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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『風立ちぬ』解説:堀越二郎の「良心回路」、もう1人の天才、本庄季郎」

2019/05/08 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/05/08

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/04/21配信「【風立ちぬ】完全解説・堀越二郎を誘惑する3人の悪魔」の内容をご紹介します。
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2019/04/21の内容一覧


『キカイダー』と『風立ちぬ』

 (『風立ちぬ』について)前回、関東大震災まで話しました。その後、主人公の堀越二郎が東京大学に行くようになると出てくるのが、友達の本庄という男です。
 この本庄という男はですね、わりと最初からラスト近くまで登場する、主人公・堀越二郎の親友でありライバルであるという大事な役回りで、いわゆる『ルパン』における次元大介みたいなポジションだと思います。

 本庄のモデルになったのは「一式陸攻」という爆撃機を設計し、「堀越二郎とたった2人で戦前の日本航空業界を世界レベルに引き上げた天才」と呼ばれる実在の人物、本庄季郎という人です。ちょっと珍しい名前ですね。
 この本庄くんは、実は宮崎駿の初期案では、もっと活躍するはずだったんです。宮崎アニメで初の「バディモノ」になるはずだったんですね。「2人で力を合わせて」というか、「2人でこの世の中をいろいろ見ていく」という話になるはずだったんですよ。

 なぜ、バディモノになるくらい大事な登場人物だったのかというと「実は本庄の役割というのは「ジミニー・クリケット」だったから」なんですね。

 ジミニー・クリケットとは何か? これは石ノ森章太郎の『人造人間キカイダー』の第1話です。
(パネルを見せる)

 ここに「良心回路、悪い命令には絶対従わないロボットの心を作るのだ!」というセリフがあるように、博士はキカイダーのために「良心回路」というのを作ります。
 そして、その良心回路を「ジェミニ(双子星)」と名付けると言います。

 では、なぜ、自分のロボットの良心、悪いことはしないというものにジェミニと名付けたのかというと「この『人造人間キカイダー』の原作は『ピノキオ』だから」なんですね。
 これはもう、『キカイダー』の最終回のラストのコマで「ピノキオは人間になれて、果たして幸せだったのか?」というセリフがあるくらいなんですけども。「人間になりたくて、人間の心を手に入れようとした木で作られた人形が、一生懸命戦っていく」というお話なんですね。

 この『人造人間キカイダー』はでディズニー版の『ピノキオ』が原作です。
 ディズニー版の『ピノキオ』では、女神様によって動く力、生きていく力を与えられたんですけども、ピノキオには善悪がわからないと。なので、コオロギのジミニー・クリケットがお目付け役としてつくんですね。
 ジミニー・クリケットは、まだ生まれたばかりで、まだ善悪がよくわからないピノキオに「それはしてはダメだよ」とか、「それはしてもいいよ」というのを教えてあげるという存在です。

 『風立ちぬ』の堀越二郎も、天才ゆえに複雑な善悪がわからないんですね。「下級生をいじめるヤツは悪い」という、単純な善悪の世界に生きている。
 そして、二郎というのは、もともと設定されていたキャラクターとしては「あまり自分の内面を語らず、そもそも口数自体が少ない」というものでした。なので、本庄がジミニー・クリケットとして、「これでいいと思うのか?」とか、「お前はこれを矛盾だと思うか?」と問いかけることで、作品の中の社会性とか、戦争の問題というのを描く予定だった、と。
 堀越自体は、あまり内面がわからない男として描かれるんですね。なので、本庄の方から問いかけるような形、もしくは喧嘩を吹っかける、問答するような形で語りかける。それに対して、二郎が「何も考えていないようだけど、何かあるのかな?」というふうに答えることで、観客に問いかけていくようなお話として作っていくはずだったんですよ。

 つまり、言っちゃえば、堀越二郎はナウシカみたいなもので、本庄はクシャナみたいなものだったんですね。
 ナウシカというのは、単純な正義感で動くんですけど、クシャナというのは「そんなことで王道楽土が築けるのか?」とか、「それで他人がついてくると思うのか?」とか、「結局それでは生き残れないではないのか?」というふうに、ナウシカに関してちょっと難しいことを言うんですね。
 本庄というのも、当初はそういう役割だったんです。こういったバディムービー的な相棒映画みたいなキャラ配置というのを、初期では予定していたんですね。

 これは、そんな本庄の初登場シーンなんですけど。
(パネルを見せる)

 東京大学が、関東大震災の火事で燃えた時、東大の図書館の本も燃えてしまった、と。この本庄は、さっきから図書館から本を運び出すことに必死になって、すげえ働いてたんですけども。休憩の時には、座り込んでタバコを吸い始めるという無神経さを見せてます。そんな、わりと豪快な男なんですけど。
(パネルを見せる)

 これはその2年後、卒業間近です。東京大学の学食で、ご飯を食べてますね。サバの味噌煮ばっかり食べてる二郎に、本庄は怒りながら、「今や世界はジュラルミンの時代に来ているんだぞ! お前も肉豆腐を食え!」と言うんですね。
 ここ「肉を食え!」ではないんですよ。やっぱり当時は貧しいから、「肉豆腐を食え!」くらいしか言えないんですけども。
 このシーンは、後に出てくる「機体全部がジュラルミンで作られた「ユンカースG-38」という機体を見せられてビビってしまう」というシーンの伏線にもなっているんですね。

 まあ、こういうふうな形で、二郎に対していつもいつも何かを問いかけていって、現状を確認する。社会性を確認する役割だったんですけど。
 しかし、主人公の二郎くんは、お箸でサバの骨をつまみ上げて、その骨の曲線の美しさにうっとりしているんですね。
 それだけではなく、早速、教室に帰ってサバの骨の曲線を写し取ります。
(パネルを見せる)

 サバの骨を紙に置いて、その上を鉛筆でなぞって、この曲線を綺麗に写し取って行くんですね。

 このシーンで堀越二郎は嬉しそうに、「本庄、我発見せりだ。サバの骨と同じ曲線が「ナカ」の規格にあるぞ」と言うんですけど。
 映画館でこれを聞いた時は、この「ナカの規格」って、何のことかわからなかったんですけども。とりあえず、絵コンテを見て、ようやっとわかりました。「ナカ」というのはアメリカ航空諮問委員会、NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)っていうやつです。
 これ、何かというとNASAの前身なんですよ。1958年にNASAになるんですけども、その前は飛行機技術を開発するところだったんですね。
 このNACAにあった一番有名な施設が「ラングレー研究所」というやつで。ラングレー研究所には、当時、世界最先端の風洞がありました。それも音速に近い速度が出せる風洞です。そこで理想的な翼の断面とか、飛行機の形というのを研究していたわけです。
 二郎がサバの骨の曲線というのを自分で計算していって、曲率とか、どこに頂点があるのかってやったら「ああ、NACAが出してた風洞実験によって得られた理想的な翼の断面にすごい近い。同じ規格があるじゃないか」というふうに発見して喜んだわけですね。

(続きはアーカイブサイトでご覧ください)

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