大容量22μFのMLCC(2012サイズ)が商品化されたのが2003年です。
2015年には330μFの製品を拡充(3225サイズ、X5R特性、330μF、M偏差(±20%)、定格電圧4Vの場合:品番GRM32ER60G337ME05)。
おおむね10年10倍の容量拡大のペースです。
将来の生産性の向上のペースは15-20年程度のペースでグリーンシート面積が4倍(つまり1辺が倍)で薄化が半分程度とわたしは推定しています。積層数は倍に増加しているのではないか。数字で示すと、15-20年程度でおよそ16倍の生産性を達成すると期待しています。
この程度のペースであれば無理ない巡航速度といえると思います。
内訳はシート面積の増加が4倍(グリーンシート大型化の巡航ベース)のペース。シートの薄化により15年でさらに2倍の容量成長。積層数の増加でさらに2倍のペース。4×2×2で16倍。
15~20年で16倍の生産性向上で年4倍の売上のペース。
10%程度の増収ならば増益率はそれ以上、おそらく年率平均で10-20%倍程度でしょう。
15-20年後に利益10倍というのが巡航成長とわたしは考えます。
(つづく)
山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー
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