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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「おさえておきたい古典的教養『アルジャーノンに花束を』解説」

2019/06/24 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/06/24

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/06/09配信「「南キャン山ちゃん結婚」『なつぞら』『進撃の巨人』など時事ネタ+アスペルガーを天才にする脳治療レポート!」の内容をご紹介します。
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2019/06/09の内容一覧


『アルジャーノンに花束を』解説

 今日は『ひとの気持ちが聴こえたら:私のアスペルガー治療記』という本の話です。
 2300円+消費税で、ジョン・エルダー・ロビソンという、この治療を受けた本人が書いてます。
 すごく文章が上手い上に、翻訳もいいので、Kindleでもさらっと読めました。
 だけど、Amazonにも書評がまだ1つも投稿されていないので、読んだ皆さんは、出来れば書評を書いてあげてください。
 その時に一言「岡田斗司夫ゼミで見たけど~」と書いてくれたら、僕はちょっと嬉しいんですけども(笑)。
 まあ、本当に読みやすい本なので、よろしくお願いします。

 内容を一言でいうと「他人の気持ちというのが全く理解できず、人間の顔色とか表情も読めないアスペルガー症候群の男性が、脳への電磁波の放射という治療実験を受けて、一気にそれらが理解できるようになる」という話です。
 しかも、それは「普通の人みたいに他人の気持ちを理解できる」というレベルを突き抜けて、「普通の人が見ても超能力者かと思えるほど、顔とか目を見ただけで、相手の人の気持ちや考えまで読める」ようになってしまったわけですね。

 しかし、この治療法の欠点は、効果は永遠に続かないということです。その効果は、短い場合はたった15分間。長くても数週間で消えてしまいます。
 主人公のロビソンは他人の気持ちがわからず、これまで友達というのが出来たことがない。どんなに仕事で成功しても、結局、自分には友達が誰もいなくて、パーティーとかに行っても、いつも爪弾きになってしまう。
 こういう男に、果たして友達が出来たのだろうか?
 あるいは、治療実験で得たそれらは、やっぱり全て消えてしまって、後にはもともとのアスペルガー症候群の男だけが残ってしまったのだろうか?
 そんな話です。いいでしょ? これ。

 ここまでの話を聞いて、『アルジャーノンに花束を』という小説のことを連想する人も多いと思うんですね。

(中略)

 この『アルジャーノンに花束を』も、古典教養だと僕は思っているので、知っている人は退屈かもしれないですけど、ちょっとまとめを喋りますから聞いてください。

 『アルジャーノンに花束を』の作者、ダニエル・キイスは1927年生まれです。アメリカニューヨークのブルックリンで生まれました。
 その頃のニューヨークのブルックリンというのは、マジでヤバいところで。まあまあ、マフィアの巣窟みたいな、わりとガラの悪いところです。
 彼は、高校を中退して船乗りになって、後にシティ・カレッジというところで学位をとって、国語の先生になりました。「アメリカでの国語の先生」なので、英語の先生ですね。

 その後、ニューヨークで勉強を教えてたんですけども。23歳でマーベル・コミックの前身であるアトラス・コミックというところに就職しました。
 アトラス・コミックに就職した当時の上司は、あのスタン・リーです。後にマーベルで伝説的なアメコミ原作者となるスタン・リーの下で彼も編集者になって、いくつかのアメコミの原作を書きました。
 それでも、やっぱりあんまり売れなかったんですね。

 売れないまま1958年、31歳の時に、短編のちょっと長い小説『アルジャーノンに花束を』を書き上げて、SF雑誌に売り込みました。
 たしか、『ギャラクシー』ってSF雑誌に売り込んだんですけど。ところが、そこでは「これ、結末が暗いよ。掲載してほしいんだったら、ハッピーエンドに変えて」と言われたんですね。
 とにかく、自分では「自信作で、すごいのが書けた」ってわかってるんですよ。なので、掲載して欲しさにラスト変えようかと思ったんですけど。友達のSF作家に見せたら「これは絶対に変えちゃダメだ!」と言われて、他のSF雑誌に売り込んで、なんとか掲載してもらいました。
 そしたら、SF界では最高栄誉といわれるヒューゴー賞を取って、もう本当に大評判になったんですね。

 1968年にはハリウッドで映画化もされました。主演のクリフ・ロバートソンという男は、アカデミー賞の主演男優賞を取りました。
 アカデミー賞主演男優賞って、当時はやっぱりすごいんですよね。クリフ・ロバートソンという俳優は、それで大金持ちになって、そのお金で原作者のダニエル・キイスから、『アルジャーノンに花束を』の映画化権というのを何十年間か買い取って、自分の権利にしてたんです。
 確かこれ、当時クリフ・ロバートソンが権利を持っていたので、日本でテレビドラマ化する時にも、交渉するのがすごく大変だったと聞いています。

 僕も、ガイナックスの社長だった時、1980年代の半ばだと思いますけども、山賀博之が「『アルジャーノンに花束を』をアニメ化したい」と言ったので、僕はクリフ・ロバートソンに会いにアメリカまで行ったことがあるんですね。
 ところが、クリフは日本でアニメ化することに関して何も興味がないんですよ。「そんなことで映像化したくない」と。
 「それより俺は、アカデミー賞の男優賞を取ったんだから、また自分を主役にして続編を作りたいんだ」と。「日本人は金持ってるんだろう? アニメみたいなことじゃなくて、俺に出資して、『アルジャーノンに花束を』の続編をやらないか?」と、それだけを言うんですね。
 クリフ・ロバートソンって、どうも、これまでにも『アルジャーノンに花束を2』の企画を、いろんなところに売り込んでたみたいなんですけども。どこも「いや、主人公のチャーリーが、もう一度天才になった後で知能が低くなる話なんて、誰も見たくないよ」と言われてダメだったそうなんですよ。
 なので、日本から「アニメ化したいんですけど」と来た、どう見ても大人ではないガキみたいなヤツにも、そういうふうに返事をしたんだと思うんですけど。

 まあ、こういうことの繰り返しだったそうなので、なかなか再映画化が難しい。
 再映画化ね、確かフランスでもやってるんですけど、交渉が大変だったみたいです。

 お話の内容はというと。
 主人公は、知的障害を持つ、つまり知能が低い青年・チャーリー。たしか「知能指数が67、8」というふうに書かれていたと思うんですけど。このチャーリーは「賢くなって、周りの友達と同じになりたい」とずっと思っていました。
 彼はおじさんの経営するパン屋で働くかたわら、知的障害者の専門の学習クラスに通う、まあ真面目な子だったんですね。
 他人を疑うことをせず、周りに笑顔を振りまいて、誰にでも親切であろうとする。身体は大きいんだけど、子供みたいな心を持った優しい性格の青年だったんです。

 しかし、彼のクラスの担任であった、アリスという先生は、実は大学教授でもあるんですけども、その人が開発されたばかりの脳手術を受けるようにチャーリーに勧めてきました。
 彼より先に動物実験の被験者として、この脳手術を受けたハツカネズミのアルジャーノンは、驚くべき記憶力、思考力を発揮して、迷路なんか、あっという間に解いてしまうんですね。
 チャーリーと競争させたら、知能の低い青年チャーリーよりもはるかに速く、ハツカネズミのアルジャーノンは迷路を解いてしまう。
 なので、チャーリーは「アルジャーノンなんか大嫌いだ!」と言いながらも、「僕もアルジャーノンみたいに賢くなりたい」と思いました。
 ということで、彼は手術を受けることをOKして、この手術の人間での臨床試験の被験者第1号になります。

 手術は成功して、チャーリーのIQは68から徐々に上昇し、数ヶ月でIQ185に達しました。
 実際、IQというのは「同じ年齢の人間に対して、どれくらい先んじて物事が学習できるか?」という枠みたいなものなので、知能指数140以上は無意味だって言われてるんですけどね。
 だから「知能指数200とか250の天才」とか、よく言うんですけど、まあ、それはいわゆる「出力120%!」みたいなもので、景気が良いと言うだけで、あまり意味はないんですけども。
 まあ、IQ68だったところから、185の知能指数を持つ天才になりました。

 チャーリーは、大学で学生に混じって勉強することを許されて、知識を得る喜びや難しい問題を考える楽しみを覚えていきます。
 しかし、頭が良くなるにつれて、悲しいことに、これまで友達だと信じていた周りの人達が、仕事仲間に騙されて損な仕事ばかりやらされて、周りはそれを笑っていることに気がついてしまうんですね。
 「実は、自分は知能が低いことが原因で本当の母親に捨てられていた」という、知りたくもなかった事実も知るようになってしまいます。
 同時に、知能指数は上がったんですけど、チャーリーの感情は、まだ幼いままなんですね。なので、突然、急成長した天才的な知能と、幼い感情とのバランスが取れず、周囲への妥協を知らないまま正義感を振りかざして、自尊心がどんどん高まって、周りの人達を見下すようになっていくんですね。

 その結果、周囲の人が離れていく中で、チャーリーは手術前に抱いたこともなかった孤独感を抱いてしまいます。
 手術をする前は「僕はバカだから、もっと賢くなりたい」と言いながらも「僕にはいい友達がいっぱいいるんだ!」ということで、孤独感を感じたことがなかったんですよ。お母さんに捨てられてたんだけど、それにも気がついてなかった。
 でも、そこから、どんどん孤独感を抱いてしまう。
 さらに、忘れていた記憶、未整理だった記憶、これまであんまり思い出していなかったことまでも、奔流のようにチャーリーを襲うようになりました。

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