スピリチュアリズム史上、最高のミディアム」として名高いダニエル・ダングラス・ホーム。彼は19世紀後半のスピリチュアリズム・ムーヴメントの最中、物体を移動させたり浮遊させたりする霊現象を引き起こして話題になりました。しかしホームの名声を不動のものにしたのは、なんといっても「空中浮遊(levitation)」という圧倒的な能力でした。果たしてその「空中浮遊(levitation)」とは一体どんなものだったのでしょうか――。(編集部)

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ホームの空中浮遊の目撃談は、いくつも残されていますが、ここでは小説家ウィリアム・メイクピース・サッカレー編集の月刊誌『コーンヒル・マガジン(The Cornhill Magazine)』の1860年8月号に掲載されたその模様を引用しておきます。

「ホーム氏は窓の隣に座っていた。カーテンを背景とした薄暗がりの中、彼の頭がおぼろげに見ることができ、また彼の両手は彼の前でぼんやりとした白い塊に見えた。

やがて彼は、穏やかな声で『わたしの椅子は動いています――わたしは床から離れています――わたしに注目しないように――何か他のことを話していてください』と言ったような意味のことを述べた。〔中略〕

わたしはホーム氏の反対側に座っていた。そしてわたしは彼の手がテーブルから消えているのを見た。そして彼の頭は深い影の彼方に消えていくのを見た。

ほんの少し経って、彼は再び語った。今度の彼の声はわたしたちの頭の上の空中にあった。彼は椅子から離れ、地面から4フィート、あるいは5フィートの高さにまで上昇していた。彼がより高く上昇していくに連れて、彼は姿勢を丸めていき、最初は垂直だった姿勢が最後には水平になった」

この後、ホームはそのまま窓から出ていくと告げ、驚くべきことにも実際にその通りになります。記事はその衝撃の瞬間を次のように伝えています。

「わたしたちは完全な沈黙の中で観察していた。そして空中で水平に横たわりながら、足から先に、一方の窓からもう1つの窓へと向かって行く彼の姿を見た。彼は移動しながらわたしたちに話しかけてきた。そして彼は向きを反対に変え、窓を再び横切るだろうとわたしたちに告げた。彼はそれを行った」

記事によると、さらにその後、数分間、ホームは目撃者たちの頭上を浮遊し続けたそうです。ちなみに、「フィクション以上の奇妙さ(Stranger than Fiction)」と題されたこの記事は、当初、匿名となっていましたが、後にその書き手が有名な劇作家で批評家のロバート・ベルであることが明らかとなっています。

もちろん、ホームの交霊会で報告された様々な現象になんらかの「トリック」があったのではないかとの疑いは、当然残ります。当時からスピリチュアリズムに懐疑的な人々は、ホームのことを激しく非難しています。

たとえば、有名な女流作家ジョージ・エリオットは、ハリエット・ビーチャー・ストウ(アメリカの奴隷制廃止論者であり、小説『アンクル・トムの小屋』の作者として知られているが、熱心なスピリチュアリストになっていた)へ宛てた1872年3月8日の手紙の中で、かなり辛辣な口調で次のようにも述べています。

「わたしが言いたいことの例としてH氏〔ホーム〕を取りあげましょう。

〔中略〕彼はわたしにとって道徳的嫌悪の対象です。クルックス氏やリンゼイ卿による最近の報告についてはまったく価値がありませんし、その他のものはわたしの心に対してH氏が単に詐欺師であるという確信をもたらすものです。

彼の並はずれた顕現と称しているものは、あたかもそれらが暇な金持ちのための陶器類やポマードとまったく同様で、新たな市場を作り出すために流行に変化をもたせているようなものです」

(Ed. J. W. Cross, George Elliot's Life as related in her Letters and Journals, Volume III(New York: Harper & Brothers, 1885), p. 111より引用)

こうした反スピリチュアリズムの人からの批判はあったものの、「では実際にホームがどのようなトリックを使っていたのか」ということになると、説得力のある説明をできる者は、なかなか現れませんでした。しかも、事態はまったく逆の展開となっていきます

ウィリアム・クルックス

イギリスの化学者・物理学者のウィリアム・クルックスが、1869年からホームのミディアムシップの実験調査を開始し、やがてそれが本物であるという見解を発表することにもなります。

単なるスピリチュアリズムの信奉者ではなく、すでに「タリウムの発見」などによる業績で科学者としての確かな地位を築いていたクルックスがホームの能力を本物だと証明したというニュースは、反スピリチュアリストにとってはやっかいな問題です。

実際その後、クルックスの実験に対して、その不備を指摘する科学者を交えての賛否両論の議論が湧きあがることになります。

はたしてホームの能力は本物だったのでしょうか?

その真実がどうであれ、彼の「トリック」は「公の場」では決して暴露されたことはなく、第一級のミディアムとして1860年代から1870年代初頭のロンドンのスピリチュアリズム・シーンにおける中心的存在であり続けます。

先ほど述べたウィリアム・クルックスによるホームに対する実験も含め、そのミディアムシップの真偽を巡る議論については、改めてまた紹介したいと思っています。


(伊泉龍一)

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