平衡感覚を保ったり、周囲を感知したりするのに、とても大切な役割があると言われている。
当連載では、アーティストでありライターのJunko Suzukiにとっての「ねこのひげ」を紹介していきます。
10月にやっと引っ張り出してきた冬の羽毛布団。
適度な重みを感じながら、思い切って鼻先まで布団を引き上げる。
深呼吸と同時に鼻先をかすめる抜け毛のチクチク感...。
毎晩これに悩んでいる。うちの住人の2色の毛がまとわりつく痒みだ。
油断禁物の同居ライフ黒い住人は、私が布団でほっと一息する瞬間を逃さずに、必ず左脇から入って左肩に顔を置いてゴロゴロと喉を鳴らす。
そんなことされて、撫でずにいられようか。
まずは、いちばんすべすべの背中のあたり全体をゆっくりとひと撫でし、頭の場所をそれとなく確認。耳の付け根をなでなで。
布団のなかでもぞもぞ。いちゃいちゃ。
次の瞬間、ゴスっと鈍い音が響く。
さっきまで白い住人が足もとにいたかと思いきや、すっくと起き上がり、上に舞ったかと思った瞬間、両の前足で仁王立ちのような猫パンチを食らわしてくるのだ。
やめて、それ、みぞおち...ぐぬぉ...。
しあわせは常に危険と隣り合わせ、と言うには大げさだが、住人との生活はいつ何時も油断は禁物。
引くタイプの扉ならどこでも開けられるようになった白い住人は、向かうところ敵なし。どこからともなく食料を探し当て、家中に撒き散らす。
黒と白。性格も対象的な2名この住人2名、もとい2匹の性格差はマンガくらい対照的。
自分がかわいいことを分かっている、黒い住人は女子のなかの女子。ミスお猫様。
適度な距離感で現れ、じっと上目遣いで見つめ、さり気なくそばに来て擦り寄って鳴いてくれる。
暴れん坊で食いしん坊、走れば足音がする辺りは猫の風上にもおけない奴。かと思えば、甘ったれでずっと鳴いて付きまとう白い住人は完全なわんぱく弟分。
大学の先輩が拾った黒猫をFacebookで見て、すぐに引き取りに行ったのが4年前。
里親募集のホームページで見つけた白猫を埼玉まで迎えにいたのがちょうど1年ほど前。
この2匹を見ていると、あまりに性格も行動も違うので、私は小さい頃どんなだったのだろうか、とぼんやり考えることが増えた。
成長とともに生まれる変化、ずっと変わらない個性。誰もが生まれながらにして持っているものと、時間とともに忘れてしまうこと。
大人になって実現した、東京ライフのスモールライトスポーツ刈りくらい短い髪に、ショートパンツを履き、走り出せば男の子たちを蹴散らすほどわんぱくだった幼少期。
「俺」と自分のことを言って、従兄弟たちに激しく止められた小生意気な私が、大好きな祖父と一緒にいつも見ていた夕方のテレビで恋い焦がれたのは、ジャングルを優雅に闊歩する艶々の黒豹だった。
強くしなやかで美しい。「いつか、この動物を」と真剣に信じていた3歳。
呆れた母が、小学校に上がったころの誕生日に、枕のように大きな黒豹のぬいぐるみを買ってくれた。
そんなことを思い出し、ふと我が家の黒猫様と目が合う。
私は30年間変わっていないようだ。
ずいぶんと小さくなったね。
文/Junko Suzuki
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