のすじい@色鉛筆Pのブロマガ

のすじいのそーさく日誌164・・とおいひのおはなし・・

2019/12/23 03:48 投稿

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むかしむかしといっても、まだそんなにむかしじゃない・・
そう、30ねんをこえたくらいのころ。

東京のかたすみの、あんまりりっぱじゃない学校に
からだは大きいけど・・ほんとうは荒っぽいことのにがてな
てんきの良い日、木陰で、かんがえごとをしたり
女の子の描くような、らくがきのような絵を描いたり
そんなことが好きなこどものまんま、な・・くまさんがいました。



くまさんがその学校のいちばん上級生になった年の春。
ほかの女の子よりあたまひとつ背の小さい、
それはそれはちびっ子でどこか此れも大人じゃない女の子が
くまさんのすぐ近くにいつも居るようになりました。

くまさんはその小さすぎる女の子の笑い顔が好きでした。

すこし鈍いんじゃない、と呼ばれるくらいお人よしで
なんでもいっしょうけんめいで、でも、失敗も多くて
それでも、めげないで頑張る・・小さすぎる女の子。

・・きみの事をみていると、幸せの原義が見えそうだね・・

いつしかくまさんは、小さな女の子を
こう呼ぶようになっていました。



・・居てくれるだけで、ぼくが・・そう思う 
ああ、きみは=しあわせさん=かな・・

まわりのお友達もみな、大笑いしながら
・・でも、いつの間にか・・
くまさんにならって、その子を
しあわせさんと呼ぶようになったのです。

春が来て、みどりの若葉がどんどん深い緑になって、
梅雨が来て・・お日さまがさんさんと照りつけ、
おそらの色が青くなる夏が来るころ
くまさんはある日、しあわせさんに・・
せいいっぱいの笑顔でこう言いました。

・・ぼくの、お嫁さんになって・・
   くれるような気は・・ないかなあ・・

しあわせさんはびっくりして、
しばらくくまさんを見つめていましたが
すぐに、いつもの何倍もあどけない笑顔のまま
大きくうんとうなづいて

・・くまさんといっしょにいてあげる、
       もうやくそくしたんだもん・・

そう言うと、くまさんの・・
だいたい胸までしかない小さなからだで
何もいわずにぎゅうっとくまさんに
しがみついて子供のように泣いたのでした。

華やかであたたかさが愛おしい秋、
枯葉の舞い散るゆうえんち
たくさんの生徒が集まる学校の
図書館うらの小さなベンチ・・



お酒の匂いのする、でもあんまり賑やかじゃない
繁華街のおみせ・・片隅のちいさなテーブル。

出来たてのパンのようにふかふかして、
ちょっと甘いにおいのする
そんな組み合わせになったふたりは・・
いっしょうけんめいに恋をします。

学校のまえのパン屋さんで
ジャムとバター、ハムとバター・・
挟んで売ってたコッペパンを
それぞれ半分づつにして食べたりしました。


くまさんのお部屋に、初めて・・
ひとりで泊まったしあわせさんは
大きな短波のラジオを面白がって、
子供のように弄ってあそんだりも・・

そこそこ大きなくまさんのお布団、
二人で毛布一枚にくるまって迎えた朝
しあわせさんはくまさんに甘えるように、
でも元気な声で言いました。

・・やくそくしたもん、くまさんが
ほんとうの=しあわせさん=にしてくれるって・・

そうして・・奇麗すぎる秋が過ぎ、
大きな街には珍しく雪が降った冬のおわり・・

くまさんは、田舎のおとうさんの願いで
地元の畑違いな会社にお勤めが決まり
しあわせさんはもう一年、学校に残って
くまさんを待つことになりました。



慣れない、畑違いの、派手で華やかで、
でも凄まじく無茶なおしごとの合間
くまさんは少ないお給金をはたいて
夜行の急行に乗り・・東京に行きました。

ほんの短い一日と一晩、
しあわせさんと一緒にいたくて・・・・

くまさんのお給金が殆ど、お家賃以外には
無く成ってしまうくらい何度も。

でも、其れがかなう筈の春・・
しあわせさんは家から出られなくなったのです。

しあわせさんのおうちはちょっと変わっていて
縁者どうしでしかお嫁に行ったり貰ったり・・

出来ないしきたりが在るようなおうちだったから。

そんなこと全然知らされずに育ったしあわせさん、
子供みたいなしあわせさんは、訳が分からずに
おとうさんやおかあさんにどうして?と
・・毎日毎晩尋ね続けました。




・・どうしていけないの・・やくそくしたのに
・・うそつきになっちゃう・・くまさんとやくそく・・

でも、何を言ってもおとうさんもおかあさんも
周りの人も聴いてはくれません。

電話さえ取り次いで貰えなくなって・・
しあわせさんはくまさんに何通も手紙を書きました。

近所の友達や、御用聞きに来る
八百屋のお兄ちゃんにお願いして・・

其の丸まっちい、子供のような・・
漢字の少ない手紙を読んだその夜から・・

くまさんは其れこそ本当の杜に棲む
大きな熊のように息を荒げて何度も何度も
しあわせさんのおうちの前に立ちました・・でも・・

決して会わせてはもらえませんでした。

しまいには勤め先のえらい人が
あまりの東京通いを不審がって叱責するほど
くまさんはしあわせさんに会いたくて、
あのほっこりした笑顔が見たくて

食べるものも飲むものも惜しんで、
お仕事先で出るお弁当の余りを貰い
大好きな本も、お勤めに必要な服も殆ど買わず
・・夜行の列車に乗り続けました。

何か月も・・毎週毎週・・
時には身内の誰かの不幸と嘘をついてまで。

見習いを卒業した新米だったくまさんには、
自由に成るお休みも其れほど無かったし
そんな事が理由でお休みが貰えるほど、
暇な仕事では・・決して無かったから。

でも、くまさんとしあわせさんは
二度と会うことは出来ませんでした。

くまさんの故郷に新幹線が通った日から
・・数週間あとのことだったそうです。

しあわせさんも、どうしても・・
くまさんに会いたくなったのでしょう。

夜中、二階のお部屋の窓を開けて抜け出して
・・パジャマのまんま・・裸足で
おうちの裏庭の裏口から
ふらりと彷徨い出たのだそうです。

其処は、明かりの少ない割に
車の交通量が多い・・そんな道でした。

其の時、幼かったしあわせさんは、
ほんの少しおかしくなっていたのかもしれません。

大きな音がして・・おうちの人が飛び出してきたとき

ちっちゃいからだのしあわせさんは、
ちょっと吃驚した幼い表情のまま
夜道の脇のアキノキリンソウのなか、
永遠に眠っていたそうです。



膝を抱え、身体をまあるくして
殆ど傷も無く血の跡も無いまま・・まるで本当に・・
ゆすぶったら起きそうなあどけない表情だった、と。

くまさんが其の事を知ったのは其れから少しあと・・

学校時代の共通のともだちが、
噂を聴いて見かねて教えてくれるまで
くまさんはもうしあわせさんの居ない家の前、
其れでも時折、立っていたのでした。

それからくまさんは・・
陽気で偏屈で理屈吹きで、でも妙に暗い
上のひとから言われた仕事は絶対に断らず、
たとえ会社に泊まり込んででも
其れが二日、三日に成っても
へらへら笑いながら仕事をする・・
そのころのくまさんのお仕事場に良く居る、
=社員=に成って居ました。

仕事が終わったら、お金に余裕のある限り
・・先輩や上司に連れて行かれた
其の街の繁華街の酒場に行き、
倒れる寸前まで酔えない酒を飲み続けました。

大概は独りで・・浴びるように強い酒を・・
だって其れは癒しでも娯楽でも無かったから。

本来なら自分の隣に永遠に居るはずの
しあわせさんの笑顔を思いだしたくて

でも、いっその事全て何もかも
判らなくなってしまいたくて・・

くまさんの高校の後輩で、其の頃、
社会人になっていた女の子が
街の酒場でくまさんを見、其の呑み方の
あまりの無茶苦茶さに気付き、何度か・・

=先輩はお酒と仕事に逃げているの?
  何から?・・それじゃ死んじゃうよ・・=

そう言って少し切なそうに諌めて呉れても
くまさんは莫迦笑いしながら呑み続けたのでした。

そして、くまさんの仕事。
ある種、人に見てもらうものを
拵えるという仕事でも・・

自分の私生活など一切省みず、
身の回りも身だしなみも気にせず
時に徹夜して勤め先のお手洗いで頭を洗い、
リノリウムの床にごろ寝して
殆ど徒弟、丁稚扱いの先輩の
そう、技術や手法を密かに盗みながら

程近い筈の実家にも年に一度帰るか帰らぬかの
往時流行の、=企業戦士=のように
くまさんは毎日、寝床である部屋と仕事場と
酒場を往ったり来たりしました。

そのうち、仕事場の上司や先輩の一部が
ふと、こんなことを言い始めたのです・・

・・あれの作るものは畑違いから来た分、
  変わってる、変だ、面白いかも・・、と。

でも、大概の場合やり過ぎだと叱責され、あざ笑われ
お前の作るものは自己満足の自慰だと貶され
どうせ、三流大学の哲学あがりに
人に聴かせる文章など書けるものかと笑われ

其れでもくまさんは傍目も気にせず
毎日、何かを拵え続けました。

ぼくがぼくであるために ジョニー・D・P 御作 戯れ絵 のすじい


ですが、そんな暮らしが長く続くわけも在りません

・・40歳を過ぎた頃にはくまさんのからだは
もうかなりボロボロに壊れ始めて居て・・

其の仕事場でいくつか現場の部署を変わり、
似たような種類のお仕事を
何かを拵えて人に見てもらう、
其れで人に喜んで貰えたらなお良し、な

そう、端的に言えば・・田舎放送局の
番組や宣伝作りの仕事に携わりながら

くまさんは最初に職業病のように目を壊し、
次に心臓を病み・・体中の血管がボロボロになって
腎臓を失い、最後には両方の足まで・・
普通のひとと同様の動きが出来なく成るくらいに
壊れていきました・・自業自得と言われながら。

酷いときは鎮痛剤を服用限度ぎりぎりまで
毎日飲み続けて執務机に座り
何度も何度も入院を繰り返し、
仕事場の中でもどんどん隅に追いやられ
自分より後から来た後輩や同輩たちが
くまさんの上司に成っても・・・

くまさんは一生懸命に何かを・・
そう、人生の後半は殆どテレビの広告を・・
安いお金と無茶な期限のなか、
毎日毎日与えられたものを作りました。

楽しかったのです・・ものが出来上がることが・・

そして、其れが顔も知らない数多くの人たちに
見てもらえることが嬉しかったのです。

くまさんの仕事場は、巷で言う
華やかでお給金の良い会社の代表の様な
そんな職種でしたが・・

くまさんには其れも如何でも良いことでした。

若い営業の坊やが切羽詰って持ち込んできて、
上司に蹴飛ばされた挙句押し付けられた仕事でも、
面白いと自分が思える工夫をして・・

お金と時間が掛からない、掛けられないなら
突飛な思いつきを加えて

いつしかくまさんは会社の内外で・・
其の拵えたものを褒められるひとに・・

会社の社長から何度も顕彰されたり
外部のコンテストで受賞をしたり出来る
変人で壊れ者で所詮は使い捨ての駒だけど、
ちょっぴり頑張った人になっていました。

でも、たぶん・・くまさんは其のごほうびに
ごく普通の勤め人さんたちが望むようなもの

会社でえらく成ることや名前が売れること
お給金がたくさんもらえることのような
大事で大切だけどあたりまえの事は
そんなに望んで居なかったのでした。

面倒な仕事、無茶苦茶な仕事が仕上がり、
殊の外お客さんの受けが良くて
担当した若い営業の兄ちゃんの
本心から助かったぁ、と言ってる笑顔の中に

外部で受けた賞を褒めてくれ、
くまさんの拵えるものは何時も変だねえ、と
揶揄しながらも良くやったね、と
褒めてくれた違う部署の上司の笑みに・・

くまさんのお仕事なら面白いから、
喜んでやらせてもらうさ、と言って
からかうような笑みを漏らす
外部のプロダクションのカメラさんの声に

くまさんは何でその年で、
そういうけったいな事を思いつくんですかぁ?
いっぺん脳内のCTとかレントゲン
見せて下さいよぉ、と笑う後輩の瞳に

くまさんは・・いつもいつも・・
もう居なく成ってしまったひとの・・
あどけない=しあわせさん=の
笑顔の欠片が見えるように思えたから。

自分がこうして、誰かに笑って貰えたぶんだけ、
遠い空の彼方に見えるあどけない笑顔が

あの日のままほほえんでくれるように思えたから。

・・きみは居なく成っても、
  ぼくをしあわせにして、くれるんだねえ・・・

ひとに喜んでもらえた時の笑顔が・・
=くまさん=のいのちだったのかも知れません。




でも、そんなくまさんにも
最後のときが近づいて居ました。

もう、くまさんの躰はお仕事を頼まれても
それを完遂出来るか・・それが終えられるまで
仕事場に出て居られるか判らないくらい
ずたずたにぼろぼろに・・

見えないところが壊れて居たのです。

そうして、くまさんは仕事場から
追われるように病の床につき
少し回復しては仕事に行って
正直、無理を重ね続けて・・

じぶんより仕事場の履歴の若い上司や、
周りのえらい人からも
面と向かって、またほのめかすように
・・=要らない=と。

いえ、もうお前には
大事なレベルの仕事はさせられない、と。

単に此処に居るだけなら
下請けの会社から来た
録音技師の手下をやれと言われたりもしました。

でも、くまさんは・・其の場所で
また、誰かに喜んでもらえるなら、
褒めてもらえるならいいや、と・・

必死に自分に言い聞かせました。

自分より遥かに後輩の仕事の、
アルバイトでも出来るお手伝いでも
進んでやらせてもらい、
下請けの会社の青年が作る宣伝の
設計図や原稿さえ一言頼まれれば
喜んで、描いてこっそり渡したり

・・くまさん、ありがとうっす、
此れなら清書させてお客に持って行けます・・

其の、照れくさそうな笑顔一つで、
満足できたから・・・

そこには、紛れも無く
しあわせさんの笑顔が
温もりが見えたから。

でも、時間と壊れた体はくまさんに
其の程度の温もりも許してはくれませんでした。

鎮痛剤で堪えつづけた右脚が駄目に成り
・・血管を広げる手術を数度・・
動くように成ったかな、と思ってすぐ、
くまさんの右の足の・・
いちばん外側の小指が腐り始めたのでした

・・血が其処まで行かなくて。

・・とりあえず小指を、場合によっては他も、
  最悪、足首から切断することもありえます・・

そう言われてくまさんは長い付き合いの小指と
不思議なお別れをしました。

しあわせさんが生きて居た頃から、
靴に入りきれないくらいごつくて

何時もちっちゃく丸まって可哀そうだよ
・・くまさんのこゆび・・

そう言って指てつついたり
撫ぜたりしてくれた、思い出の指でした。

病院のベッドから動けなくて、
自由に成らない足を愛おしそうに時に見つめ

・・おまえはもう、しあわせさんのとこに
        着いたかねえ、小指君・・・

くまさんは、ほんのりと独り言を・・
熱に浮かされた声で呟いています。

しあわせさんは、あんなにも周りを
しあわせにしてくれた子だったから
きっと今頃は、遠い青いみ空のうえ、
ふわふわのパンの様な雲のうえ
足の遅い、気の利かない、要領の悪い
くまさんのことを待っていてくれるんだって・・

もう、にんげんとして老人に近く成ったくまさんは
まるで子供の様な夢を今も見ています。

其れがどれほど切なく哀れな、
でも奇麗すぎの嘘くさい夢だと知っていても。

・・ぼくは、しあわせさんには成れなかったけど、
  誰かをほんの少し笑顔にする事だけは・・

・・出来た気がするよ? ねえ、ほめてくれるかな・・

病室の窓から見える、雲の浮かんだ春の終わりの
青い青い空のもっとずうっと向こうを・・
子供のような瞳でじっと見つめながら。

まるで其処にあの日のしあわせさんの
ちんまりした姿と幼すぎるくらい飾り気のない笑顔が
はっきり見えてでも居るように。



北の国の海の近く、もうすぐこの街にも
短くて華やかな夏が来ます。
くまさんにとって本当の夏じゃあない、
何十回目かの=夏=が・・

しあわせさんの何処にも居ない・・
其れでも華やかで儚(はかな)い夏が。

・・ねえ、でも、ぼくはしあわせだったよ、
     しあわせさん、おかしいかな・・

くまさんの呟きはふわりと
夏近い浜の風に乗っかって行きました

遠い、高い、み空まで届くといいね・・

聴こえたら、いいね・・・・



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