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「今日もあっという間だったな」と感じる人が読みたい本

2016/01/05 21:00 投稿

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お正月、必ずどこかで鳴っている「春の海」。この「春の海」を作曲したのは、幼いころに視力を失い、箏曲の道に入った箏曲家・宮城道雄。

作曲家、演奏家として名を成した宮城道雄ですが、じつは随筆集も手がけています。随筆の多くは、日々のなんてことのない生活について記したものですが、耳にした音や、におい、全身で感じるその場の様子の描写に、はっとさせられます。

なかでも私が好きなのが、音から感じとれる季節について記した「四季の趣」。たとえば「冬」については、雪の朝の人通りの音や、雪が解けだす音のリズムについて述べていますが、本当は耳に聞こえているのに聴かず、目に入っているのに見ていないものの方が多いのかもしれないと、考えてしまいました。

そして、とくに面白いと思ったのは夏の音です。

夏は朝早いのも気分がよいが、何といっても夜がよい。蚊遣(かや)りのにおいや、団扇(うちわ)をしなやかに使っている物音などは、よいものである。(中略)蚊にさされるのはいやだけれども、二三匹よって、ブーンとたてる音は、篳篥(ひちりき)のような音がしてなかなか捨て難いものである。

それと同時に、扇風機のあの唸る音をじっと聴いていると、どこか広い海の沖の方で、夕日が射していて、波の音が聞こえるように思われる。一人ぼっちで、放っておかれたような感じがする。

(『春の海-随筆集』/旺文社文庫)

蚊のたてる音をひちりきと比べたり、扇風機の音から沖に広がる夕日へとイメージが広がるあたりに、著者の人並みならぬ豊かな感性を感じずにはいられません。

宮城道雄の随筆を読んでいると、その豊かな表現から、だんだんまわりの時間がスローダウンするように、ゆっくり進むようになります。文字の上を滑って意味を呑み込むのではなく、一文字一文字をかみしめるような読み方が合う作品といえばいいでしょうか。

そうして一節読むごとに、目を閉じて音の世界へ耳を傾けたくなる文章でもあります。忙しない生活ペースをリセットするのにぴったりな随筆集です。

image via Shutterstock

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