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インターネットはもっと賢くなる――孫正義の11兆円投資計画の素晴らしさ

2017/11/10 14:09 投稿

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米国のバリュー投資家、ビタリー・カツェネルソン氏による短い記事です。孫正義ひきいるソフトバンク社の「ビジョン・ファンド」を、投資家の視点から分析・解説しています。
いつものカツェネルソン節とでもいうべき、読みやすく、わかりやすく、説得力のある投資読み物です。
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・〔角カッコ内〕は、訳者による補足です。
・ドル金額は、あくまで参考までに、1ドル=110円換算で補足しました。
・翻訳許可をくださったカツェネルソン氏に感謝いたします。
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インターネットはもっと賢くなる――孫正義の11兆円投資計画の素晴らしさ
SoftBank’s big plan for a smarter internet is brilliant

ビタリー・カツェネルソン Vitaly Katsenelson
CFA〔公認財務アナリスト〕インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社最高投資責任者

2017年8月18日 原文1 原文2



小さなことはしない。単純なやり方はしない。どんなときでも、それが孫正義だ。


数か月前、ソフトバンク・グループは、1000億ドル〔11兆円〕を募ることを発表した。〈シンギュラリティ〉を見据えた孫正義のビジョンに投資するための資金だ(これは、ベンチャーキャピタル業界の全てを合わせた資金よりも巨額だ)。

〈シンギュラリティ〉というのは、コンピュータの知能が人間の知能を超える特異点のことだ。ソフトバンク社の創業者にしてCEOである孫正義は、それが今からたった三十年後のことだと考えている。


そんなふうに〈シンギュラリティ〉に入れあげるのは、日本の風変わりな億万長者の気まぐれにすぎない――そう切り捨てるのは簡単だ。しかし、ほとんど40年にわたって、つねに一貫して未来を正しく捉えてきたからこそ、孫正義は日本一の大金持ちになった。

孫正義は、頭がおかしいと思われることを一度も恐れたことがない。そして、もっと重要なことだが、自分のビジョンを信じて大きく賭けることを恐れたこともない。

80年代にはパーソナル・コンピュータの普及を予見。90年代にはインターネットの拡大を予見。00年代にはモバイル・インターネットの成長を予見。孫正義の投資成績を上回る人間はほかにいない。20年以上にわたり、複利で年44%だ。

アリババ社への投資が特大の大当たりになっただけじゃないか、と言うのはたやすい。だが、孫正義がソフトバンク社を完全に何もないところから築き上げ、超大金持ち〔ビリオネア〕になったのは、アリババ社に投資する前のことだ。この地球上に、自分の名声で1000億ドルを集めることのできる投資家が、(ウォーレン・バフェットを別にして)孫正義のほかに何人いるだろうか。



〈シンギュラリティ〉の正確なETA〔到着予定時刻 Estimated Time of Arrivalは、孫正義にだってわかってはいないだろう。30年というのは当てずっぽうだ。

でも、僕ら〔ソフトバンク株への投資家〕から見て重要なのは、〈シンギュラリティ〉へといたる旅のなかで何が起こるのか、という過程の方だ。

スティーブ・ジョブズのおかげで〈スマートじゃないフォン〉〔dumb phone ネット接続や高度な機能がない電話〕が〈スマートフォン〉〔ネット接続や高度な機能のある電話〕になったのとちょうど同じように、これから数十年をかけて、いまは〈スマートじゃない〉さまざまなモノが〈スマート〉になってゆく。トースターも、服も、街灯も、クルマもだ。

センサー類や演算装置のミニチュア化、そして、インターネットへの接続が容易になるにつれて、「モノのインターネット internet of things 」が爆発的に拡大する。

これはすなわち、たくさんのデータが生み出されるということでもある。それが、ビッグデータのシステムによって分析されて、意味のある情報となる。さらにそれを実用性のあるシステムへと変換するのが人工知能だ。そういった部分部分を合わせた総体は、その部分のそれぞれよりも、ずっとずっと大きなものになる。


〈シンギュラリティ〉への旅は、僕たちの生活をまるごと変えてしまう。このことに、孫正義はでっかく賭けている。1000億ドルだ。この1000億ドル規模のファンドは、その名もまさに雄弁に、みずからこう名乗っている――「ビジョン・ファンド」と〔ビジョン vision =先見の明、未来展望〕

このファンドの計画が発表されたとき、僕らは――つまり、ソフトバンク株へ投資している投資家たちは――、なにやら不穏なものを感じた。1000億ドルというのは大きなお金だ。ソフトバンク社のバランス・シート〔資産と負債〕は、2016年にアーム社〔英国の半導体設計大手〕の買収で 320億ドルを支出したせいで、すでに大きく膨らんでしまっている(アーム社買収について僕が考えたことは、以前に ここ に書いておいた)。

ソフトバンク社が、自社のお金から 280億ドルを、この「ビジョン・ファンド」に投じると聞いたとき、僕たちはなおさら心配になった。

しかしながら、この話の詳細が明らかになったとき、僕たちは安心して喜ぶことができた。孫正義はやはり天才だ。


まず第一に、ソフトバンク社は、現金を前払いするということは、まったくしない。アーム社の四分の一の所有権を現物出資するというかたちで、80億ドル〔8800億円〕をこのファンドへ最初に出資する。

次に、720億ドル〔7兆9200億円〕が外部の投資家たちから持ち寄られて、その62%が負債、38%が普通株という形をとる。

ここからが面白い。外部投資家たち(サウジ・ウェルス・ファンド〔サウジアラビアの政府系ファンド〕、アップル社、クアルコム社)は、今後12年間はロックイン〔引き出せない投資に〕される。

この負債は、ソフトバンク社に対してはノンリコース〔損失が生じてもソフトバンク社が背負う必要がない〕であり、年7%を配当する優先株というかたちで発行される。それも、現金ではなく、このファンドのエクイティ〔持ち分〕という形での配当だ。

たしかに、7%の配当支払いというのは、こんにちのゼロ金利世界では、とても多額のお金に聞こえる。でも、このビジョン・ファンドは、投資家が資金を引き上げることを、12年間は心配する必要がない。つまりビジョン・ファンドは、じつに長い時間軸で動くことができる。これは、他と競争するうえで、重要なアドバンテージだ。


サウジ政府はこう懸念している。ソフトバンク社は、いちばん良い投資を自社用に拾い上げてしまい、残り物をこのファンドに押し込むのではないか、と。

サウジ政府を安心させるために、孫正義は、1億ドル〔110億円〕を超える規模の投資は全てビジョン・ファンドに入れる、と約束した。

僕たちもこれには喜んだ。なぜかといえば、理由はこうだ。ソフトバンク社の日本の通信ビジネスは〈カネのなる木 cash cow 〉であり、年に約70億ドル〔7700億円〕を生み出している。したがって、ソフトバンク社は、ビジョン・ファンドに投じることを宣言した 200億ドル〔2兆2000億円〕を、このキャッシュフローから、たった3年で賄うことができる。

そのあとは、ソフトバンク社のこのキャッシュフローは、自社の既存のビジネスに再投資できるし、そうしない場合でも、ビジョン・ファンドとは何のかかわりもなくなるのだ。といっても、もちろん、負債を返済(僕らもそれは賞賛する)したり、配当を支払ったり、自社株を買い戻したりということには使われるだろうけれども。

つまり、この1000億ドル規模のファンドへソフトバンク社が突っ込むのは、合計で 280億ドル〔3兆800億円〕ということになる。それ以上を失うことはありえない。いや、それどころか、最悪の場合でも、損失はそこまで大きくはならない。なぜなら、これから 12年間で、ソフトバンク社は、おおよそ 60億ドル〔6600億円〕から 120億ドル〔1兆3200億円〕を、このファンドの運営手数料(年に1%)として受け取るからだ。

そして、もし、このファンドがうまくゆけば、ソフトバンク社は、年8%を超える部分の利益にかんしては、その 20%を実績報酬として受け取ることになる。


すべてを考え合わせれば、このビジョン・ファンドは、ソフトバンク社に投資している投資家たちにとって、大きなプラスだ。

孫正義が成功すれば、その見返りは莫大なものになる。そして、かりに失敗しても、ソフトバンク社が失う可能性のあるお金は、ほんの数年分の収益にすぎない。

ソフトバンク社について詳しくない読者は、僕の書いたほかの記事を読んでいただけたらと思う。

〔おわり〕

過去の記事
ビタリー・カツェネルソン『バフェットとブランソンとジョブズをまとめて安く買う=孫正義を買う』(2015年2月6日)
ビタリー・カツェネルソン『孫正義は指数関数的成長をつかみ取る達人――バリュー投資家のぼくがソフトバンク株を買った理由』(2016年9月9日)


ビタリー・N・カツェネルソン Vitaliy N. Katsenelson Wikipedia

コロラド州デンヴァー市の「インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社」の最高投資責任者。同社のファンドにてソフトバンク株を保有。
ロシア出身。米コロラド大学および同大学院金融学科卒。CFA〔公認財務アナリスト〕。自身の投資情報ブログとして「コントラリアン・エッジ」。
著書に、『バリュー株トレーディング レンジ相場で勝つ』(パンローリング社)、『横ばい相場の攻略本 The Little Book of Sideways Markets』。著書は8ヶ国語へ翻訳。『フォーブス』誌にて「ベンジャミン・グレアムの再来」と称される。



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