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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「日本の方がまだマシだった?18世紀ヨーロッパの悲惨な医療」

2019/05/27 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/05/27

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/05/12配信「【特集】『世にも奇妙な人体実験の歴史』」の内容をご紹介します。
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2019/05/12の内容一覧


『世にも奇妙な人体実験の歴史』 「18世紀以前のヨーロッパの悲惨な医療」

 ということで、今日は『世にも奇妙な人体実験の歴史』という本の話をします。
(本を見せる)

 自分の身体を使って研究した科学者たちの話です。まさに、マッド・サイエンティストの話だよね。

 特に、冒頭に取り上げられているジョン・ハンターという人。
 これ、わかるように付箋を貼って来たんだけど。付箋が1つに見えるよね? 実は2つなんだよ。ジョン・ハンターについて書かれた部分って、実はこの本では18ページしかないんだけど。もう、ニコ生3回分で取り上げれるくらい面白過ぎるんですよね。
 あまりにもジョン・ハンターが面白過ぎたので、僕、『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』という、このジョン・ハンターだけを書いた本を読んだんだけど、こっちも、もうメチャクチャ面白くて。

 これを全部取り上げるために、付箋を貼りながら読んでて。本当に、今週は本を読むのが止まらなかったんだけど。

 まあまあ「どんな話か?」からやっていこうか。

 さて、18世紀の終わりから19世紀というのは、一般には科学の時代というふうに言われてる。
 18世紀の後半くらいから、ヨーロッパ社会は本格的に科学時代に入って行ったんだけども。そんな科学の中でも、唯一、医学のみが、こと実用という意味では遅れていたんだ。

 『ターヘル・アナトミア(解体新書)』ってのがあるじゃん?
 この『解体新書』というのが日本で訳されたのが1774年。18世紀の後半なんだけど。これを読んだ杉田玄白は「ああ、日本の医学は西洋に比べて大きく遅れてる!」って思ったそうなんだ。
 しかし『ターヘル・アナトミア』の原本は、ドイツで1722年に出版されていたもので、杉田玄白が訳したのは、12年後の1734年にオランダ語に翻訳された版なんだ。
 なので、『解体新書』の中には、実は誤訳が多いんだよ。なぜかと言うと、元のドイツ版がオランダ語版に翻訳された時に、すでに翻訳の間違いが何箇所もあったから。そうとは知らず、杉田玄白がそのまま信じて、訳しちゃったからなんだけど。
 まあ、その『ターヘル・アナトミア』を見て、杉田玄白達は「ヨーロッパの医学科学は進んでる! 日本は遅れてるんだ!」というふうに嘆いた。

 しかし、とんでもない。実は杉田玄白が翻訳した時代、18世紀のヨーロッパというのは、紀元2世紀のローマの時代の医師ガレノスという人が提唱した間違った医学というのを、いまだに信じてたわけだ。……紀元2世紀だよ?
 このガレノスというのは「解剖学をベースに近代的な医学を確立した」という、まさに医学の父と言われてるんだけど。なんかね「解剖学をベースにしてた」というのは本当なんだけど、ガレノス自身は、生涯、人間を解剖したことがなかったんだよ。
 動物しか解剖したことがなかったんだよね。動物を解剖して、臓器を見て「たぶん、この臓器はこんな役割だろう」と考えてた。
 それも、この臓器の役割っていうのを……ガレノスというのは、もともとローマ時代の医者なんだけど、それまた前のギリシャ時代の医学の信奉者だったもんだから、そのギリシャ時代の医学にピッタリ合うように自己解釈して読んでたんだよね。

 ギリシャ時代の医学には「四体液説」というのがあるんだ。
 人間には、胆汁とか、血液とかさ、そういう4種類の液体が流れている。「この4種類の液体のバランスの狂いによって、人間は病気になってしまう」という考え方が、ギリシャ時代の医学にはあったんだけど、
 ガレノスはそれを、それを紀元2世紀のローマ時代に、動物の解剖をしながら「その四体液説によると、この臓器はこの役割に違いない」と調べながら、犬とかネズミとかの動物の解剖結果から、人間についても書いていた。

 だから『ターヘル・アナトミア』というドイツの医学書が、この時代の書物としては、ちょっと変な物だったんだ。
 当時のヨーロッパにも、そういった医学書を読んでいる人というのは多かったんだけども、あくまで「チラチラと読んで、それをガレノスの四体液説に当てはめて考える」という人が、すごく多かったわけだよね。
 18世紀のヨーロッパの医者のほとんどは、ローマ時代の医者の学説をそのまま信じ切っていたので、実は、この当時発見された最新の科学的な成果というのは、まだまだ医学の世界には降りて降りて来ていなかった。
 だから、この話の舞台となるイギリスのお医者さんにも、『ターヘル・アナトミア』を訳した杉田玄白並の知識を持っていた人なんて、ほとんどいなかった、と。

 なぜかというと、18世紀の当時の医者の試験というのは「ラテン語の面接」だけだったんだよね。
 ラテン語が出来るかどうか? つまり、ラテン語で書かれたガレノスの四体液説の本が読めるかどうか? それを理解しているかどうかというのを教師に聞かれて、それに口で答えられたらOKみたいな状態だったんだ。
 その試験をパスしたら、あとは何年間か修行をすれば医者になれるということね。

 この時代のヨーロッパにおける医者というのは、「内科医」のことだったんだよ。内科のお医者さんが「医者」というふうに言われ、外科医というのは存在しなかった。
 そうじゃなくて、「床屋外科業界」というふうに言われたり「床屋外科組合」というのがあった。
 僕らは、なんとなく「床屋さんのサインポールが赤・白・青の三色がクルクル回っているのは、昔は床屋さんがお医者さんを兼ねてたから」という雑学の知識は持っているんだけど、それがなぜかはあんまり知らないよね?
 そもそも、当時の医者というのは、患者を触ったりしないんだ。そういうことは下賤な人間のすることであって、脈をとるのも、下男がやったりする。そういったお付きの人の報告を聞いて、ガレノスの知識と頭の中で照らし合わせて「じゃあ、この薬を出しましょう」と言って、効き目のない薬を出すというのが医者の仕事だったんだ。

 で、ガレノスの四体液説に沿って「ああ、ここの部分の体液が高まり過ぎているから悪いんだ」といったら、瀉血という、こう、血管をバーンと切って血を出すという治療をするんだけど。
(パネルを見せる)

 この血管を切る治療、腕のある部分を切って血を出すという治療行為をやるのが床屋外科という人たちだったんだよね。そういう人たちをまとめて「床屋外科業界」と言ったんだけど、こういった医学が本当に行われていたんだよ。

 日常的にナイフとかカミソリを扱い慣れている床屋さんが、床屋外科組合というのを作って、瀉血のような治療をしていた。
 その他には、さっきも言った内科のお医者さんが薬をくれる。その薬も、もう3種類しかなかったんだ。
 まず、いわゆる浣腸とかをする下剤と、あとは嘔吐させるための薬。そして、水銀。水銀というのは、はっきり言って毒だし、もちろん口に含んだら歯が抜けたり、いろんな悪い事が起こるんだけど。この3種類くらいしか出さなかったんだ。
 それでもダメだなら、床屋さんが呼ばれて、こんなふうに血を抜かれるというのが当時の医療でした。

 そんなふうに「病気を治すには悪い部分の血を抜くしかない」というふうに、本気で思われていたんですけど。
 この瀉血という行為についても、実は100年近く前の17世紀、1600年代に、ウィリアム・ハーパーという人が血液循環説というのを唱えて「悪い部分の血なんてない。全身の血は心臓から始まって心臓に戻ってくるわけであって、腰が悪いからといって、腰の血を抜いても無駄です」と発見しているし、もう論文にも書いていたんだよ。
 みんなも、その論文は読んでいるんだけど。ところが、それを読んでいたとしても、みんなガレノスの四体液説というのを信じちゃっていた。
 つまり、まず、絶対の聖典というものがあって、その他に異端かもしれない本というのがあって、それらを読み比べることで、なんとなく自分の立ち位置みたいなものを決めてた。そういうふうな時代だったんだ。

 だから、ウィリアム・ハーパーが血液循環説を発表してから100年後の18世紀のロンドンでも、多くの医者や外科医が「悪い部分の血を抜く」という治療法で患者の命を縮めていた。
 つまり、「内科のお医者さんにかかったら毒薬を処方されるし、外科のお医者さんにかかると、気を失うまで血を抜かれる」と(笑)。
 これ、本当に気を失うまで抜いて、気を失わなかったら、女の患者さんが「もっと抜いてください!」って言ってたような時代だから。
 この、血液循環説という学説はあったし、『ターヘル・アナトミア』のような正確な解剖学の知識はあったんだけど、それを正しく応用する医者というのはほとんどいなかった。
 それが、18世紀の医学界です。

(続きはアーカイブサイトでご覧ください)

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