これは、それだけフランス人のライフスタイルに憧れている人が多いという裏返し。そんななか、先日、いまフランスで、注目を集めているシンガーソングライター、Fishbach(フィッシュバック)が来日。
リアルな25歳の素顔に迫ってみると、よく言われている"フランス人は〜"のイメージを裏切ってくれました。
音楽をはじめたきっかけは、メタルのコンサートフランス北東部シャンパーニュ地方にあるランス出身の25歳。歌手活動をはじめたのは、17歳のころ。
「子どものときは映画の美術セットを作る仕事をしたいな、と思ってた。でも、17歳のときにたまたまメタルのライブに行って、なぜかギタリストに目を奪われたの。普通、メタルのギタリストはギターを低く持って演奏するのに、その人は、高い位置で弾いていて。
その姿になんだかとても興味がわいてしまって。それでライブが終わったあとに話しかけたら、いきなり『君、いい顔しているね。一緒に音楽をやらないか?』と誘ってきたの」
初めて行ったメタルのライブで音楽に興味をもち、声をかけたら誘われた──。意外と世のなかって偶然でできていると思わせてくれるストーリーです。
「そんな風に言われて『それなら、やったろうじゃない!』と思わず返事をしちゃった。その後、小さな街の小さなバーで初めてライブをしたんだけど、私のやりたかったことはこれだ! と強烈に感じて。それが、音楽をスタートしたきっかけ」
小さなバーでの観客の反応が、いまでもFishbachの記憶に強く残っているのです。
曲作りから見せかたまで、すべてセルフプロデュース音楽をやってみようと決意して、ソロになり、デモテープを制作し、関係者に配る日々。一昨年ごろから、フランスの様々なフェスティバルの新人発掘ステージに次々にブッキングされ、頭角を現してきたFishbach。
彼女の音楽を実際に聴いてみると、新しいのにどこか懐かしさが感じられます。パフォーマンスは、すでにベテランのような堂々とした雰囲気。新人でありながら、揺るぎない唯一無二のスタイルが確立されています。
それもそのはず。彼女は「自分自身でいることを表現したい」という思いが強く、曲作りから最後のミックスダウンまで、すべての工程において携わっているのです。
誰にも指図されないし、飾らない──。そんなありのままの姿がすべて音楽に投影されています。
パリ同時多発テロ事件が生んだ絆デビューするなりフランスでブレイクしたFishbach。
ブレイクのきっかけを聞いてみると「自分でもよくわからないけど...」と言いながら、2015年11月13日に起きた、パリの同時多発テロ事件の話をしてくれました。
「事件の直前に『Mortel』という曲を発表したんです。歌詞は、"人の死に様"みたいなことを表現していて。で、この曲を発表した後にテロ事件が起こりました。
そうすると、この曲がテロでトラウマを負ったフランスの人たちに心に刺さっていったんです。テロ直後は、この曲を聴いて、喪に服していたような感じもありました。
コンサートでこの曲を歌うと、オーディエンスは、みんな肩を組んで一緒になって熱唱してくれます。どこかノスタルジック、でもエネルギーにもなる曲は、人の心を動かすきっかけになったのかもしれません」
多くの人が胸を痛めたテロ事件。Fishbachの歌は、パリの人たちの見えない絆となって広まっていきました。
音楽でもプライベートでも自分自身を出さずにはいられない新人とは思えないほどしっかりしていて、確固たるヴィジョンを持つFishbach。でも、プライベートの話になると、かわいらしい表情で等身大の25歳の姿を見せてくれます。
「東京に来たのは今回が初めて。最初に感じたのは、東京の人は美意識があるなってすぐわかった。
フランス人もフランス人なりの美意識を持って暮らしてて。パリと東京の景観やファッションは違うんだけど、美意識という意識を持っていることが共通している、と感じたの。東京って、自分とはちがうのに自分の心と似ている部分もある、不思議な感じだけど。必ずまた来たいわ。
日本に行きたいフランス人は本当に多いのよ! 日本人は、思いやりがあるし。フランス人は意外とガサツだったり、言いたいことはストレートに言ってくるから(笑)」
さらに、音楽でもプライベートでも自分に正直にいることしかできない、とも話してくれました。
「私は、自分の頭のなかで考えていることが、すぐに顔に出てしまうの。誰かと一緒にいて、その人が好きだと思ったら、すぐにバレてしまうし。
ボーイフレンドのお母さんに会うときは、緊張して、しっかりしないといけない! と思うんだけど、その2秒後には無理...ってなってしまって。自分の内面を外に出さずにはいられない人間性なんです」
休日はどんなことをしてる? と聞いてみると、
「お散歩するか、お家でリラックスしてる。ショッピングもあまりしないし。
洋服を買うとしたら、ヴィンテージショップ! いま着てる黒いニットもそう。黒はいちばんシックな色だから大好き。同じような服ばっかり持ってるよ。シャンゼリゼには、ほとんど行かない(笑)」
と、とにかくマイペースにリラックスできる時間を大切にしているそう。
人それぞれ。ちがう人生を送っていても、同じ気持ちはある自身のアーティスト活動のほかに、いろんな人から曲を書いてほしい、プロデュースしてほしい、というオファーも殺到しているFishbach。
音楽以外でも、シャネルやクリスチャン・ルブタン、ニナ・リッチなど、ハイブランドからラブコールが殺到。衣装提供をしてもらったり、コレクションにも呼ばれたりなど、はやくもセレブな一面も。でも、あくまでも音楽が彼女の軸。
「自分の歌を通して政治的なことを伝えようとは思ってないの。たとえば、運動する人は走ることでストレスを発散するのと同じように、私は、音楽で自分のなかにある叫びを表現するだけ。
恋愛の苦しい気持ちとか後悔とかを歌にすることで、自分自身を解き放ってる。それって、すごくエゴイスティックな行為かもしれないけど。
でも、みんな、私と同じように人生のなかで心を打ち砕かれた経験をしているんだよね。だから、私の歌に自分のことのように共感してくれるんだと思う。"私も同じ目にあったよ!"ってね(笑)」
偶然、誘われたことがきっかけで導かれるように歩むことになった音楽の道。楽しいときはよろこんで、辛いときは落ち込んで、泣きたいときは我慢しない──。そんな素直で自然体なところが、聴く人を魅了するFishbachの音楽。
「こうなりたい」と憧れたり、それに向かってがんばったりすることも大事だけど、いまの状況を受け入れ、飾らないいでいることがなによりの魅力なのかも、とFishbachと話していると思えてきました。
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