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ユーモアはパワフル。アカデミー賞授賞式をボイコットしなかったクリス・ロックから学んだこと

2016/02/29 16:30 投稿

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日本時間2月29日に行われた、第88回アカデミー賞授賞式。

毎年きらびやかな式典ですが、今年は最優秀主演俳優賞、主演女優賞、助演女優賞、助演俳優賞の部門すべての候補者が白人であることから、「#OscarSoWhite」というハッシュタグがインターネット上で広まるほど、多くの人が人種の多様性の欠落への抗議を示しました。

ウィル・スミスやスパイク・リーなどの著名人も出席をボイコットし、緊張感が漂い、今年はどんな授賞式になるんだろう...と多くの人が思う中授賞式が始まりました。

そんな緊張感を、颯爽と登場した今年のMCであるコメディアンのクリス・ロックが撃ち砕き、会場を笑いの空気で満たしました。

クリス・ロックは、アメリカで大人気のアフリカ系アメリカ人のコメディアンで、賢く鋭い視点で社会問題をいつも取り上げるので、私も大好きです。

式の最初の10分間のモノローグで特に素晴らしいと思ったのは、大騒ぎされている問題をシリアスに考えすぎるのではなく、問題点をズバリと指摘しながらユーモアを交え、解決策を提案していること。

例えば、今回多くの黒人著名人が、授賞式への出席をボイコットしたことについて、クリスは次のように話しました。


「I'm here at the Academy Awards, otherwise known as the White People's Choice Awards...(中略) Everybody told me, Chris you should quit. Chris you should boycott. How come everyone who is telling me to quit unemployed? No one with a job ever tells you to quit. I thought about quitting, but they are not going to cancel the Oscars because I quit. Why are we protesting this Oscars now? It's the 88th Oscars. Which means, this whole thing has happened at least 71 times, but black people didn't protest because we had real things to protest at that time. We were too busy being raped and lynched to care about who won best cinematographer. When your grandmother is hanging from a tree we're too busy caring about who won best foreign short. 」

「アカデミー賞授賞式、別名白人審査員授賞式、が始まりました。(中略)皆が言ったんだ、クリス、司会を辞退しろ、ボイコットすべきだ、って。でも、こんなことをいう人に限って失業してる奴だよ。仕事をちゃんとしてる人は、辞めろなんてことは言わない。僕も、辞めようかなと考えたこともあったけど、僕が辞めたところでオスカーの授賞式はキャンセルされない。 それより、なぜ、今回の授賞式でボイコットが起きているかが聞きたい。今回は88回目の授賞式だということは、すでに71回ほど、過去にもこういったことがあったけど、黒人は一回も抗議しなかった。なぜかって、その当時はもっと抗議しないといけない本当の問題があったんだ。黒人は皆レイプやリンチをされていて忙しかったから、最優秀撮影賞とかどうでもよかったんだ。自分のおばあちゃんが木から真っ逆さまに吊るされてたら、最優秀外国語短編賞とか気にしてられないだろ?」

黒人の人種差別の過去の歴史を振り返りながら、ユーモアも交えるところが、クリスのすごいところ。 このスピーチで素敵だと思うのは、彼が周りからのプレッシャーに屈さず、自分の意思を貫いた強さ。「黒人だから辞める」のではなく、「黒人の司会者」という立場をきちんと使い、起きていることの問題点ズバリと指摘し、伝えています。

それは、怒りから起こすボイコットよりよっぽどパワフルで、彼のスピーチの力強さと面白さがあるからこそ伝わってきます。また、ネガティブな状況の中にも、昔に比べたら今の方がまだ随分いい状況だよ、というポジティブな面を見ることも大切なこと。 アメリカでの人種問題は、近年警察による暴行や殺人事件が起きていて、とてもセンシティブな問題。でも、クリスはそれを誰にでも伝わるように、伝えています。

また、彼はスピーチの中で「ハリウッドの映画業界は人種差別をしているのか?」という質問を問いかけながら、解決策も提案しました。

「If you want black nominees every year, you need to just have black categories. You already do it with men and women. Think about it. There's no reason for there to be a man and woman category in acting. It's not track and field.(中略)It's not about boycotting anything. It's just, we want opportunity. We want black actors to get the same opportunities as white actors. 」

「黒人の候補者が欲しければ、黒人枠をつくればいいんだよ。だって、すでに女性と男性枠をわざわざ作っているだろう?考えてごらん。「演技」に賞を与えるのに、わざわざ男と女のカテゴリーを作る必要がないだろう?陸上競技じゃないんだからさ。分ける必要はないんだよ。(中略)なにかをボイコットしたいことがポイントじゃないんだ。ただ、同等の機会が欲しいだけ。黒人の役者が白人の役者と同じチャンスをもらって欲しいんだ

この問題の根本部分が「枠」と「人種間の不平等さ」であることを問いかけながら、さらには演技という部門だけなぜか「男女」で分けられているという、おそらく誰も疑問に思わなかったことを、クリスは疑問視しています。納得してうなずいてしまいます。

さらにクリスは、アメリカでもうひとつ起きているフェミニズムのトレンド「#askhermore (女性にもっと質問を聞いて) 」についても言及しました。 それは、インタビューなどでどうして女性だけ役作りや演技のことについては聞かれず、洋服や外見のことについてばかり聞かれるのか、という問題。

エンターテインメント業界では、男性は外見のことは聞かれず、もっとレベルの高い質問を聞かれることが問題視されています。 でも、クリスはその問題のこともツッコみます。

「Another big thing is you're not allowed to ask women what they are wearing anymore. There's a whole thing, #askhermore. You ask the men more. Everything is not sexism. Everything is not racism. They ask the men more because all the men are wearing the same outfit. If George Clooney showed up with a lime green tux on and a swan coming out his ass, somebody would ask, 'What're you wearing, George?'" 」

「もうひとつの大きな問題は今は女性に「今日着ている服について教えて」と聞いてはいけなくなってしまったこと。男性にはもっといい質問を聞いているから、"ask her more"っていうらしいんだけど、すべてが性差別というわけじゃない。すべてが人種差別というわけでもない。男性が女性より多くの質問を受けるのは、男性は皆、同じ格好をしてるからなんだよ。もしジョージ・クルーニーが黄緑のタキシードを着てしっぽから白鳥が飛び出していたら、そりゃあ「ジョージ今日は何を着ているの?」と聞かれるよ」

クリスがすごいなと感じるのは、冷静に、感情的にならず、ユーモアたっぷりに、ネガティブなシチュエーションをポジティブに変えていく強さを示しているところ。 問題について話をするときは、怒りで表現をするより、客観的で俯瞰した視点から根本的な問題が何かを考えて伝え、それについての解決策を提案する方が多くの人の心に伝わる、ということの最高の例を見た気がしました。

また、「自分の立場だからこそできること」を意識し、彼はできることを成し遂げました。周りがボイコットをしているからボイコットをするのではなく、ボイコットをしている根本的問題に彼は正面から立ち向かっています。

これは、私たちも取り入れられるテクニック! なにか自分が疑問に思う問題があるときは、「これは問題だ」と叫ぶのではなく、冷静に、問題を聞く人の立場にどうすれば伝わるかを考えて、スマートに伝えるのがカッコイイ。

そしてその問題が解決するにはどうしたらいいか、自分なりのオリジナルな解決策を考えて、冷静に伝えることも大切なことです。

私自身もアメリカで舞台女優をしていた時期がありました。当時も今も、やはりまだまだ白人社会でマイノリティ(有色人種)は機会が限られています。 でも、キャスティングや映画づくりにおける人種問題が議論されるようになっただけでも進化だと思うし、クリスの言うように、あれもこれも問題だとシリアスに考えすぎる必要もないかと思います。ただ、大きな問題だと感じることに対して発言することは、大事。重要なのは、その問題に対してどのように声をあげて行動を起こしていくかということ。

ユーモアはいつだってパワフル。ネガティブなものをポジティブに変えていければ、変化も起こしやすくなることを、クリスのスピーチから学びました。

image by gettyimages



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