世間からは「なんで?」と思われることでも、本人に聞くときちんと理由がある。そんな個人の「原動力」に迫ります。
──齋藤さんは「ZINE(ジン)」を作っているんだよね。
「はい」
──そもそもZINEってどんなもの?
「かんたんに言うと、雑誌がもっと個人的なものなったのがZINE。もともとは『MAGAZINE』っていう言葉から派生したものです。以前、文筆家の野中モモさんのワークショップに参加したときに聞いた話によると、20年代に限られた人同士で流通する出版物がSF愛好家などによって作られて『ファンジン』と呼ばれるようになったみたい」
──へえ!
「あと、90年代にライオットガールによるフェミニズムの流れが巻き起こったときに、女性たちが作って普及したものも、きっかけのひとつだと言われています」
──じゃあ、ZINEの根幹にはフェミニズムの思想があるってこと?
「そうですね。でも最近だと、フェミニズムだけに縛られないで、好きな写真、絵、興味のあることとか、自分を表現するツールとしてZINEを作っている人が多いですね」
──イメージとしてはコミケとかに置いてある同人誌が近い?
「そう。それをもっと個人に落とし込んだ内容になっています」
──なるほど。齋藤さんは何がきっかけでZINEを知ったの?
「以前、代官山 蔦屋書店に行ったときにZINEのコーナーがあって、そこで手にとったのがきっかけ。おもしろそうだなと思って」
──いつから作り始めた?
「初めて作り始めたのは高2くらいだけど、そのときは売ったりはしてなかったですね。ちゃんと人前に出し始めたのは大学1年生のころからかな」
──齋藤さんが作ったZINE見せてもらってもいい?
「もちろんです」
──これはLena Dunham(レナ・ダナム)について書いてるんだね。
「はい。ZINEにもいくつか種類があって。『Personal zine(パーソナル・ジン)』っていう自分の内面とか思想にひもづけて書いたものと、『Fun zine(ファン・ジン)』っていう自分が好きなものについて書くもの。あとは文章少なめでイラストがいっぱい載っているイラスト系のZINEもあります。レナ・ダナムのはファン・ジンですね」
──1冊だいたいどれくらいの期間でできる?
「ZINEにもよるんですけど...2、3か月くらいかな」
──けっこうかかるんだね。作り始めるときはまずどこから決めるの?
「私はイベントに出すことが多いので、そのイベントに間に合うように何か作ろうかなって思ってから、問題意識のあるものからテーマを引っ張ってきます」
──ネタはどこから見つけてくる?
「私、何人かカルチャーが好きな人がいて、たとえばコラムニストの山崎まどかさんが書いている本から得ることも多いです。本とか映画からテーマを見つけることが多いかも」
──ZINEのデザインかわいい。色合いもガーリーで、なんかフレンチガールみたい。こういうデザインも全部自分で考えるの?
「はい。使う紙もZINEによって素材を変えたりしています」
──こだわってるんだねえ。1冊だいたいいくらで売ってるの?
「全部500円。でも、全部自宅で作ってるんで、ほぼ利益はないです」
──なんか話聞いてたら、私もZINE作りたくなってきた。でも、作り出すのはいいけど、完成させるのって大変そう...。
「そうなんですよねえ。完成するまでが長いんで、完成しなかったもののほうが多いかもしれない。作る理由や期日とかがないと、なかなか難しいですね」
──次にZINEを作る予定は?
「じつはいま2冊作ってます。イギリス留学中に出会った友だちと一緒に『Nighty Book Club』っていう本のクラブを立ち上げていて、12月にそれぞれのお気に入りの本を持ち寄って話し合う読書会を開催しようと思っているので、それに向けて1冊作ってます」
──読書会の主催者ってこと?
「はい。て言っても、まだ開催したことなくて、これからなんですけど」
──規模はどれくらいを考えてるの?
「会場にしたいカフェのキャパシティにもよるので小規模です。5、6人くらいかな」
──どういうきっかけで読書会を開催しようってなったの?
「きっかけはレナ・ダナム。彼女はウェブサイト『LENNY LETTER』でよく本の情報をどんどん発信しているんです。若者にとって影響力のあるレナが、本を当たり前に取り上げているのを見て、日本にそういう人ってあまりいないなあって思った。人気の若いモデルさんが本について話しているのも見たことないし。そこで、アメリカの本文化と日本の本文化があまりにも違っているなって感じたんです」
──うーん、日本では本を読んだり紹介することがなんか特別っていうか、ちょっと高尚なものみたいなイメージがあるのかな...?
「読む人が少ないからかなあ。もっと日本の若い人も、当たり前に本と触れ合ってもいいんじゃないかって思ったんですよね。で、調べてたら、海外では若い女の子たちが集まって朗読会とかZINEを持ち寄ったパーティをしていて、そういうものに近い形で気軽にブッククラブができたらいいなって思って『Nighty Book Club』を始めました」
──参加者はどうやって集めるの?
「SNSで集めようかなって思ってます。本当に来たいなって思ってくれている方が来てくれればいいな」
「あともう1冊作成中なのが、『Sparks magazine』っていう私個人のマガジン。いままでつながりのないZINEを作ってきたので、何か統一性のあるマガジンを作っていけたらなって思って」
──月刊誌みたいな?
「うん、雑誌みたいに定期的に出せたらいいな。でもけっこう作ってたんですけど、途中でおもしろくなくなっちゃったので、1回全部捨てて、また新しく作ろうかなって思ってます。時間が経っちゃうと新鮮味がなくなって、そんなにおもしろくないなーってなっちゃうんですよね」
──あー、時間経つとそういうのあるよね。でもさ、SNSでもZINEでもそうなんだけど、こうやって誰でも気軽に形として自分を発信できるのはいいことだよね。
「そうですね」
──でも、ZINEってそれぞれの内面にあるものを体現化させたものでしょう? それを恐れずにさらけ出せるのがすごいなって思う。
「そこは意識してるかな。私はけっこう自分の誰にも言っていない部分とか1対1でしか話せないような部分をZINEにしています。本ってひとりで読むものだから、対話するイメージで作ってるんです。だから、表面的なものじゃなくて、内面をさらけ出して、読んでいる人と繋がれたらいいなって思ってZINEを作っています」
──対話かあ、すごくいいね! 同じ大学にはZINE読んでいる子いる?
「それが、ひとりもいないです。そもそも、みんなZINEが何なのかをあんまり知らないと思う。友だちがあんまり興味ないかなって思って気にしちゃうんで、インスタにはあんまりZINEのことは上げないようにしてるんです。その代わりTwitterでいくつかアカウントを作っているので、そこにつぶやいたりとか」
──そうなんだね。でも知ったら興味は湧いてきそう。私も作りたいって思ったし。
「うん。ZINEがもっとみんながかんたんに手にとれるものになればいいですね。代官山 蔦屋書店にはわりと置いてありますけど、ほかの本屋さんにもあればいいのになーって思います。海外だと本屋の一角に個人が出しているZINEコーナーが積み上がっているんですよ。日本にもそういう場が増えればいいな」
撮影・取材/グリッティ編集部
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