女流落語家・立川こはるさんへのインタビューを通して、いまブームと言われる落語の魅力を紹介する連載。ラストは、生の落語が持つ魅力を紹介します。
別に泣きたいわけじゃない落語を聴きに行って、笑ったり、ときには泣いたりーー。自分の感情をおもいっきり外に出すと、観終わったあとすっきりしている自分に気がつきます。
そんな話をしたら、こはるさんは「落語はスケッチなんです」と、よりわかりやすく表現してくれました。
「たとえば、夕暮れどきの工場がある下町の景色を思い浮かべてください。その景色を見て、夕日がきれいだなって思う人もいれば、下町の瓦屋根の先に見える電柱が哀愁を誘う景色だなとか、どこを描くかは人それぞれですよね。落語もそのときの気分によって、どこに視点を置いてもいいよっていう世界なので自由に楽しめばいいんです」
よく映画の告知で「泣けました!」とか「日本中が泣いた」という言葉を耳にします。正直、どれだけ映画を観て泣きたいんだろうと思ってしまうほど。
テレビのお笑い番組も「さあ、ここ笑うところですよ」と言われている気がして、疲れた頭と体には、少々しんどいことも。
ですが、観る側の想像力に委ねられる部分が大きいのが落語のいいところ。
人情話は泣けとか、この噺なら笑えとか、そういう決まりごとはありません。ただ、頭と心を空っぽにして、その世界にスーッと飛び込めばいいんです。
真剣すぎても、正直疲れちゃうライブや演劇はお金を払っているからか、その分じっくり楽しみたいという欲が生まれます。
落語家さんも、高座(寄席などの舞台)の上から「芸術鑑賞じゃないんですから、そんなに身構えないで」と、お客さんに向かって言っています。「だからって、寝るんじゃねえ!」なんて洒落も言いますけどね。
あらためて考えると、肩の力を抜いて気楽に見られるエンターテインメントって、意外と少ないのかもしれません。
ちょっとだけ、自分を開放できる場所「どこに惹かれるかわからないので、せっかくなら生の落語に触れてほしいですね」
と語るこはるさん自身も、落研時代に寄席に行ったことが落語にハマるきっかけになったとか。
また、地方の落語会では、お客さんに「東京の人って毎日、生の落語が観られていいね」と言われたそうです。
たしかに東京には、初めてのひとでも行きやすい「らくごカフェ」や「渋谷らくご」、それから500円で入れる新宿末広亭の深夜寄席や上野鈴本演芸場の早朝寄席など、生の落語に触れられる機会がたくさんそろっています。
「そうして落語が、いつもの仕事と遊びと家のルーティンから抜け出すきっかけになればいいなと思います」
と、こはるさん。
疲れた日の夜、ふらっとどこかの落語会に行ってみる。そこには、自分を少しだけ開放できる非日常の空間が待っています。
[第8回 立川こはるの冬休み]開催日時:2017年01月25日(水)19:00開演
場所:横浜にぎわい座・のげシャーレ
木戸銭:1,500円
写真/出川光 取材・文/D.O.B
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