友だちや家族、同僚がなったら、どうする?
アンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防のために乳房を切除したことや、小林麻央さんが公表してくれたことで、乳がんなど女性の病気について考えることが増えてきました。
なんとなく不安になるけれど、その現実が目の前にきたとき、何をどうしたらいいのか想像もつきません。
そこで、今回、モデルであり乳がんサバイバーでもある藤森香衣(ふじもり かえ)さんへお話をうかがってきました。
命を救ってくれた友だちのことば藤森さんは、NPO法人「C-ribbons(シーリボンズ)」を立ち上げ、「がんサバイバー」と「支えるすべての人たち」のために活動しています。
11歳からモデルをはじめ、70本を超えるテレビCMや広告に出演してきた藤森さん。乳がんとわかったのは2011年、35歳のときでした。
「胸にしこりを見つけたときは、本当にこわかったです。じつは2009年に、当時26歳だった友だちをがんで亡くしていて。そのとき彼女が、『お願いだから乳がん検診は受けてね』と言っていたのを思い出し、勇気を出して検査に行きました。
でも最初は、触診でもエコーでもマンモグラフィでも『何でもない』と判定されて。それでも予感がぬぐえず、病院を変えて精密検査をしてもらい、2年後にステージゼロと診断されました」
ステージゼロという超初期で乳がんが発見されるのは、めずらしいケース。友だちのことばと、自分の直感を信じて行動しつづけたことが発見につながりました。
「こんなに早くわかったのは友だちのおかげ。でももうそのお礼を、彼女に伝えることはできない。それなら私が、この経験を伝えてひとりでも乳がんになる人を減らせたらと」
そんな思いで、手術が決まったことをブログで公表することにしました。治療の様子も記していった藤森さん。手術では右乳房を全摘出し、乳房を再建。モデルとして復帰するかたわら、乳がんなどの啓発活動をスタートします。
「でも、どうしてもひとりじゃできないこととか、もっと深く知りたい、やりたいという気持ちが強くなってきて。心理カウンセラーの小高千枝さんをはじめ、仲間を増やして設立したのが『C-ribbons』です。あのときは、なんだかドラクエみたいな感じだったよね」
そういって、この日の取材に同席してくれた小高さんとほほえみあう藤森さん。
「C-ribbons」では乳がんだけでなく、女性特有のがんについての知識を共有し、「もしがんになったらどうしよう?」という疑問や不安に応えるイベントや、セミナーを企画しています。
患者に原因を求めないでいまやがんは、日本人の2人に1人が何らかの形でかかるとされる国民病。乳がんは12人に1人の割合といわれています。
もし身近な人ががんになったら、どう接したらいいのでしょう。
「患者として感じたのは、原因を探ってほしくないということかな。『何を食べていたの?』とか、『がん家系なの?』とか、そういう質問をされるのがすごくショックで。自分が悪いことをしたから病気になった、と言われているようで...。
がんの症状は人によって本当にさまざまなので、原因を求めても意味がない。自分は違う、と思える安心材料を患者に求めるのはどうか、と思います」
そして、もしお見舞いに行くのなら、事前に各病院のルールを調べてほしいと藤森さん。抗がん剤の治療中はにおいに敏感なので、香水や整髪料はつけないなど、配慮すべき点があります。
「あとは『できることは言ってね』と伝えるのがいいと思います。私は友だちに、『靴下を買ってきてほしい』とお願いしたんです。友だちにそんな、使いっぱしりみたいなことを頼むなんてどうかと思ったけど、入院前は忙しくて新しい靴下を買う時間がなくて。病院って、けっこう靴下が人目に触れるから恥ずかしいんですよね。
そうしたら友だちがモコモコのかわいい靴下を買ってきてくれて。それを履いていると、友だちのやさしい気持ちも感じることができました」
実際、入院は日数が短い場合もあり、色々な検査や手続きでとても忙しいのだそう。
お見舞いを受ける時間がない場合や体調もあるので、「求められたこと」をするのがいちばんいいのでは、とアドバイスをくれました。
知ることが力になるがん治療が進化した現代社会では、がんになったからといって仕事や夢をあきらめる必要はない、と藤森さんは話します。
がんサバイバーであっても、女性特有のがんだと人には話しづらかったり、仕事がしにくくなったりするのでは? と感じて、公表しない選択をする人もいます。その結果、がんになっても生きて健康に生活して、結婚して子どももいる――そういう現実は、かえって知られにくいのかもしれません。
「復帰後は、ふつうにしたいけど無理できない部分もある。サバイバー自身ジレンマを抱えています。健康な人もがんの知識を持っていれば、そこを変に気をつかわず、でも思いやりをもって――という社会になるのでは」
そして20代から30代の若い女性には、まずは子宮頸がんの検診を受けてほしい、と藤森さん。
その一方で、いま乳がんは社会的な注目を集めていて、検診は3か月待ちもザラだそう。乳がんなどの報道がされた直後や、10月のピンクリボン月間だけではなく、検診へ行くことは、気に留めておきたくなります。
「まずは乳がんなど、女性特有の病気に対する知識をもつこと。胸に関しても子宮に関しても、自分で自分をチェックできる知識を身につけて、健康なときから気をつけておくこと。そこから始めてもらえたら」
と話してくれました。
今できることをする、自分ができることをやる――。
そんなシンプルな意思を、凛とした美しさとともにまっすぐに伝えてくれた藤森さん。
知識が力をくれること。そして何があっても、自分のリミットを決める理由は何もないことを、改めて気づかされました。
【参照サイト・画像・動画へのアクセスはこちら】