岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/10/31
今日は、2019/10/13配信の岡田斗司夫ゼミ「映画『ジョーカー』特集&試験に出るバットマンの歴史」からハイライトをお届けします。
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では、ここから先はネタバレで語ります。さっきの「ネタバレ注意」のフリップが出ている時は注意してください。
ここから先は、以下の3種類の人向けです。
なぜ、今日、この話をするのかと言うと、この『ジョーカー』という映画、なんだかんだ言っても見ない人が多いと思うからなんですよ。それはもったいないと思うんです。
なので、これから話すネタバレありバージョンは誰のためかというと「1.そもそも『ジョーカー』をもう見た人」。
あと「2.見る前にどんな話かを十分に吟味したい人」。つまり、全部どんな話かを聞いた上で「ああ、1800円の値打ちがあるな」と思ってから見に行きたい人。
そして「3.見るつもりが全くない人」ですね。
そういう人のために向けた「だいたいどんな話か?」という解説です。
じゃあ、ここからはネタバレです。
・・・
(「ネタバレ注意」のパネルを出す)
【画像】ネタバレ中パネル
ええと、もう、ネタバレが嫌な皆さんは音を消してくださいね? 見ちゃダメですよ?
まずは、正しい映画を見る順番です。
まず『ジョーカー』を見てください。明日でも結構です。さっきから「明日行く」って言ってる人がいるんですけど、ぜひ明日行ってください。
その次に、帰ってきたら『タクシードライバー』を見てください。
さらにその次に『キング・オブ・コメディ』を見てください。
で、最後にもう一度『ジョーカー』を見に行ってください。
この4段階で『ジョーカー』というのは出来ています。
まあ「正しい」ということはないな。これが岡田斗司夫オススメの見方です。
まずは普通に『ジョーカー』を見てから『タクシードライバー』を見て『キング・オブ・コメディ』を見て、もう一度『ジョーカー』を見る。この順番が、僕は一番オススメなんですけど。
この理由は後で説明します。
・・・
「この『ジョーカー』は、悪のカリスマ映画ではなく、悪のインフルエンサー映画だ」というふうに言いました。
どういう意味かというと……ネタバレだから話しちゃいますけども。
実は主人公のアーサーというのは、天才でないどころか、逆に障害者なんですね。子供の頃に母親の彼氏から受けた暴力が元になって、脳に障害を負ってしまった、と。
アーサーはいつもノートを持っているんです。これは彼にとって日記帳であり、おまけにコメディアンとしてのネタ帳なんですけど。そのネタ帳が、誤字脱字だらけなんですよ。この誤字脱字具合というのは、明らかに知能障害というか、そういうタイプの人のスペル間違いだったり文章なんですね。
「教育されてないから」じゃないんですよ。そうじゃなくて、純粋に「知能そのものに問題がある」んです。だから主人公アーサーは、まともな職にもつけず、友達もいないんですね。
ここら辺は、もうすごくサラッと描いているんですけど。「なぜ、彼に友達がいなくて、まともな仕事がないのか?」というのは、あのネタ帳の文字を見せたところで、だいたいわかるように出来ているわけですね。
彼は「他人を笑わせたい。幸せにしたい」とずーっと語ってるんですけど。これも、セリフでそう言っているだけであって、本音じゃないんですね。
映像的に見たら、冒頭で「ピエロのメイクをしながら涙を流す」というシーンを見せている時点でわかる通り、本音ではなく、母親から植え付けられたものなんです。
「人を幸せにしなさい」とか「そういうふうにしている時、あなたはすごくかわいいわよ」と言われ続けた。つまり、母親に植え付けられた洗脳なんですよ。
だから、冒頭のピエロメイクで笑う練習をしている時、やっぱり涙を流しちゃうわけですね。それは、抑圧されてるから。
「本人でも意図しない時に笑ってしまう」というアーサーの特徴も、なんか病気みたいに言われてるんですけど、これも脳の機能性障害ではなく、明らかに「いつも自分の本音を押し殺しているから、意図しない時に笑いが出てしまう」んです。
だから、ラストの「他人を殺して笑うシーン」では、ちゃんと、本人が意図した通りに笑えているんですね。脳の機能性障害だったら、やっぱりあの時も違う反応をしていたはずなんですよ。
押し殺されているものが解放されたから笑っている。他人を自分が殺した時に心の底から笑えるというのは、脳の機能性障害ではない証拠なんですね。
・・・
じゃあ、アーサーが「目指さなきゃいけない」と思っていた笑いというのは何かというと、これも危険なネタで。
僕は、これまでにも、このニコ生ゼミで「笑いとは攻撃の裏返しだ」と言っているんですけど。
僕らは、だいたい、ダメなヤツとか憎らしいヤツがやっつけられた時に、笑うわけなんです。
だから、それをひっくり返すといじめになる。いじめって、いじめる側が笑ってるじゃないですか。で、いじめられている側も、自分を守るために、無理矢理笑わされますよね?
笑うことで自分を守るフリをするんですけども、いじめるヤツらは楽しそうに笑う。
これ、なぜなのかというと、笑いというのは本来「ハッピーなこと」ではなくて「攻撃性の証明」だからなんですよ。
お笑い芸人の笑いというのは、いじめの要素というのをいつでもかなり孕んでいる。なので、それを指摘されると、お笑い芸人さん達はみんな逆ギレするわけですね。
Aマッソという芸人さんが、最近、ちょっと差別の問題で炎上したりしたんですけども、あの例を見るまでもなく、笑いというのは基本的に差別であって、いじめなんですね。その分「危険で面白い」んですよ。
たぶん、天国には笑いなんかなくて、微笑み程度しかないんです。逆に、地獄には笑いが溢れてると思うんですけど。
「お前、バカだな!」という言い方でも、仲のいい友達同士という関係性があれば、笑いが生まれるんですよ。
でも、それがなかったら、「お前、バカだな!」というセリフも、いじめになっちゃう。
例えば、ワンマン社長が、悪気なしに、自分の手下だと思っている社員に「お前、バカだな!」と言うと、言われた社員の中には「ワンマン社長からこんなこと言われた!」って、パワハラだと感じる場合があるんですね。
ワンマン社長にしてみれば「俺とお前は家族みたいなものじゃないか! そういう関係性があれば、こういう言葉も冗談だってわかるだろ?」と思ってるんですけど、ところが雇われている平社員の方は家族だなんて思ってないんです。
そういった関係性を否定しているから、この言葉もパワハラにしかならない。こういうことって、よくありますよね?
つまり、いじめと笑いとの差って何なのかというと「仲がいい関係が成立しているかどうか」なんですよ。
仲のいい関係が成立していたら、それは急に許される笑いになる。逆に、全く同じことを言ったとしても、彼らの間に仲のいい関係が発生してなかったら、それはいじめになってしまう。
これをちょっと押さえておいてください。
で、ここで問題です。
アーサーというのは、障害者で、知能が低いわけですね。なので、友達がいないんですよ。つまり「彼は誰からも関係を求められていない」。
「アーサーには友達がいない」ということを、さっきから繰り返していますけど、これなんですよ。アーサーというのは、誰からも関係を求められずに、みんなから放って置かれているわけですね。「お前はおとなしくしてろ!」と言われている、と。
つまり、アーサーにとっては、誰に何を言われても全てがいじめになっちゃうし、逆に、アーサーから誰かに関係を持って言おうとしても、それは全て「気持ち悪い人が、いきなり変なことを言い出した!」になっちゃう。
これが『ジョーカー』の切ない真実っていうやつなんですよ。
だから、アーサーはコメディアンになれないんです。笑いを生み出せないんですね。
だけど、いじめる側になれば、笑うことが出来る。なので、最終的に彼は社会をいじめる側に回ったんですけどね。
・・・
この映画を見てたら、途中、ゴッサムという街中で、ピエロのマスクを被って、デモをやったり暴動を起こしたりする人がでてくるんですけど。
やっぱり、ああいう人らもみんな、アーサーほどではないにしろ、周囲から求められていない人ばっかりなんですね。
電車の中にピエロ姿のヤツらが乗ってるシーンがあったんだけど、ほとんど誰も会話していない。
あれって何かと言うと「ここに乗っている1人1人が、この社会の中で孤独に生きていて、誰も友達がいない連中だから」なんですね。
だから、そんな中で一度喧嘩が起こると、もう誰にも止められなくて、ひたすら暴走していく。
あそこで喧嘩が起こった瞬間に、警官を誰かを殴った瞬間に、彼らの中に初めて敵と味方というのが発生したんです。彼らはそれまで友達がいなかった分、そこで自分の仲間というのに「ああ!」って気が付いたんですよ。
だから、彼らはゴッサムの中で、街に火をつけたりするような極端な暴動が出来るんです。
僕らは、特に男性のは、こういう孤立の仕方が多いんですね。
なので、友達がいない系の男の人らには、あの映画って、メッチャクチャ魂に来るわけです。
僕も僕で、魂に来て、これを見てる時はたまらなかったんですけどね。
だから、「タクシーですれ違う人の中に、アーサーがピエロを見る」というシーンが必要だったんですよ。
このピエロを見るシーンというのは、本当にすれ違ったタクシーの車内にピエロ姿の男がいたかどうかはわからないんですね。これは、単に、アーサーの妄想かもわからないんですよ。それが、この映画の作り方の上手いところなんですけど。
ただ、このシーンからわかるのは「タクシーの後部座席には、3人いた」ということ。その内、2人は話をしていて、その話に加わらずに窓の外を見ている人がピエロのマスクを被っていたんですよ。
これってどういうことかというと「3人で移動している最中に、仲間外れになりがちなヤツが、ピエロになる」ということなんですね。
この映画の中で「ピエロになる」ということは、つまり、「必要とされていない存在である」ということなんです。
「お前は大人しくしてろ!」と、いつも言われている人達というのが、あの映画の中では暴れる側なんですよね。
そういう人達というのは、いつもこの社会では「大人しくしてろ!」と言われる側なんです。清掃業者がストライキしてゴッサムの街がゴミだらけになっても、失業率が高くなっても、「とりあえずお前らは大人しくしてろ!」と。「頭のいい人達が解決してくれるんだから、お前らみたいなのが何か言っても始まらないぞ!」と言われているわけです。
・・・
『デビルマン』という永井豪が描いたマンガの、確か5巻だったと思うんですけど、「人間がデーモンに変身する」というデマが流れたおかげで、政府がデーモンになりそうな人間たちを駆除するという、そういう機動隊の話があったんです。
その中で、機動隊がとある地区に突入する時に「この地区の人民は、以前、政府に対してデモをしたことがある、暴動を起こすかもしれない人民である! なので、先に制圧する! もし彼らが暴動を起こさないんだったら、暴動を起こすように仕向けろ!」って言ってから、突入していくシーンがあるんですけど。
やっぱり、これは、永井豪が小柄でビビリな人間だったから描けるシーンなんですね。永井豪は、いわゆるこちら側の人間だったから、ああいう恐怖というのを描けるわけなんです。
「彼らはやがて立ち上がって襲ってくるに違いない」という恐怖から生まれたストーリーなんですよ。
例えば、煽り運転とかをした人に対して……もちろん、煽り運転をするような人達というのは、本当に嫌なヤツばっかりで許せないんですけど。でも、そういう人達に対して、またネットの人達というのは、リンチ的な「晒し」というのをやるじゃないですか。
この、リンチみたいなことをやるのも「ああいうヤツがいる」という恐怖心があるからなんですよ。
実は、さっき話したような、スマホを持って歩いている女の人に体当たりするような男も、煽り運転をやるようなヤツらも、実社会ではあんまり仲間がいないようなヤツらなんですけど。「そういうヤツらを大人しくさせておきたい」とか「そんなヤツらの正体が見えた瞬間に、みんなで潰そうとする」というのは、やっぱり、そういう人達に対する恐怖心があるからなんです。
僕らは、そういう人らに対する対処法を知らないんですね。
現実の問題の例えとして、煽り運転とかそういうのを使うと、もう本当に生々しくなり過ぎるんですけど。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」と。
「あんなヤツらは全員捕まえて、刑務所に放り込め!」って言えりゃあ楽なんですよ。でも、本当に全員に対してそれをするというのは問題ですよね。
この「捕まえて刑務所に入れろ!」というのは「僕らの見えないところへ連れて行ってくれ!」という意味なんですよ。「そういうヤツらは見たくないから、僕らの生活を邪魔しないところへ連れて行ってくれ!」と。
これは、この『ジョーカー』という映画の中で、アーサーが言われていることと全く同じなんです。
アーサーがいつも言われている、「お前らは、乱暴者だったり、知的障害だとか、障害者だったりして、この社会の中で俺達が見えるところにいたら邪魔だから、どこかで大人しくしてくれ!」というのと、全く同じなんですけど。
さっきも言ったように、僕らは、ああいう人達に対する対処法を知らないので、誰からも嫌われてたり、疎まれてたり、なんか周りから浮いている人に親しく話しかけられたら、なんかこう、逃げちゃうんですね。無視して笑うか、逃げるかしたり「大人しくしてろ!」と思っちゃうんです。
だから、劣っている者が他者と関係を持つためには「友達になる」のではなく「恐れられる存在になる」しかないんですよ。
アーサーみたいな人が周りの人間と関係を持とうと思ったら、「優しい人を探して友達になる」よりも、もっと簡単で単純なのは「怖がられる」ことなんです。
昔、落ちこぼれが暴力団に入ったのは当たり前で。子供の頃は、ある程度、クラスの中を暴力でシメたり出来るんですけど、中学生くらいになってきたら、暴力を振るってると、周りから段々浮いてきて、避けられるようになってしまう。仕舞いには、誰も相手にしてくれなくなる。そうなったら、もう、暴力団みたいなところに入って、周りからビビられることで、関係を作り直すしかなくなってきちゃうんですね。
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