しょうゆ、みりん、水、砂糖で、甘くまろやかに似た油揚げの中に、レンコン入りの酢飯。最初はじゅわっと煮汁が溢れ、そこにつーんと酢の酸味が重なったところへ、しゃきしゃきと歯切れのいいレンコンの食感。稲荷寿司ひとつ食べるのに、ふた口かかるので、5個食べるのに、じゅわっ、つーん、しゃきの三重奏をおよそ10回繰り返します。途中でごくごく緑茶も飲んで、やっとホッと落ち着きました。
「神田志乃多寿司」の名前の由来
こちらの稲荷寿司、自分が食べるだけでなく、差し入れや手みやげにもよく利用しています。童心の洋画家と呼ばれた鈴木信太郎によるチャーミングな包み紙と、『週刊新潮』の表紙絵も手がけた谷内六郎の折蓋も、味とともに記憶に残る佇まい。知人の子どもはふたりの画家の名や功績を知らずとも、「あの絵のお寿司が食べたい」とねだるほど大好物。小さな体で稲荷寿司を頬張る姿に、私もたびたび和まされてきました。
神田志乃多寿司は、明治35年創業の老舗。武士だった初代がなにか商売をはじめようと考えたとき、好物だった稲荷寿司をつくることを思いたったそう。
店名の「しのだ」は稲荷寿司の別名で、歌舞伎の人情噺に出てくる古い歌「恋しくば尋ねて来て見よ和泉なる 信太(しのだ)の森のうらみ葛の葉」にちなむそうです。白狐と人間の男性の切ない愛の歌が由来とは、なんとも甘美ではありませんか。
[神田志乃多寿司]
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