(本号)
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■小川和久の『NEWSを疑え!』
■第399号(2015.5.28)
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【今回の目次】
◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
◇◆海洋国家なら「海で勝負」しよう
◆日本が備えるべき領海法
◆海洋研究開発機構は知名度不足
◆ウッズホール海洋研究所のすごさ
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
・航行の自由は海洋の自由ではない
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
・中国の多弾頭ICBM開発の本当の狙い(西恭之)
◎編集後記
・伊勢崎賢治さんからのメール
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◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
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◇◆海洋国家なら「海で勝負」しよう
国際変動研究所理事長 軍事アナリスト 小川 和久
Q:先週のメルマガでは、戦前の日本が大陸系地政学に傾倒した話、アメリカの海洋地政学の話などが出ました。そこで心配になってくるのが、日本は海洋国家としての「自覚」が足りないのでは、という問題です。どう考えますか?
小川:「いうまでもなく日本は、四方を海に囲まれた日本列島がつくる島嶼国家であり、海洋国家です。いくつかデータを挙げましょう」
「日本は、国土のすべてが7000近い島からなる島国です。島の定義によっては、島嶼数は約3700ともされます。大きな島は本州、北海道、九州、四国の4つで、面積90平方キロ以上の比較的大きな島でも30もなく、多数の小島が国土を形作っています」
「日本列島は、海岸線の総延長が非常に長く、2万9751キロで世界第6位です。日本列島は、最大幅が300キロほどですが、長さは3500キロ以上もあって、海岸線が複雑に入り組んでいます。日本より海岸線が長い国は、カナダ、インドネシア、グリーンランド(デンマーク)、ロシア、フィリピンの5つ。国土面積がロシア、カナダに次いで世界第3位の中国1.4万キロ、第4位のアメリカ1.9万キロより、はるかに長いのです」
「日本の排他的経済水域(EEZ)の面積は、405万平方キロで世界第7位です。EEZと領海を加えた面積は、447万平方キロと世界第9位です。EEZは沿岸から12海里までの領海の外側、沿岸から200海里までの海域で、沿岸国の経済的な主権が認められています」
「日本は、かつては世界最大の、現在でも世界第8位の漁業大国です。世界の漁獲量は中国7036万トン、インドネシア1542万トン、インド907万トン、ベトナム594万トン、アメリカ555万トン、ペルー491万トン、フィリピン486万トン、日本481万トンです(2012年)」
「以上のデータからすれば、日本は世界に冠たる海洋国家のはずですね。しかし、どうもその自覚に欠けるのが日本です。何が問題なのか、以下で考えていきましょう」
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◆日本が備えるべき領海法
Q:多くの人に解せないのは、海洋国家のはずの日本が、なぜ尖閣諸島や小笠原諸島で中国船の領海侵犯をやすやすと許してしまうのか、という問題でしょう?
小川:「尖閣問題で中国の脅威が叫ばれ、中国船が繰り返し領海を侵犯することに、日本人はみんなカリカリするわけです。しかし、カリカリしているだけでは何一つ解決しません。中国側があえて日本の領海を侵犯し、いつも日本側がやられっぱなしなのは、いったい何が原因なのか、と考えなければダメでしょう」
「すると、外交力や軍事力という問題以前に、そもそも日本では法律や制度がきちんと整えられていないこと、そして実効性のある法律や制度を生み出すような思想や哲学もないことがわかります。日本に海洋国家という自覚が足りず、日本政府が海洋国家としての戦略をもっていないから、そうなってしまうのです」
「具体的にいえば、日本は、領海侵犯を簡単に許さないような領海についての法律や制度を備えていません。たんに国連海洋法条約に基づく領海法(領海及び接続水域に関する法律)を持っているだけです」
「領海法は、全5条と附則からなる短い法律で、『領海は、基線からその外側十二海里の線(中略)までの海域とする』『国連海洋法条約第三十三条1に定めるところにより我が国の領域における通関、財政、出入国管理及び衛生に関する法令に違反する行為の防止及び処罰のために必要な措置を執る水域として、接続水域を設ける』などの基本を規定し、『我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為については、我が国の法令を適用する』と書いてあります」
「つまり、国連海洋法条約第33条1の規定どおり『(a)自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止すること。(b)自国の領土又は領海内で行われた(a)の法令の違反を処罰すること。』に必要な規制(原文でcontrol)ができる、というだけなのです」
「ですから、現行の領海法で可能なのは、せいぜい接続水域で不審船に近づき、疑義があれば停船を命令し、立ち入り検査などしたうえで、容疑に充分な根拠があれば、接続水域外に排除することくらいです。しかも、国連海洋法条約の第32条には『この条約のいかなる規定も、軍艦及び非商業的目的のために運行するその他の政府船舶に与えられる免除に影響を及ぼすものではない』とあり、中国公船などに対しては事実上、出ていってくれと呼びかけるくらいしかできません」
「海上保安庁は、『領海侵犯があった場合、外国の政府、軍の船に対して退去を求めることができるし、しかるべき措置を講じることができる』という言い方をすることが少なくありませんが、その『しかるべき措置』なるものが具体的になにか明言されることはなく、迫力からして欠けているのです」
●領海及び接続水域に関する法律(総務省法令データ提供システム)
●国連海洋法条約(外務省、前文~第33条)
小川:「しかし、海洋法条約を尊重しつつ国内法を整備し、領海法に事前に許可なく領海に立ち入った国の船は強制的に排除するといった内容を謳っておけば、外国の船舶は入ってきにくくなります。国連海洋法条約の精神からすると、あまりきつく書けないとしてもです」
「これを実行した国がベトナムです。ベトナムは2012年に海洋法を制定し、西沙諸島及び南沙諸島を含む地域をベトナムの『主権』と『管轄』の範囲内にあるとしました。中国側は『不法であり無効だ』と反発しましたが、それでも、やはり慎重に対応せざるをえません。こうした毅然とした対応が、日本には欠けています」
南シナ海(原図は米中央情報局が1988年に作成)
「海洋法について、ベトナムの国会法務委員会立法調査研究所所長(Director of the Legislative Research Institute)、ディン・スアン・タオ博士(Dr. Dinh Xuan Thao)は、次のように述べています」
「海洋法は、2国間対話や国際的な仲裁などによる平和的手段によって海洋紛争を解決する上で、ベトナムにとって重要な法的根拠となるものである。海洋紛争は、国家の大小に関係なく、衡平と相互利益の原則に、そして関係当事国によって提出される確かな根拠に基づいて解決されなければならない。ベトナムは海洋法によって、自国の海洋領域と島嶼に対する主権と主権的権利を世界に向けて公式に宣言した。海洋法は、西沙諸島と南沙諸島を、ベトナムの主権下にある2つの群島であることを、明確に規定している。海洋法によって、ベトナム国民は、海洋において自国の主権と主権的権利が及ぶ境界を認知できる。一方、外国船舶がベトナム領海を通過する時には、海洋法の遵守が求められる。もし違反すれば、当該外国船舶は、海洋法に規定に従って処罰される」(笹川平和財団・海洋安全保障情報旬報 2012年9月11日~9月20日)
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◆海洋研究開発機構は知名度不足
Q:領海法以外に「海洋国家の自覚」に欠けるのは、どんなことですか?
小川:「日本に海洋国家という自覚があれば、日本の海洋研究所は、もっと国民的に身近な存在であるべきでしょう。調べてみると、日本にはそれなりの海洋研究所があります。とくに国立研究開発法人『海洋研究開発機構』(JAMSTEC=Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology ジャムステック)は、世界最大規模の海洋研究所の一つでしょう」
「同機構は、経団連の要望によって1971年10月、政府と産業界の出資金や寄付金をもとに設立された『海洋科学技術センター』が前身です。1990年に『しんかい6500』システムが完成。1995年に無人探査機『かいこう』がマリアナ海溝の世界最深部の潜航に成功。2004年には独立行政法人海洋研究開発機構に改組・再編され、2005年には地球深部探査船『ちきゅう』が完成しています。こうした調査船や探査船の名前は、ニュースなどで聞いたことがあるでしょう」
●海洋研究開発機構
●研究船・施設・設備
●有人潜水調査船「しんかい6500」
●無人探査機「かいこう7000II」
●地球深部探査船「ちきゅう」
地球深部探査船「ちきゅう」
小川:「海洋研究開発機構の常勤職員構成を見ると、研究系351人、技術系238人、船員46人はじめ合計1059人と、世界有数の規模です。予算額も最近10年ほどは毎年400億円以上で、新規の建造費については別に補正予算がおりるようですから、それなりに大きな組織です」
「しかし、『しんかい』や『ちきゅう』は聞き覚えがあっても、海洋研究開発機構やJAMSTEC(ジャムステック)のことを知っている日本人となると、あまりいないのではないでしょうか。海洋研究開発機構のサイトからも、いかにもPRが不得手で、お役所的な組織なように見えます」
「たとえば5月16日現在、サイトのトップページにトピックスが6本、ニュースリリースが3本表示されますが、トピックスのうち4本が『受賞のお知らせ』です。しかも受賞者や賞状の写真は載っていますが、受賞した研究が具体的にどんな意義のあるもので、なぜ高く評価されたのか、よくわかりません。これでは内輪向けのお知らせも同然です」
「キッズページも、そもそもいちばん大きな吹き出しの中が文字化けしていますし、『地球の内部を調べる船「ちきゅう」のことがわかるよ』とあるので『ちきゅうキッズ』をクリックすると、『要求されたページが見つかりません』とエラーが出てしまいます。『初島の海底』は、ただ写真が並べてあるだけで、魚の名前1つわかりません」
「あとでお話ししますが、アメリカには有名なウッズホール海洋研究所があって、多くの人がその存在を知っています。サスペンス小説や映画に描かれたりしていますが、日本の海洋研究開発機構では、それはないでしょう」
「こんなところにも、日本の海洋国家としての取り組みが不充分で、思想や哲学に欠けている問題が表れていると思います。NHKがよく自然・科学ドキュメンタリーを制作し、たとえばダイオウイカの番組をつくりますね。すでにやっているのかもしれませんが、ああいうものに積極的に関わり、企画を持ち込んで自ら存在意義を高めていくことが、もっとあってしかるべきだろうと思います」
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◆ウッズホール海洋研究所のすごさ
Q:海外には、どんな海洋研究所がありますか?
小川:「もっとも有名なのが、アメリカはボストンを州都とするマサチューセッツ州ウッズホールにある非営利のウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institution=WHOI)です」
「米政府(米海軍)の補助金、アメリカ科学財団その他の財団や民間の寄付、政府や業界の業務委託などで運営され、年間予算は2億ドル以上。4つの研究部門、6つの学際的研究機関、40以上の研究室・センターからなる複合的な施設で、研究者・技術者・情報技術専門家・船や車の乗員、管理サポートスタッフなど1000人以上が勤めています。大学院課程や博士課程、学部プログラムなどをもつ教育機関でもあります」
ウッズホール海洋研究所(米海洋大気庁撮影)
「調査船アトランティス号、ニール・アームストロング号、深海潜水艇アルビン号などは同研究所の所属です。2012年3月、映画『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督が搭乗して深さ1万898メートルのチャレンジャー海淵(マリアナ海溝最深部)に潜った遠隔操作有人探査機(HOV=Human Occupied Vehicle、一人乗り潜水艇)『ディープシー・チャレンジャー』もここにあります」
「ウッズホール海洋研究所の規模や予算は、日本の海洋研究開発機構とそれほど違いませんが、サイト一つ見ても、充実ぶりはちょっと比べものになりません。画像とマルチメディアというページでは、人類が利用できる真水がいかに少ないか、誰でも48秒で実感することができるでしょう。このページからから、ビデオ、写真、イラストなどを堪能してください」
●ウッズホール海洋研究所
●画像とマルチメディア
●地球をめぐる炭素(地球規模のカーボン・サイクル)
小川:「こういうよいものは、どんどんマネをしたほうがよいですね。日本の海洋研究所が私たちに身近な存在でないとしたら、それは研究所や政府だけの問題ではなく、それらを税金を支払って支えている私たち国民全体の問題でもあるはずです。税金の使い道をきちんとチェックしていない、という話だからです」
(聞き手と構成・坂本 衛)
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◎セキュリティ・アイ(Security Eye):
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・航行の自由は海洋の自由ではない
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
中国は南シナ海スプラトリー諸島(南沙諸島)のサンゴ礁や岩礁を、最近1年間に8平方キロ埋め立て、防衛も名目として岸壁や滑走路を建設し、南シナ海を排他的に支配する目標に向けて布石を打っている。
これに対して、米政府は南シナ海における「中国など沿岸国による国際法に基づかない権利の主張」への対策を、「航行の自由」の名の下に行っている。
しかしながら、「航行の自由」は沿岸国による海洋の分割を制限している「海洋の自由」の一部にすぎない。ある海域について非沿岸国が「航行の自由」しか主張しなければ、沿岸国は「わが国は『航行の自由』を保障している」と主張する一方、「海洋の自由」全体を損ねる形で、領海外の海と空を排他的に支配できるようになる。
国連海洋法条約採択(米国は不参加)の翌年の1983年から、米政府は「国際法の下で全ての国家に保障されている、海洋と空域の権利・自由・用途を維持」するため、各国の「海洋における過大な主張」に対し、外交ルートでの抗議、米軍の行動、第三国との協議によって不服従を表明してきた。
日本ではほとんど知られていないことだが、米国防総省は、どの国のどの主張に異議を申し立てたのかという「航行の自由に関する報告」を毎年発表している。2013年10月から14年9月の間は、同盟国を含む19カ国の主張が対象となった。
例えばブラジル、インド、マレーシアは、EEZにおける外国軍の演習に対する認可権を主張したので、米軍はこの三カ国のEEZで演習し、不服従の姿勢を示した。
中国については、1)領海基線が海岸線の一般的方向から逸脱し、2)排他的経済水域(EEZ)上空の管轄権を主張し、3)領空への進入を意図しない外国航空機に対する制限を防空識別圏で課し、4)EEZにおける外国人(法人)による測量を国内法で禁止していることに、不服従を表明した。
米国は、中国が南シナ海から他国軍を閉め出す事態を防ぐため、1)人工島は領海やEEZの基点とは認められず、2)EEZ上空は公海上空と同じ国際空域であり、3)具体的な権利が侵害される可能性を沿岸国が示さないかぎり、EEZにおける外国艦船の行動は制限されない、と主張している。
米政府が掲げている「航行の自由」という名目は、上記の3点の目的より狭いものだ。
4月28日の日米共同ビジョン声明の「航行及び上空飛行の自由を含め,共有された領域における行動に関するグローバルに認められた,国際法に基づく規範」という表現にしても、米国が国連海洋法条約を批准していれば、「国連海洋法条約が全ての国家に保障している海洋の自由」と明言できただろう。
南シナ海をめぐる論点が「航行の自由」に限られるなら、現在の中国の方針は他国の艦船・航空機に、ホルムズ海峡などの国際海峡と同じ通過通航権(継続的かつ迅速な通過)を認めており、それだけで諸外国の「航行の自由」に関する権利を尊重していることになる。
そうなると、中国が他国の艦船・航空機の演習・偵察・発着艦を禁止しても、「航行の自由」だけを主張していた国は、異議を申し立てる根拠がなくなってしまうのだが、その点について米国がどのような論理を打ち出すのか注目されている。
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◎ミリタリー・アイ(Military Eye):
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・中国の多弾頭ICBM開発の本当の狙い
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)
米国防総省は5月8日に発表した中国の軍事的動向に関する年次報告書で、中国が米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を改良し、ミサイル1発で複数の目標を攻撃する能力を備えたことを初めて認めた。
しかしながら、中国が複数個別誘導弾頭(MIRV)を搭載できるようにしたのは、新型の移動式ミサイルではない。実は、即応性の低いサイロ配備タイプのDF-5(東風5)8‐18発のうちの一部である。抑止力の向上よりもMIRVの開発じたいを目的とした可能性が高い。
弾道ミサイルに複数の弾頭を搭載し、個別の目標へ誘導することには、次の効果がある。
1)ミサイルから放出された弾頭を迎撃する側の負担が増え、1発以上の弾頭がミサイル防衛を突破する可能性が高まる。
2)面積の広い一つの目標を破壊するためには、一つの巨大な核爆発よりも複数の比較的小さな核爆発のほうが有効である。
3)複数の弾頭を「バス」という最終段ロケットに搭載し、それぞれを個別の目標に向けて落下させると、広い範囲の複数の目標を攻撃できる。
4)ミサイルとMIRVの精度が高く、十分な数が配備されれば、固定配備式ICBMや爆撃機基地など固定目標に対する第一撃能力(相手の報復能力を奪う能力)が高まる。しかし、これは両刃の剣の側面があり、MIRVを搭載した固定配備式ICBMは、他の核保有国との危機においては、相手国からの核攻撃を誘発しやすいというリスクも内包している。
第一撃能力となりうるICBMには、米ソは1970年代からMIRVを搭載し、ロシアは今も一部のICBMにMIRVを搭載している。米国、ロシア、フランス、英国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)にMIRVを搭載している。
米国のミニットマンIII ICBMのMIRV弾頭とバス
(米空軍撮影、2009年)
中国については、米国家情報会議は1999年の時点で、開発中だった移動式ICBM DF-31の弾頭を用いて、DF-5に搭載可能なMIRVを数年以内に開発する能力があるが、移動式ICBMのMIRVは遠い将来まで開発できないと判断していた。
弾道ミサイルにMIRVを搭載する場合、投射重量(ペイロードの重量)の半分をバスが占める。DF-5の投射重量は3000‐3200キロ、DF-31の弾頭の重量は470キロと推定されているので、MIRV搭載型のDF-5は3発の弾頭を搭載しているとみられる。
中国は現在、射程7200‐8000キロのDF-31を約8発、射程を1万1200キロに延長したDF-31Aを約20発配備し、DF-31をもとにSLBM JL-2(巨浪2)を開発している。これらのミサイルの投射重量はDF-5より小さいので、多目標化するためには弾頭の大幅な小型化が必要となる。
米国家情報会議は2002年に、「中国がそこまで核弾頭を小型化するためには、核実験が必要となる可能性が高いが、中国側が近い将来(移動式ICBMの多目標化に)注力するとは考えていない」と米議会に説明している。
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◎編集後記:
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・伊勢崎賢治さんからのメール
知人の伊勢崎賢治さん(東京外国語大学教授)からメールが届きました。
伊勢崎さんは、国連職員などとして東チモール、シエラレオネ、アフガニスタンなど世界各地で紛争処理、武装解除などに実務家として関わってきた、日本では数少ない経験の持ち主です。テレビなどでは「紛争解決請負人」と呼ばれますが、自分では「紛争屋」と自嘲気味に呼んでいます。
軍事専門家の立場からすると、もう少し軍事知識を増やすと「無敵の研究者」になるのにと思うこともありますが、国連平和維持活動(PKO)など平和構築の現場経験には傾聴すべきコメントも数多く含まれています。
伊勢崎さんは書いています。いささか、与野党双方に憤っているようでもあります。
「連日の安保関連法案の論議、与党、反対派、両方が、”激動する国際情勢”の現実からかけ離れた神学論争をしているように思えます。軍事組織が、ある程度の規模とある程度の指揮命令系統のある武装組織と、たとえ自己防衛のためでも”交戦”したら、その時点で、戦時国際法、国際人道法上の『紛争の当事者』になるのです。これは、国連平和維持活動であってもです。現代の国連平和維持活動は、国連が中立性を喪失し『紛争の当事者』になっても、『住民保護』をするという決心を、既にしているのです。1994年のルワンダのジェノサイドからの教訓です。ですから、安倍首相の答弁の『戦闘が起これば直ちに退避』。これは、現代の国際社会では許されません。もしこれをやったら、非人道国家として、日本の外交的権威は失墜するでしょう。『退避するなら最初から来るな』なのです。ですので、派兵国家(Troop Contribution Countries)は、自軍が海外で軍事的過失つまり国際人道法違反をする現実をチャンと想定して、派兵するのです。法治国家としての当然の振る舞いとして。法的に軍ではない武装組織(自衛隊)が軍事的過失を海外で犯す事態を、日本社会は、政府もそしてそれに反対する勢力も、考えているでしょうか」
伊勢崎さんのメールに出てくる安倍晋三首相の答弁とは、以下のようなものです。
「戦闘が起こったときには、直ちに部隊の責任者の判断で一時中止をする、あるいは退避をすると、明確に定めている。戦闘に巻き込まれることがなるべくないような地域をしっかりと選んでいくのは当然だ。安全が確保されている場所で後方支援を行っていく」(5月20日、民主党の岡田代表との党首討論で後方支援に関する答弁)
安倍首相は本気でそのように思っているのだと思いますが、国際的には伊勢崎さんの「『戦闘が起これば直ちに退避』。これは、現代の国際社会では許されません。もしこれをやったら、非人道国家として、日本の外交的権威は失墜するでしょう。『退避するなら最初から来るな』なのです」という指摘の通りなのです。
国連平和維持活動(PKO)については政府の文書にも以下のように記されています。
「伝統的な国連平和維持活動(PKO)は、当事者同意のもと中立な立場で介在し、武器使用は自衛に限定されているため、人道法は紛争『非』当事者であるPKO部隊には適用されないという見解で問題ありませんでした。しかし、最近ではPKO部隊が特定の紛争当事者に対し、強制力を行使しうる『強力なPKO活動 (robust PKO)』が見られ、武力行使に伴う規範が必要となります。1999年にアナン事務総長が宣布した告示『国連部隊による国際人道法の遵守』では国連PKOは国際人道法の精神と原則を『遵守』すべきであるという見方を表し、2008年に国連が発表した『国連平和維持活動―原則と指針』でも人道法の熟知の必要性と適用が強調されています」(2013年9月20日 内閣府国際平和協力本部)
この原則は、PKOばかりでなく、平和の構築に一定の強制力を要する有志連合などにも適用されるものでもあります。
5月14日に閣議決定された「平和安全法制」のうち、新たに立法される国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)は有志連合などを視野に入れたものであり、後方支援もまた上記の原則に基づいて考えなければならないことは、いうまでもありません。
こうなると、答弁の場のやり取り云々の話ではありません。立法作業の段階に戻って、整理されなければならないことは明らかです。
それにしても、野党はなんたるていたらくでしょうか。党首討論でこの点を突っ込めなかったのですから、期待しても無理かもしれませんね。
そうなればなおさらです。政府には是非、この点を明確にしてほしいと思います。
(小川和久)
(次回配信は6/1です。次号をお楽しみに)
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