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おばあちゃんの手仕事を世界へ。日本の伝統工芸を海外で成功させた日本人

2015/12/10 00:00 投稿

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「15年後にはなくなると言われていた伝統工芸を、ずっとあとまで続くものにしていきたい。100年後、その時代に合うものづくりに変わっていたら、すごくおもしろいなと思います

名古屋・有松で100年以上続く「有松・鳴海絞り」の老舗「suzusan(スズサン)」。失われつつある伝統工芸を目の当たりにし、ドイツと有松を拠点にオリジナルブランドを立ち上げたのが、5代目・村瀬弘行さんです。

布のくくり方によって風合いに差が出る絞りの世界。一枚一枚、手仕事で染めあげられた「suzusan」のストールは、あたたかくモダンな表情が目を引きます。「伝統工芸品だから」ではなく、「身につける人を彩るもの」として海外で人気を博したストール。日本の伝統工芸品を海外事業として成功させた村瀬さんに、これまでの道のりをうかがいました。

家業を継ごうとは思っていなかった

幼いときから、職人も絞りも染料も当たり前のごとく、まわりにあるものだったという村瀬さん。そんな環境で育ったが、家業を継ごうとは考えなかったといいます。

「父からは一度も『継げ』と言われませんでした。言葉にはしませんでしたが、この仕事では将来食べていけないと思ったのだと思います」

アーティストを志し、2002年に渡欧。大学で彫刻やアートを学ぶ道を選びます。転機が訪れたのは卒業間近のことでした。

「父がたまたま部屋に置いていった『絞り』を、当時フラットシェアをしていたドイツ人の友人がみて『おもしろい!』と。ビジネスチャンスになると思ってくれたんです」

「外国人の目」がヒントになり、経営を学んでいた彼とふたりで在学中に会社を設立。2008年、26歳のときでした。

真正面からアポなしで売り込み 話をうかがった「PLAIN PEOPLE」青山店にて。開催中だったポップアップストアには、色合い豊かな「suzusan」のストールが並ぶ。

村瀬さんらが考えたのは、「ヨーロッパ文化のなかで生きる、日本の伝統工芸」。木綿を用いる「絞りの浴衣」をそのまま売るのではなく、カシミヤやアルパカの素材に絞りをほどこし、ストールやインテリア雑貨をつくることに。日本の高い技術をそのままに、ヨーロッパの人の服や部屋に合うようにしたのです。

しかし、最初の5年はタフな状況が続いたといいます。毎週のように、アポなしでヨーロッパ各国のショップのドアを叩く日々。絞りの文化がないヨーロッパでは、「なんでこんなに高いの?」という声が相次ぎます。その度に、絞りの工程を繰り返し説明しました。

「理解してもらうのに時間がかかりました。8万円のストール、20万円の照明を売りながら、2万5千円の家賃が払えない。何百回と、もうダメかもしれないと思いましたね。でもここで諦めたら、職人がどんどんいなくなっているなかで、伝統工芸が途絶えてしまう。ビジネスパートナーと支え合いながら、日々を過ごしていました」

パリコレの舞台で輝いた、日本の技術 suzusanクリエイティブディレクターの村瀬さん。

2011年、村瀬さんは世界中が注目するパリのセレクトショップ「レクレルール」に、アポなしで絞り染めのストールを持ち込みます。手にとったバイヤーは、ショップに置くことを即決。価格は550ユーロ(約7万3千円)。決して安くはありませんが、今も毎シーズン、オーダーは増え続けているといいます。

2013年には、フランスを代表する大手メゾンのオートクチュールにテキスタイルを提供。その後「ヨウジヤマモト」や「クリスチャンワイナンツ」とのコラボレーションも経験。ファッションの最先端ともいえるパリコレの舞台で、日本の伝統工芸が輝いた瞬間でした

「ショーをみて、グッときましたね。こういう使い方をするんだと思って。オートクチュールに使われた『絞りのドレス』は、8万ユーロ(約1千60万円)とかするんですよ。そのテキスタイルは、有松のおばあちゃんの手仕事。誇りに思いました」

有松の実家に山のように転がっていた布地。幼い頃から慣れ親しんだものを、一日何百とテキスタイルをみる有名メゾンの担当者が「みたことない!」と言う。やってきたことに手応えを感じた瞬間でした。

「まずは海外。そのあと日本」の考え 3シーズン前から洋服もスタートさせた。ストール、シャツ、ジャケット、パンツとトータルで提案できるブランドを目指している。

日本での販売はブランドを立ち上げて、5年ほどあとのこと。それまでは日本のショップから声掛けがあっても「まだ待ってください」とお断りしていたといいます。

「まずは海外、と考えていたんです。『絞りの浴衣が有名な、日本の伝統工芸ブランド』ではなく、『パリのレクレルールに並び、フィレンツェのピッティ・ウオモに出展し、フランスの有名メゾンに使われたブランド』として逆輸入したかった。その方が違った視点が生まれて、若い人たちにとって夢があると思ったんです」

「絞りのストール」から始まったブランドは今、海外20か国、そして日本でも販売されるようになりました。

新しさも古さも、洗練も混沌も カシミヤとウールをブレンドした生地に縮絨を加えた、今季いち押しのストール。熟練の職人による「やたら三浦絞り」という100%フリーハンドの技術が光る。

若い人たちの育成にも力を入れている村瀬さん。ロンドンのセントマーチンズ大学やパリ高等装飾美術学校(ENSAD)など、デザイン領域で最高峰といえる学校で「絞り」の講義やワークショップをおこなっています。もっと技術を学びたいという学生には、研修生として有松に来てもらうことも。

昔は、親から子へと受け継がれた職人の世界。「外」からきた者は受け入れなかった伝統工芸を、外国人の若者が学んでいるのです。

「町の考え方が変わってきているのを感じます。起業する前、ヴェネツィア・ビエンナーレで「新旧」も「東西」も「有名無名」も「洗練と混沌」もあらゆる要素が混ざった展覧会をみたんです。でもそのなかに調和があった。考えをひっくり返されました。『伝統工芸がコンテンポラリーアートと並んでもいいんだ』と気づいたんです。これからも、新しい『かけ算』を起こしていきたいと思います」

村瀬弘行(むらせ・ひろゆき)

1982年名古屋市生まれ。suzusanクリエイティブディレクター。2002年に渡欧し、イギリスのサリー美術大学でアーティストを志す。そののち、デュッセルドルフ国立芸術アカデミーにて立体芸術、建築学を学ぶ。2008年、在学中に「suzusan e.K」を設立し、オリジナルブランド「suzusan」をスタート。同社の代表を務める。

suzusan, PLAIN PEOPLE

撮影/柳原久子 取材・文/寺田佳織

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