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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『2001年宇宙の旅』とはいったいなんだったのか?」

2017/07/28 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2017/07/28

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2017/07/02の内容一覧

真剣に未来を予測しようとした、キューブリックとクラーク

 『2001年宇宙の旅』というのは……いちいち現物を見せなくてもいいんだろうけども、一応、書籍を出しますね。

 ここには「原作:アーサー・C ・クラーク」って書いてありますけど、実はですね、これ、クラークが原作ではないんですよね。
 1964年くらいに、「究極のSF映画を作りたい!」と思ったキューブリックは、一緒に組んで仕事ができるSF作家を探している中で、イギリス人のアーサー・C・クラークに連絡を取りました。キューブリックはイギリス大好き人間だったので。まあ、クラークは、もうその時にはイギリスに住んでなくて、スリランカに住んでたんじゃなかったかな? 世界中を講演で回っていたんですよね。
 さて、「2人で究極のSF映画を作ろう!」ということで、最初は「テレックス」という電報みたいなシステムを使って意見交換をしていたんだけど、これでは埒が明かないということで、ニューヨークにあるチェルシーホテルという場所で共同で仕事をすることにした。
 最初は、部屋を2週間だけ借りてたんですよ。「2人とも映画のシナリオが完成するまでこの部屋から出ずに、もう食事も全部ルームサービスとかでとって、脚本書くことに専念しよう!」と。
 その時は、映画の大本になるストーリーを作ろうとしてたんだけど、後に「このストーリーを元に、それぞれが小説と映画の脚本を書けばいいや」というふうになったんですね。

 そういうことで、チェルシーホテルの部屋を借りたんですけど。結局、その部屋は1年半の間、借りっぱなしだったんですね(笑)。もちろん、キューブリックもクラークも、時々は家に帰るんだけども、実に1年半もの期間、延々とチェルシーホテルの部屋を借りて書くしかなかった。
 というのも、キューブリックが考えていたことが、まず、お話にしにくかったんですよ。クラークに言わせれば、「SF小説というのは小説の一種であって、小説というのは主人公がいて、お話があって、主人公に変化があって、というドラマで出来ているものだ」と。そして、キューブリックが作ろうとしている「神様というのは本当にいるのか? それを科学で定義したらどうなるのか?」というテーマは、そういった小説として書く上での形式になかなか乗っかりにくい。
 キューブリックにしてみても、そういったお話作り以前に、「もし、神様がいたとしたら、それはこのスタンリー・キューブリックでもかなわない存在なんじゃないか?」、「自分が死んだ後、魂がそんなやつの所に行くんだとしたら、この俺、スタンリー・キューブリックはどうなってしまうんだ?」という、自分が抱えている恐怖感にSF作家ですら答えを出してくれないという壁にぶつかっていた。
 キューブリックが撮っている他の映画では、例えば、『バリー・リンドン』だったら、「中世のイギリスとかドイツとかフランスというのは、どんな場所だったのか?」について、徹底的な取材ができたんだけど。これがSFではできないんですよ。
 そして、この現実について、キューブリック自身は、最初、気が付かなかったんです。「そんなのIBMとかNASAとかに行って、偉い人に聞けばわかるだろう」って思ってたんだけども。ところが、IBMに行ったら「コンピューターはこれからこんなふうに進化しますよ」というのは言ってくれるし、NASAに行ったら「宇宙開発はこれからこうなりますよ」というのは教えてくれるんだけども、「未来がどうなるのか?」を教えてくれないんです。

 普通だったら、ここで「なーんだ」って諦めて、映画の規模を小さくするんですけども。でも、スタンリー・キューブリックはそこから始めるんです。「わかった」と。「じゃあ、あらゆる企業に聞こう」と。
 例えば、映画の中にボールペンが出てくる。じゃあ、「この未来のボールペンはどうなるのか?」ということは、パーカーという世界一のボールペン会社に聞けばいい。連絡した先のパーカーが「え? 30年後のボールペン? そんなもの考えたこともないですよ」って言ったら、「いや、そこを考えてほしい」というふうに、ガンガン理詰めで説得して、パーカーから30年後のボールペンのデザインというのを本当に出させるんですね。
 そうやって、ありとあらゆるジャンル、飛行機から自動車からテレビドラマから、何から何までの、30年から40年後の姿というのを本当に取材して、世界一流のメーカーや研究機関に本当に作らせたんです。もう、この段階でとんでもなく金かかってるんですよ。

(中略)

 まず、押さえておくべきは、この『2001年宇宙の旅』っていうのは邦題なんだけども、原題は『2001: A Space Odyssey』である、ということなんだ。2001という年代は合ってるんだけども、「旅」ではなく「宇宙時代のオデッセイ」だということが重要。

 「オデッセイア」というのは、ギリシャの詩人ホメロスがイリアスという人と共に書いた世界で一番古い物語・叙事詩と言われてるんだ。
 このオデッセイというのは王様の名前なんだ。ギリシャ時代の都市の王様の名前なんだけども。「トロイ戦争に参戦して勝った王様の一人が、凱旋の途中で船が難破しちゃって、その後、10年間の放浪の果てに故郷の国に帰ってくる」という話。
 実は、この「猿から始まって、科学者フロイド博士になって、次にボーマン船長になって、最後は赤ん坊になって帰ってくる」というのは、「最初に黒い板に触ったヒトザルから始まった人類の100万年間に及ぶ放浪」というオデッセイを描いていたものなんだ。……まあ、その放浪は10年から100万年に変わっているんだけども。

 オデッセイはトロイ戦争の中で勝利したんだけども、10年間放浪することになった。難破して流されたいた時に彼を助けてくれたのが「ナウシカ王女」っていう王女なんだ。
 このナウシカ王女の所に、1年か2年くらい匿われて、王女とちょっといい感じになったりするんだけども。このナウシカ王女というキャラクターを、すごく気に入って、「放浪している王様を助けてあげる王女とは、なんて良いやつなんだ! 俺の新しい漫画の主人公の名前はナウシカに決めた!」って言ったのが宮崎駿なわけなんだけども。……本当だよ? 宮崎駿は「ナウシカをどうやって思いついたかというと、オデッセイアの叙事詩から」って言ってるんだけどさ。
 その後、オデッセイは冥界に行ったり……もう「冥王ハーデス編」だよね(笑)。あとは、妖怪セイレーンと戦ったりとか大冒険をして、ついに神様ゼウスに会うんだ。
 その後で故郷に帰ったら、自分の嫁さんの元に「あなたの旦那のオデッセイは、たぶんもう死んでるから、僕はあなたの新しい旦那さんに立候補しまーす!」という求婚者が40人もいたんだって。オデッセイは激怒して、弓でバンバンバンとその40人を殺して、めでたしめでたし(笑)。
 というのが、ホメロスのオデッセイアのおおまかなストーリーなんだけども。

 『2001年宇宙の旅』も、基本的にはこれなんだよ。
 つまり、「人類の歴史というのは、いろんな冒険や誰かに助けてもらうというようなことがありながら、最後は「嫉妬」とか、そういう感情で人を殺して、神様に出会い、元の世界に帰ってくる」というお話を、このタイトルからして、やろうとしてるんだよね。

(中略)

 『2001年宇宙の旅』の映画のラストでキューブリックが見せた、地球よりデカい赤ん坊になって帰ってきたシーンが何なのかっていったらさ、ボーマン博士は赤ん坊になる前に死んでるんだよね。すごい速さで老人になって。
 宇宙の彼方に行ったボーマン博士は、ある部屋の中にいて、そこであっという間に老人になって、次に赤ん坊になって地球に帰って来るんだけどさ。

 実はこれ、いわゆる「キリストの復活」なんだよな。「キリストは十字架にかけられて、3日後に復活して、その後、人類を千年期に導く」というのがあるんだけども。
 小説版を書いたクラークは、そういうところから離れて、完全なるSFとして、宇宙人という物質を越えた精神生命体とのファーストコンタクトをきちんとやろうとした。それに対して、スタンリー・キューブリックがやりたかったのは、最初から言ってる通り「科学的に定義された神」というのをやりたかったわけだ。

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