岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/10/08
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/09/30配信「白い悪魔“フォンブラウン” 対 赤い彗星“コロリョフ” 未来をかけた宇宙開発戦争の裏側」の内容をご紹介します。
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2018/09/30の内容一覧
- ロケットオモチャの不思議
- 夢と悪夢の両方の顔を持っている『マジンガーZ』
- ロケットの歴史は「SFの父」たちの大喧嘩から始まった
- ヴェルヌとウェルズの後継者たち
- 抜け目なくロケット開発の夢を追い続けるフォン・ブラウン
- 苦労の末にワンマン体制での宇宙開発を手に入れたコロリョフ
- 報復兵器V-2号ロケット
- ホリエモンのロケットの失敗
- 「ロケットの定番の形」となったV-2号
- 未来のイメージといえばチェッカー模様
- ロケット開発の悪魔的な側面
- 「この世の地獄」ドーラ強制収容所
- 悪魔に魂を売ったフォン・ブラウン
- フォン・ブラウンのやりたかったこと
- フルシチョフの恐怖に付け込んだコロリョフ
ロケットの歴史は「SFの父」たちの大喧嘩から始まった
とりあえず、ロケットのそもそもの始まりから話しましょう。
これは、さっきの相関図の一部分だけ拡大したものです。
(パネルを見せる)
フランスの冒険作家にジュール・ヴェルヌという人がいました。
彼は弁護士の息子でした。パリで法律を学んでいたんですけど、ポエムを書いたり、遊んでいるうちに小説家になっちゃったような、金持ちの息子です。
それに対して、彼のライバルとなるH・G・ウェルズというのは貧乏人の子供です。ここは頭に入れておいてください。
1865年、ヴェルヌは『月世界旅行』という冒険小説を描きます。
当時流行だった最新の科学に「大砲工学」というのがあったんですよ。つまり「どれくらいの直径の大砲を作ったら、どれほど遠くまで弾を撃てるのか?」というのを計算する学問です。
ヴェルヌは、これを使って「直径2.1mの中空のアルミニウムの砲弾を、全長270mという巨大な大砲から発射すれば、人間を月まで送れる」ということを計算し、それを小説にして書いたんです。これ、計算上は本当にそうなんですよ。
しかし、フロリダに作られたその巨大な大砲による打ち上げは、打ち上げ自体は成功したんだけど、方向に僅かな狂いがあって、中に乗った3人は月の周回軌道をグルグル周り続けることになり、帰って来れなくなるんです。そこで、本当は月に着陸する時に使う予定だった逆噴射ロケットを使って、月の軌道を離れ、そのまま太平洋に落ちてアメリカの軍艦に助けられた。
そんな『月世界旅行』という小説を書いて、大ヒットしました。
まあ、「大砲から発射される時に、砲弾の中に入った人間が受ける衝撃(G)はどうするんだ?」というツッコミはあるんですけど。
それについても、一応「内部を水で満たした中に、中空のアルミニウムの弾を置いて、その水も発射と同時に外に圧力で漏れてくるようにする~」とかいう、まあ、いろいろと無理はあるものの、「当時なりのリアリティ」を目一杯詰め込んだ作品です。
長さ270mの大砲というのも、当然、普通の大砲と同じように作るのではなく、フロリダの山に深さ270mの穴を掘って、その穴の内側に砲身を鋳造で作るという方法を取っています。
ジュール・ヴェルヌも、なかなか考えています。
ちなみに、この『月世界旅行』で描かれる宇宙飛行って、実は後のアポロ計画とそっくりなんですね。
例えば、「フロリダから打ち上げて」、「月の周回軌道に乗って」、「太平洋に着水して軍艦に拾って貰う」というのは、アポロ計画とまったく同じです。
なので、これを書き切ったジュール・ヴェルヌは「SFの父」とも呼ばれています。
さて、同時代に月旅行を書いた作家がもう1人いました。それが、イギリスのハーバード・ジョージ・ウェルズです。
金持ちのドラ息子だったヴェルヌに対して、ウェルズは苦労人です。お父さんもお母さんも貴族の家の召使いだったんですね。
なので、小遣いなんて子供の頃から貰ったことがないし、学問もすべて「旦那様の書斎の本を盗み読む」ということで勉強していました。
H・G・ウェルズ君は、本当は学校の先生になりたくて、奨学金を貰って、学校の先生になるための「師範学校」というところに通ってたんですけど。
まあ、19世紀のイギリスというのは差別が厳しくて「たかが召使いの息子が教師になろうなんて!」といった、いろんなイジメがあって、結局、辞めちゃったんですね。なので、彼は仕方なく作家になったんです。
ところが、作家になってみたら、大ヒットすることになったんです。
というのも、この当時、流行していた「科学」を取り入れて文章が書ける人というのは、すごく少なかったんです。
ジュール・ヴェルヌの小説が流行ったのも、彼が大砲工学という科学をちゃんと取り入れて小説を書いたおかげなんです。そういった作家というのが、当時は本当に少なかったんですね。
だって「ロマン派」全盛の時代ですから。例えば、明治・大正時代の日本の小説を考えてもらったらわかる通り、ロマンスばっかりだったんです。当時としては「貴族しか出来なかったような「恋愛」というのを、市民がするんだ!」ということだけで新しかったし、そんな小説ばっかりだったんです。
そんな中で、エドガー・アラン・ポーという人が「殺人や犯罪というものは、人間の情念によって起こるものではなく、冷徹な動機と計画によるものだ!」という科学的な視点というのを初めて小説の中に持ち込んで「ミステリー」というジャンルを作りました。
当時はそんな時代だったんです。だから、科学的な知識を取り入れたヴェルヌとウェルズの小説は、両者ともに大ヒットしたんですね。
H・G・ウェルズは、当時の最新科学を取り入れて『タイム・マシン』などの作品を書いて、ヴェルヌと並んで「SFの父」と呼ばれるようになりました。
ただ、実際のH・G・ウェルズというのは、もうちょっと視野の広い思想家だったんです。
例えば、後に彼は、国家同士の争いを調停する機関としての「国際連盟」というのを提唱したりします。それも、ただ提唱するだけではなく、アメリカの大統領とか、レーニンとかスターリンに直談判して、本当に国際連盟を作っちゃったという、SFの父と呼ぶだけでは足りないほど偉すぎる人なんですよ。
このH・G・ウェルズが1901年という20世紀最初の年に書いた小説が『月世界最初の男』です。
ウェルズは、ヴェルヌが『月世界旅行』の中で描いた「大砲で月に行く」という方法を「ダサい」と切り捨てて、「反重力物質ケイバーリット」という架空の物質を考え、それで作った宇宙船で主人公を月に行かせます。
主人公が月に到着すると、そこには動物も人間もいた。そして、そこに暮らす「月人間」は、アリのような階級社会を作っていたんです。
つまり、ウェルズが描きたかったのは「どうやって月に行くのか?」というヴェルヌ的な話ではなく、「現実の社会とは違うもう1つの社会と民主主義との対立」みたいなものだったんです。
さて、当時、世界的な作家だった2人が書いた2つの月旅行小説は、どちらも大ベストセラーになったんですけど。
ついに2人は、ドーバー海峡を挟んで喧嘩を始めちゃうんですよね(笑)。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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