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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『攻殻機動隊』解説:世界初?「ハッキング」の場面をわかりやすい絵として描いたシーン」

2019/07/06 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/07/06

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/06/16配信「『攻殻機動隊』講座・第2話徹底解説(後半)」の内容をご紹介します。
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2019/06/16の内容一覧


『攻殻機動隊』エピソード2解説

(パネルを見せる。37ページ)

 イシカワのフチコマを操りながら、例のやり手のガードマンは「何てあいまいな照準装置を使ってやがんだ」と怒ってます。
 この男がイシカワをコントロールして、フチコマでサイトーたちを撃ってるんですけど、なかなか弾が当たらないので「照準が甘い!」と怒ってるわけですね。
 サイトーは、「イシカワ、イシカワ! 何、寝ボケてやがるッ!!」というふうに呼びかけるんですけども。

 はい、この辺が、『攻殻機動隊』において「ハッキングしている」という場面を、絵としてわかりやすく描いた、おそらくは世界最初のシーンです。

 まず「やり手の警備員がイシカワの脳に侵入して通信していることを、サイトーが見ている」と。
 このハッキングの様子を視覚的に表現したフラッシュみたいなものは、右から左に流れています。
 日本語のマンガというのは、基本的に「右から左に読む」んですよ。なので、主に右に原因があって、左にその結果がある。上に原因があって、下に結果があるという流れに、だいたいなっています。
 次のシーンでもそうですね。この「警備員 → サイトー → 草薙素子」の順にハッキングが流れるシーンでも、右上に原因である警備員の顔があって、その左下には結果である草薙素子の顔が来る、という流れになる。

 それ以外にも、キャラクターが左側を向いている時は「何かを前進させる、進める」という時であって、反対に、右側を向いている時は「何かの力を止めようとしてる」という時だというふうに覚えておいてくれれば、まあ歌舞伎の上手・下手みたいに、お話が受け取りやすくなると思います。

 つまり、警備員が、この片目のサルのようなサイトーという男の頭の中に侵入しようとしいているんですね。
 この、侵入しようとしている流れを表すフラッシュの中にも、英語みたいなものでなく、バーコードみたいなものだけを書きこんで、「これはデジタル通信だ」ということを表現しようとしています。
 ということで、フラッシュが、すでに脳を支配されているイシカワを通り過ぎて、それを発見したサイトーまで達し、彼も操作されることになります。
 サイトーは、「少佐! 警備員が洗脳装――」と言おうとしてるんだけど、この瞬間に、彼の脳の中に警備員が侵入してるんですね。サイトーを操作した上で、草薙素子の脳の中にまで入ろうとしている。
 それに気が付いた草薙素子は、「フチコマ、回線を切れ! 閉鎖モードに――」ということで、回線を切ろうとしてるんだけど、すでに彼女の中にも、このガードマンが入って来ています。

 で、これが「攻性防壁」というやつですね。
(パネルを見せる。38ページ)

 いわゆる、自分の中に入られないために築いているはずの壁が、同時に、入ってくる相手を攻撃する武器にもなっているという仕掛けです。

 前のページで、草薙素子は、一生懸命、何かのスイッチを入れようとしているんですけど、なかなか押せない。これは、もうすでに彼女も操作されているからですね。
 ただ、草薙素子は、なんとか警備員からの侵入を攻性防壁によってはねのけます。
 そして、その隙に……これ、「ザザザザ」と地面に倒れ込む時に、左手に何かを持ってるんですけど。「フチコマの中で、何かのスイッチを入れる」んじゃなくて、「フチコマのユニット全体から、たぶん、そういう装置を引き抜いちゃってる」んでしょうね。
 イシカワやサイトーというのは、フチコマの中にいながらハッキングに対応しようとしたんだけど、草薙素子は、フチコマから飛び出すことによって、強制敵に接続を切って、潜入されるのを防ぎました。

 フチコマから出た草薙素子は、「攻性防壁より速く侵入できるとは……!」とつぶやきます。
 そして、「フチコマ、奴が使ったゴースト侵入鍵を複製して奴に逆流させろ。アクセスしたら攻性防壁を突っ込んでやれ!」、つまり「同じことをやり返せ」とフチコマに指示します。

(パネルを見せる。39ページ)

 すると……はい、さっきの復習です。
 フチコマからサイトーを通って、次にイシカワを通って、最後にガードマンのところにフラッシュが流れます。
 これも、さっきと同じです。フチコマが原因で、このガードマンが結果。「日本のマンガにおいては、必ず時系列、因果関係というのは右が原因で、左が結果になる」という流れになっているわけですね。

 次のコマで、警備員の左肩に付いている何かの機械が爆発します。
 たぶん、これは「無理やり侵入された時のヒューズ」みたいなものでしょうね。家庭で電気を使い過ぎるとヒューズが飛ぶみたいなもので、こういう装置を肩につけてたから、こいつはフチコマに逆侵入されなくて済んだんですね。
 その瞬間、サイトーとイシカワへの操作が消えて、「野郎ォ、よくも!!」ということで、イシカワはガードマンがいる場所へ向かってバンバンと弾を撃つことになります。


警備員(やり手):危ねえ危ねえ。身代わり装置(アクティブプロテクト)をつけといてよかった。あのヘンな女隊長をおさえねば――


 この頃の士郎正宗先生は、まだちょっと読者に親切です。何かをやった後には、必ずこうやって理由を説明してくれます。
 後に2巻になってくると、これを全く言ってくれなくなるんですよね。よく『攻殻機動隊』について「1巻はまだわかるんだけど、2巻がわかりにくい」と言われるのは、こういうフォローをもう一切しなくなってしまったからなんですよ。一般読者を割りと置いてけぼりにしちゃったんです。
 ただ、こういう説明は、ダサいはダサいんですね。この描写だけで本来わかりそうなものを、「身代わり装置をつけておいてよかった」というセリフを入れることによって、ちょっとダサくなっちゃうんです。

 そうこうしている間に、草薙素子は足元にデコイを仕掛けて、ようやっとマンガ内で初登場する「光学迷彩」を起動させます。

 この光学迷彩というのは、単行本の中では、オールカラーの第1話、最初に部長が草薙素子を目撃する話の中に出てきた、映画とかでもよく使われている「草薙素子がビルの中にスーッと消えていく」シーンが初登場だと思うところなんですけど。
 一番最初にも言いました通り、あの第1話というのは、全てを描き終えた後、単行本に収録する際に描き下ろされたものであって、実は光学迷彩というアイデアがこの作品の中で初めて出てくるのは、このシーンなんです。

 このシーンでは、草薙素子は、全身をちゃんとこういう服で覆っています。顔にも、こんなフードを付けています。
 光学迷彩というのは、あくまでも、柔らかいモニターで出来た生地と言うんですかね? よく僕らは「次の時代には折り曲げることが出来る液晶モニターが現れる」みたいなことを言うんですけど、これはもう布状になった液晶モニターなんですね。
 それを着て、そのモニターに真後ろの風景を映すことによって、まるで姿が消えたように見せている。この時点での光学迷彩というのは、そういうすごく原始的なものです。

 で、やり手のガードマンが「ザザッ」と出てきて、草薙素子を狙うんですけども。
(パネルを見せる。40ページ)

 「あの女隊長をなんとかしなければ」ということで、彼女を追い詰めたつもりが、そこにあるのは「DUMMY」って書いてある囮なんですね。
 そして、次の瞬間、何か目に見えないもの撃たれます


警備員(やり手):姿も音も熱もない? 京レの「隠れ蓑」か!?


 というふうにビックリします。この「隠れ蓑」というのが光学迷彩のことですね。


警備員(やり手):わかった降参する! 脳は傷つけないでくれ!! お互いプロだろ。仕事でやってるだけだぜ。
草薙素子:洗脳装置とゴースト侵入鍵(プログラム)素子。


 これが、草薙素子の要求ですね。「洗脳装置とゴースト侵入鍵素子を渡せ」というふうに、名詞だけで要求します。
 それに対して、「わかった、渡す。別に大事なものじゃない」と、こいつはすでに降参態勢に入っている。彼も優秀ですね。

 なぜ、彼がこんなに素早く降参したのかというと。
 さっき、侵入を解除された時には「勝てるかどうかわからない。実力は半々くらいだろう。ひょっとしたら俺の方が上かな?」と思ってたんですけど。戦いを始めてみたら、相手の持っている装備が明らかに自分の想定を上回っている。
 彼は彼で、軍の最新装備を持っているんですけど、「おそらく、この女隊長は実験段階のものを持っている」ということで、「あっ、これはもう敵うはずがない」と、プロの判断をします。
 プロというのは、実力差とか装備差があれば、簡単に「じゃあ、もう、お互いプロだから、戦うのをやめよう」と言って、交渉を始めるんですね。


草薙素子:5時間ほど前、ハッカーを焼いたか?
警備員(やり手):それは知らん。もし焼いたとしても通常の対応なんだよ。あんたら一体何なんだ!?
草薙素子:洗脳なんてのが大っ嫌いなゴーストさ。電脳倫理侵害現行犯で逮捕する。


 政府の組織にガードマンとして入っているから、自分達がこんなふうに襲われることを全く想定してなかったんですね。だから、彼は驚いているんです。
 ここまでで、ほぼアクションシーンは終わりです。

 僕が面白いと思ったポイントは、やっぱり、ちょっとした説明的なセリフを入れてるところなんですね。
 「姿も音も熱もない?」という、この言い方。つまり、この人はプロとして、まず相手を見ようとして、音を探ろうとして、おまけに「どんなに身を隠しても、熱は出るだろう? 赤外線くらいは出るだろう?」ということで探したんだけど、見つからない。
 熱までも遮断しているということで、完全な光学迷彩というのがわかり、「京レの隠れ蓑か!?」と。ここで降参しているところが、まあ流れとして面白いところです。
 一応、「※全天候型熱光学迷彩の商品名。京レはメーカー名」と、こういうふうに脚注とかを入れてくれるところが、この頃の士郎正宗の親切なところですね。

(続きはアーカイブサイトでご覧ください)

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