「社会的少数派」の意。「社会的弱者」として言い換えられることもある。
当連載では、自身もマイノリティの立場であるライター・おつねが、マイノリティを描く映画を通して、見解を語っていきます。
『チョコレートドーナッツ』(2014年日本公開)
1979 年、カリフォルニア。ゲイバーで働くルディ。アパートの隣の部屋には、薬に溺れた若い母親とダウン症の息子・マルコが住んでいた。ある日、マルコの母親は麻薬使用のために逮捕されてしまう。一時は施設に入れられていたマルコだが、以前から彼のことを気にかけていたルディは、交際している弁護士・ポールとともに引き取ることにした。同性の恋人同士であることを伏せ、法的手続きによりマルコの監護者となったルディとポール。マルコにたくさんの愛情を注ぎ、しあわせに暮らしていた。ところが、ある事件をきっかけに、3人の関係が引き裂かれることになる──。
前評判を聞いて、銀座の映画館へ観に行った。
初めての銀座ということもあって全力でおしゃれして行ったのに、見終わったあとに泣き過ぎてグシャグシャになった思い出の映画。
あとから「実話を基にしたお話」って聞いて、とても動揺したことを鮮明に覚えてる。
いまからたった何十年か前にそんな恐ろしい時代があったんだいま、私たちは、良い言いかたをしたら「お互いを許し合いながら」、悪い言いかたをしたら「他人への興味を失いながら」、いろいろな人や物事がごちゃまぜに共存する世のなかで生きている。
心ないことも言われたりはするけど、面と向かって悲しくなる言葉を投げかけられる機会って、ほとんどない。
でも、『チョコレートドーナッツ』のモデルになった1970~1980年代は、ただ「肌の色が違う」とか「心と身体の性が違う」とか、そういった「人と違う」っていう当たり前が受け入れられていなくて、本当にそれだけのことなのに、人からバカにされて、日陰に隠れながら生きていかなければならない人たちがいた。
いまからたった何十年か前にそんな恐ろしい時代があったんだって、知識として知ってはいたけど、本作を観て初めて体感できたような気がする。
私って可哀想なの?私らしく生きているなかで、少なくない頻度で聞かれるのが「将来どうするんですか?」「いままで悲しいことってありました?」っていう質問。
この質問をされたとき、私はすごく悲しくなる。
私は、いままで"おつね"として21年間、とても充実して、素敵な人たちに囲まれて、とってもハッピーに過ごしてきた。
もちろん泣いたこともあるし、心ない言葉に落ち込んだこともあるけど、きっと誰にだって経験のあることだと思うし、そんなネガティヴなことがいまじゃ笑い飛ばせちゃうくらいに毎日がとっても濃くて、楽しく生きている。
でもこの質問をされると、私が生まれてから今日まで過ごしてきた21年間のすべてが一瞬で否定されたような気持ちになる。
「私って可哀想なの?」「悲しくてつらい毎日を生きていると思われているの?」って、なんだか私と関わってくれている素敵な人たちの存在もなかったようにされているような気分になってしまう。
「しあわせ」は人によって違うものだから『チョコレートドーナッツ』を観てとくに思ったのは、「しあわせ」は人によって違うものだから、自分のなかにあるものさしで他人のしあわせを判断しちゃダメだってこと。
きっと映画のモデルになった時代には「ゲイのカップルに育てられるなんて可哀想、絶対不幸せになる」という考えがあった。
いや、この時代だけじゃなくて、きっと現代でも、同性のカップルが子どもを育てることになったら白い目で見る人のほうが多いと思う。
たとえば、ほかの人より何かハンデを抱えて生まれてきた子どものいる家庭を見て、無意識のうちに「可哀想」と思う人もいると思う。
たとえば、いろいろな理由から両親が別れてしまって、どちらかひとりの親しかいない家庭を見て「うちはどっちもいてよかった」なんて思う人も絶対いると思う。
でも、しあわせか不幸せかを決めるのは本人たちなんだから、どうかそんな目で見ないでほしい。
この世に生きている全員が全員違うし、その人にしかない物語を、人生という形で生きていくなかで、ハッピーエンドかどうかの判断なんて、本当に人それぞれなんだから。
誰かの人生を哀れむ時間があるのなら、その時間を使ってもっと自分の物語を、ハッピーエンドをさらにグレードアップするために何ができるのかを考えてみてほしい。
そして、もし自分の物語に余裕ができたのならば、誰かの物語をハッピーエンドにするお手伝いをどうかしてほしい。
本作に出てくるマルコが大好きだったもののひとつが、ハッピーエンドのお話。
いつかマルコに会ったときのために、この世のなかを、これからの世のなかを、ハッピーエンドの物語であふれた温かいものにしていくために。
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