岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/10/01
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/09/23配信「【錯覚の心理学】ZOZOTOWNの社長が買い占めた宇宙旅行代金はもっと安い?ガイナックスはトップ3を作らない?」の内容をご紹介します。
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2018/09/23の内容一覧
- 今日のテーマは、錯覚の心理学
- 黒人は人種的にアタマが悪い?
- 橘玲の理路の特徴
- ZOZOTOWN社長の月旅行は本当か?
- 「月旅行」には行けない
- 「搭乗料金は1人100億円」も掛からない
- 「月旅行でアーティストにインスピレーション」は無駄
- 「宇宙には夢がある」は「算盤尽く」
- 村上隆がアートをやる理由
- 「ガイナックス」は絶対に『トップをねらえ!3』を作らない
- 質疑:パリピは不幸になればいい
- 質疑:ラノベ作家になりたい
- 質疑:負け組の生き方
- 質疑:セルを譲りたい
- 質疑:オリンピック選手たちの抗議運動
「月旅行」には行けない
「ZOZOTOWN社長の月旅行」のニュースについても、いろんな所で書かれていますけど、こういう記事を読むと、ついつい、こんなことを考えちゃうじゃないですか。
こんなふうな、素敵な宇宙ロケットがあって、パイロットシートのところに前澤さんと剛力さんが乗っているという、そんな、すごいラグジュアリーな感じの宇宙船が地球からドーンと打ち上げられて、そのまま2人で仲良くつき旅行に行く、と。
で、星空が見える中、宇宙船デート。地球から出発して、月を周って、もし出来たら月に着陸しちゃったりなんかして、それからまた地球に帰ってくる。
で、「さあ、いよいよ地球に帰れるね!」なんて言いながら、2人で大気圏に突入して、最後はロケットの逆噴射で降りてきて、富士山の麓とかサンフランシスコの宇宙港に着陸して、手を振りながら「ただいまー!」って。
そんな光景をついつい考えちゃうわけですよね(笑)。
なぜ、こんな錯覚が起きるのかというと、「科学部の記者がこういうことを書く時には、メチャクチャ気を使っているから」です。
「本当は気が付いているんだけど、書いていない」ということが多いんです。
この前澤社長のニュースが出回った時にも、サイエンス畑の人というのは全然興奮していなかったんですよ。
むしろ、このニュースに興奮しているのはビジネス系の人たち。「これはすごい!」とか「夢があるよ!」とか「世紀の快挙だ!」と語っています。僕はどちらかと言うと、そっちのタイプではないです。
では、最初は「月旅行には行けない」という部分について、ちゃんと説明してみようと思います。
まず、月と地球の距離感というのを、みなさんにもちょっと知ってもらいたいんですけど。
(岡田、席を立ち上がって部屋の隅に歩いて行き、地球の模型を手に取る)
地球の直径というのは1万3千kmです。ここに地球の模型が置いてあります。この模型は直径13センチ。つまり、この模型は1億分の1の縮尺だと思ってください。
(岡田、月の模型を手に取る)
で、それに対して、月がこれです。地球と比べて、遥かに小さいです。
地球と月がどれくらい離れているかというと、これらを結んだ紐の長さが、1億分の1での距離になっています。月と地球の距離は37万キロですから、3.7m離れてます。
(岡田、月の模型を持って、部屋の反対の隅に歩いていく)
1億分の1の縮尺で表現すると、月があるのはこの辺なんですね。地球と月というのは、これくらい離れている、と。
では、国際宇宙ステーションというのは、どれくらいの位置にあるのか? この紐の真中くらいの位置にあるのかというと、そんなことないんです。
国際宇宙ステーションというのは、地球の表面から400kmしか離れていません。つまり、この1億分の1の縮尺で言うと、4mmちょっとくらいです。だいたい「ミカンの皮の薄いところ」くらいですかね。そこら辺にちょこっと浮いているのが国際宇宙ステーションです。
と、聞いて「えっ!? 人工衛星って、そんなに低いところを飛んでるの!?」って思ったかもしれませんが、それは違います。人工衛星、特に静止軌道の人工衛星というのは、赤道上の3万6千kmくらいのところを飛んでいるので、一応、この縮尺だと36cmくらいのところにあるんです。
ところが、宇宙ステーションというのは、大気圏の少し上辺りを飛んでいるようなものなんです。
つまり、月というのは、すごく遠い。
……ような気がする、なんですよ。
これも錯覚なんです。こういう模型を見せられて、3.7mも離れて見せて「ほら、こんなに遠い!」って説明されたら、地球と月ってメチャクチャ離れているように見えるでしょ?
でも、案外そんなことないんです。
スペースXの月旅行は、宇宙ステーションに行くよりも、ずっとずっと大変な気がする。
だって、さっきの模型の縮尺でいうと、地球からミカンの皮の厚みくらいしか離れていない国際宇宙ステーションに行くにしても、100億円とか、200億円くらい掛かると言われているんですよ。「だったら、月まで行くには、いったいいくらくらい掛かるんだ!?」って考えちゃいますよね。
だけど、実はそうでもないんですよ。
これが今回発表されたスペースX社のロケットの軌道です。
(パネルを見せる)
スペースX社のロケットは、まず、地球から発射されて、地球の衛星軌道に乗って、そこからもう一度加速して月に近づき、「the perilune」(近月点)という最も月に近づいた部分に達して、そのまま地球に帰ってきます。
さて、この軌道はアポロ計画のロケットとどう違うのか? これが、アポロ計画でのロケットの軌道図です。
(パネルを見せる)
アポロ計画では、月の周りを回ってるんですね。地球から発射されて、衛星軌道に乗って、加速して月に向かうところまでは一緒なんですけど。月の周りを回って、そこからもう一度加速して地球に帰ってくるというコースなんです。
これ、宇宙に興味のない人とか素人から見たら大した差に見えないんですよ。
だから、科学部の記者も「これは普通の人に言ってもわからないだろう」ということで、「おめでとうございます」とだけ書いているんですけど。
専門の人から見たら、この差はエラい違いなんです。
スペースX社のロケットの軌道というのは「弾道コース」といって、言ってしまえば「トランポリンで飛んでいるのと同じ」なんですよね。
「月に行っている」ように見えるんですけど、違うんですよ。「月まで思いっきり跳ねて、落ちてきている」のと同じなんです。
こういうのを、大雑把に言って弾道コースと呼びます。
要するに、月の軌道に降りていないんです。
「いや、降りてないっていっても、月まで行ったんだから大したもんじゃないか」って考えるかもしれないんですけども。宇宙空間の軌道というのは、一度乗ってしまえば、放っといても乗りっぱなしなんですよ。
つまり「高速道路」のようなものだと思ってください。
スペースX社のロケットを使った前澤さんの旅行というのは、高速バスみたいなものに乗って、月というインターチェンジで降りずに、そのまま高速道路を通過して自宅に戻ってきているだけなんです。
例えば、東京の高井戸料金所の辺りから上がっていって、熱海の辺りに行こうとも、そのまま高速から降りずにグルっと東京まで帰ってきたとしたら、「俺、今日、熱海に行ってきたわ」とは言えないですよね。正しくは「熱海の辺りを通った」なんですよ(笑)。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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