岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/08/22
今日は、2019/08/04配信の岡田斗司夫ゼミ「『なつぞら』特集と、『天気の子』『トイストーリー4』ネタバレ解説、ちょっと怖い“禁断の科学”の話」からハイライトをお届けします。
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8月2日金曜日の放送は、その不入りのシーンから始まります。「映画が全然ダメでした」と。
(パネルを見せる)
もうね、社長は引退して会長になったから、新しい社長になってます。新しい社長は、スーツを着ているような人なんですけども。
そんな新しい社長から責任を問われるイッキュウさん、つまり、高畑勲は「関わったスタッフ全員の昇給とボーナスを停止します」と言われます。
その上、「以後、映画部長、つまり、映画の起草を決める部長は、本社から出向してくる管理職になるだろう」と言われるんですね。
つまり、これまではアニメーター達が自由に企画を作って「次は演出を誰がやる? 作画監督は誰がやる? どんな話をしようか?」というふうに、全て現場で決めさせてもらっていたけれど、そういう甘っちょろい時代は終わって、いよいよ管理職の人が「こういう作品を作りなさい。このスケジュールで進めなさい」と言う体制になる。
「それはなぜかというと、全て君たちの責任だ」と。「君たちが思う理想の映画を会社は作らせてあげた。その結果を見てごらん? ほら、客が全然入ってない。子供が喜ぶ? ウソつけ! 子供は映画館の中を走り回ってるじゃないか。大人も寝てるじゃないか。こんな映画を作ったからには、もう以後は、こんなことは出来ませんよ?」と。
まさに自業自得というんですかね。だから、イッキュウさんも何も言い返せないわけですね。ここでようやっと、理想の作品を作ることのリスクに、イッキュウさんは気が付きます。
その結果、辞表願いを出して「辞めさせてください」と頭を下げます。
この頭を下げての「辞めさせてください」というのは、もう、映画を見る世代によって、やっぱり反応が違うんですけど。
これを「逃げる」というふうに見る人もいるんですよ。「もうこれでダメだから、逃げるだな」というふうに見てる人もいるんですけど、逆なんですよね。
まず、社長から「関わったスタッフ全員の給料はもうこれ以上は上げないし、ボーナスも停止する」と言われたので、「私が辞めて責任を取りますので、他の人間の処分を軽くしてください」と。例えば、部長だった人を課長にするとか、作画にいた人間をどっかに飛ばすとか、そういう報復的なことはやめて、私1人の首で、みんなへの処罰は勘弁してくださいという、そういうニュアンスがあるんです。
だから、「辞めさせてください」というふうに、頭を下げて管理職にお願いしなきゃいけないんですね。頭を下げてお願いして、自分が辞めることによって、他の人に対する処罰というのを軽くしようとしているわけです。
という、中身の話は、まあまあ、見てりゃわかることなんですけど。
僕が気になったのは、ここにあるキャラクターフィギュアなんですね。「おいおい、ちょっと待てよ!」と。
(パネルを見せる)
ここにちゃんとトラとワニがいるんですよ。「お前らは、たしか『動物三国志』の、関羽と張飛だろ!」と(笑)。
これ、たぶん、ドラマの中ではこれまで出てきたことがなかったんですけど、「『動物三国志』というアニメを作った」という話があったんだから、そのキャラクター人形も、NHKの小道具係の人は作ったんですよ。でも、今まで、本編内で登場させる部分がなかった。なので、せめて「東洋動画のこれまでのNo.1ヒット作」という設定もあるしということで、小道具さんがここに置いたんだと思うんですけど。
いや、なんか、『動物三国志』のキャラクターフィギュアが見れて嬉しかったんですけど。
実は、『なつぞら』の中で東洋動画が作っている長編劇場映画には、全て、それぞれ理由があるわけですね。
最初に『白蛇姫』という中国の昔話のアニメを作るんですけど、これは何のために作っていたかというと、ドラマの中では東洋動画、現実の歴史では東映動画は「東洋のディズニーを目指す」と言ってたんですね。
ディズニーというのは何かというと、「ヨーロッパ原作のおとぎ話を、アメリカでアニメーションにして、もう一度ヨーロッパに輸出する」というビジネスだったんです。当時は、アメリカ国内だけの映画として作っていては儲からないので、あえてヨーロッパに輸出することによって儲けようとしていた。この構造を「ディズニー的」と言ってたんです。
なので、当然、東洋動画も最初は同じようにヨーロッパの童話をアニメーションにして、ヨーロッパに輸出することを考えてたんですけど。しかし、そこはもうディズニーにマーケットを取られちゃっている。
「じゃあ、中国のお話だ!」ということで、自分達でアニメにして、アジア圏に売り出そうとしていた。これが、実際の東映動画の戦略だったんですね。
なので、ヨーロッパ原作では勝てないので、アジア圏のマーケットを狙って『白蛇姫』を作った。
その次の『動物三国志』というのも、同じく、アジアマーケットを狙うための中国原作のアニメです。その後の『アラジン少年とランプの魔人』というのは、中東マーケットを狙ったものだったんですけど。
ここまでやって、東洋動画が徐々にわかってきたのは「国際的な市場で子供向けのアニメーションを作るのは、まだまだ難しい」ということだったんです。
なぜかというと、映画館がすでに完備されていて、子供を映画館に連れて行く文化のあるアメリカやヨーロッパと違って、アジア諸国では、まだまだその段階に達してないからですね。
「なので、今はアニメーションを作る実力を蓄えて、日本国内でのマーケットをもっと開拓しよう」ということで、そこから先の『わんこう浪士』……現実には『わんわん忠臣蔵』や、あとは『真田十勇士』……現実には『少年猿飛佐助』のことですけど。こういうふうに、国際マーケットというのを一時保留し、日本マーケットに集中するためにその時代劇モノを2つ作った。
これが、『なつぞら』の中での東洋動画の全体戦略です。
ここら辺は、もう、ドラマの中では説明してくれてないんですよ。
「はい、アニメファンの皆さんはわかってくださいね?」という感じで、スタッフからサインが出てるんですけども。まあ、難しいですよね(笑)。
今言ったような「アジア圏のための中国原作。それがダメだから日本の時代劇」というような移り変わりの中で、『神をつかんだ少年クリフ』という企画がいかに無茶だったかは、もうおわかりだと思います。
そりゃもう、最初から当たるはずがないんですよね。
「辞表を提出してきた。もう、俺の映画全然ダメだった。当たんなかったよ」と言うイッキュウさんを、なつは喫茶店の中で慰めます。
「大人にも見てもらえたら、大人向けだと宣伝してもらえたら良かったんだけどね」と、ここでなつは言うんです。でも、それに対してイッキュウさんは何も返しません。
なぜかと言うと、イッキュウさんは知ってるからですね。「この映画は大人も見てる」んですよ。
というのは、10歳とか8歳の子供が映画館に来る時に、子供だけで来るなんてことはありえないからです。必ず、子連れで大人も来てるんですよ。
でも、そういった大人達にも、自分の作った作品は全くアピールしなかったわけですね。だって、そんな大人達は映画館の中でグーグー寝てたわけですから。
この「大人も見てるのにダメだった」というのをどう考えるべきかというと、まあまあ、「子供向けだと宣伝されたのが悪い」ということだと思うんですけど。
またさっきの『オネアミスの翼 王立宇宙軍』の時の話になるんですけど。映画というのはね、思った以上に中身で勝負できないんですよ。「観る時の気持ち込みで映画」ってよく言うんですけど、宣伝って、映画の本編と同じくらい大事なんですね。
映画を作ってる最中は「どんな方法であろうと、映画館に呼びさえしたら、中身は観た人が判断してくれる。だから、面白いものを作ればいいんだ!」というふうに、スタッフはついつい考えちゃうし、宣伝の人もそういうふうに説得してくるんですけど、それは絶対に違うんですよ。
「こんな作品ですよ」というふうに、あらかじめ、ちゃんと宣伝しないと、みんなそういう気持ちで観てくれない。そうなると、後の世になって「ものすごく面白い!」と言われるようになる『ホルス』も、公開当時は「本当に面白くない映画」というふうになっちゃうわけですね。
今、ちょっとコメントで流れたんですけど、『この世界の片隅に』もそうなんですよ。
『この世界の片隅に』というのは、ものすごく慎重に、派手な宣伝を一切やってなかったんですね。なぜかと言うと、派手な宣伝をやって、そっち方向で観に行っちゃうと、あの感動がやってこないんですよ。
なので、宣伝というのは本当に映画と同じくらい大事なんです。だからこそ、『かぐや姫の物語』の時に高畑勲は怒ったわけですね。
『かぐや姫』の時、高畑勲は「これは“かぐや姫の物語”なんです。だから、かぐや姫の物語だけを観に来てください」と、すごく抑えた宣伝をするはずだったのに、鈴木敏夫が勝手に「かぐや姫の罪と罰。かぐや姫はなぜ地球に追放されたのか?」という、高畑勲が「それだけはやめてくれ」と言ってた宣伝をやっちゃったわけですね。
結果、映画はヒットしたんですけど。観る人はみんな「かぐや姫の罪と罰ってなんだ?」という目線で観に来てしまった。なので、高畑勲としては、それはもう本当に「生涯、鈴木敏夫を許さない!」と思ったくらい、怒ったそうなんですけど。
それくらい、宣伝というのは大事だったわけですね。
おまけに、歴史的な経緯で話すと、実は『太陽の王子 ホルスの大冒険』も、大人向けの宣伝はちゃんとやってたんですよ。まあ、なんとツラいことに。
というのも、『ホルス』というのは、実質的には東映動画の作品というよりは、東映動画労働組合の作品だったんですね。
実際は、スケジュールにしても予算にしても、会社のトップと交渉した上で、東映の労働組合が決めた予算、労働組合が決めたスケジュールの中でお話を作ったんですよ。
それはなぜかと言うと、当時の東映の労働組合というのは、すごくパワーを持っていたのと同時に「自分達で作品を管理しよう」という企みもあったからなんですね。
「会社と戦って自分達の権利を通す」というだけではなく、それと同じくらい「自分達がちゃんと管理して、面白い作品を作って儲けよう」という意識もちゃんとあったんですよ。
労働組合のみんなが集まる総会の中で「本当に良いものを作ればヒットするはずだ!」という結論を全員が共有していた。そういう意見が大多数だったので、その実験作品として『太陽の王子 ホルス』というのは作られたそうです。
これ、大塚さんの『作画汗まみれ』という本に書いてあって、僕は結構ビックリしたんですけど。
(本を見せる)
労働組合の実験作品として作ったものなので、実は作品の宣伝や動員も、労働組合がいろいろ手を尽くしてくれていた。だから、「これは大人向けの作品だ」ということまで含めて、労働組合の組合員達は宣伝してくれたし、チケットも配ってくれた。
でも、ダメだったわけです。そこまでやっても『ホルス』というのは、ヒットしなかった。
なので、労働組合がそれまで信じていたコンセプト、「本当に良いものを作れば、観客はやってくるんだ」という大前提が崩れてしまって、労働組合は、この後、徐々に力を失っていき、『ホルス』のような作品は二度と作れなくなっていくという、こういう大きい悲劇が待っていたわけです。
でも、『なつぞら』の中では「『クリフ』がダメだったから、長編映画はもう作れない」みたいに描かれてるんですけど。
この『作画汗まみれ』の中で、大塚康生さんは「実際には、東映動画側もオリジナルの長編アニメは『ホルス』が最後だと、最初から言ってた」と証言しているんですね。
「もう、長編作品はできない。以後はマンガ原作のものをやるか、テレビの方に集中する」というふうに、管理部の方は最初から言ってた、と。だから、最初から、俺達は確信犯的に好きなことをやるつもりだった。会社の言うことは聞かずに、自分達が本当に良いと思う作品を、これで長編アニメは打ち切りだから、一生に1回だけ、自分達の好きなものをやってやれというつもりでやった、と。
だから、『なつぞら』のドラマの中で描かれているように、アニメーター達というのは無力で、会社の言いなりになるしかないという存在ではなかったんです。もっとしたたかだったんですよ。
「これで最後なんだったら、予算とか全部取っ払って、自分達の好きなことをやってやれ!」という大実験をやって、その結果、ボロ負けしたという。そういう、アニメーターの方もしたたかだったというところが面白かったですね。
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