――1990年代、岡山県北部で聞いた話。
昭和の初め、初秋の頃。
ある風の強い夜、けたたましい物音で目を覚ました。
何かが屋根に落ちてきたらしい。
物音は屋根の上でガタンゴトンと15分ほど続いた後、
やがて地面に落ちたらしく、
今度は、庭に置いていた物干し台が倒される音を耳にした。
あまりの騒ぎに家族全員が起きだしていたのだが、
おそるおそる雨戸を開けてみると、
か細い電灯の光に照らし出されたのは、奇妙の獣だった。
大きさは子犬ほど、顔は猿に似て、
しかし手足となるようなものは何もついていなかったという。
獣は人の姿を認めると、欠けた身体を器用に動かして夜の森に消えていった。
怪異としてはそれで終わりだ。
翌朝、日が昇ってから確認すると、何枚かの割れた屋根瓦が落ちていたほか、
大きな衝撃を受けたのか、屋根の一部が陥没していたのが見つかった。
―――程なくして、その地域一帯には海水混じりの雨が降り、
人々はあの獣の仕業なのだろうと噂し合ったそうだ。
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高校二年生の夏のお話
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