訪れたのは千葉県印西市にある柴海(しばかい)農園

代表の柴海祐也さんは20代の若さ。農薬や化学肥料にたよらない農業をはじめて6年目、宅配野菜や都内のマルシェで野菜、ジャムやピクルスなど加工品の販売をしています。売られているのはひょろっと細長かったり丸かったりするナスや、生でポリポリと食べられるカボチャなどちょっと変わっためずらしい野菜たち。マルシェに立ち寄るレストランのシェフに野菜を気に入られ、直接届けることも増えているそうです。

味にこだわるシェフたちに人気の野菜が作られる現場へおじゃましました。

ゴーヤ畑は緑のトンネルに。中は太陽が遮られて少し涼しい。

コリンキー。ピクルスは人気の定番商品。

マー坊ナス。麻婆ナスなどのいためもの調理に最適だそう。

フィレンツェナス。ソテーにして食べるとトロットロになる。皮までやわらかい。

今日は野菜セットの出荷の日なので朝早くから収穫作業です。畑ではゴーヤ、ナス、コリンキーなど熱い日差しに照らされてツヤツヤに光った夏野菜が収穫を待っています。同じナスでも丸かったり細長かったり緑色だったりと色とりどり、見ているだけでも楽しくなります。

「仲間の畑を見たりタネのカタログを見て、いい野菜だなって思うといろいろと育てたくなっちゃって。お客さんが喜ぶかもって思うと試したくなるんです」

今年育てているナスはフィレンツェナス、マー坊ナス、白丸ナスに新黒ナス。カボチャはコリンキー、かちわりカボチャ、坊ちゃんカボチャにバターナッツ。野菜の品種は100種類近くにもなるそうです。

「白丸ナスはこれくらいのサイズが収穫どきです。これ以上大きくなると堅くなってくるから」

野菜の成長具合を見ながら祐也さんがスタッフの荒川美子さんにこまかく丁寧に収穫の指示をだします。野菜は品種によって成長の早さや実のつきかたはさまざま。それぞれの野菜に合わせた管理が必要になります。教える祐也さん、教わる荒川さんも真剣です。

祐也さんもピーマンの収穫に取りかかります。手早く、でも慎重に。ひとつひとつ成長を確かめながらテキパキとピーマンをコンテナへ詰めていきます。

「こうやって素手で収穫すると野菜の微妙な加減がわかるんです。やわらかいとか、もう堅くなってきたな、とか。なのでなんでも素手でやりますね。手袋は苦手で......」直接触れることで野菜のちょっとした変化がわかるそう、こまやかな作業が続きます。

この日は梅雨明け後の快晴の夏日、朝からジリジリとする日差しにクラクラしてくる暑さですが祐也さんは帽子もかぶっていません。

「帽子も好きじゃないんです。太陽を浴びるとどれくらい日差しが強いのか直(じか)でわかる。そうすると野菜も日焼け具合とか、今日は強すぎるからスタッフも早めにあがったほうがいい、っていうのがわかるので」汗だくになりながら全身で野菜の声を聞く。農作業は本当に体力勝負ですね。

「最近朝ごはんを食べなくなったらそのほうが調子がいいんです。朝はお茶を飲んで麹で作ったジャムをひとさじなめる。朝ごはんをたくさん食べて消化に体力を持っていかれると仕事に集中できなくて。収穫しながら野菜をちょっと味見するのが朝ごはんがわりですかね」私もピーマンをひとかじり。ジュワっとさわやかな香りが口に中に広がります。

ピーマンの横はトマト畑。赤い実がたくさんついていますが枝や葉はあまり元気がなさそうです。「長雨でやられちゃいました。サンマルツァーノというヨーロッパの品種ですが梅雨時期に病気になっちゃって。また来年チャレンジします」

失敗を笑顔でさらりと話す祐也さん、落ち込んだりしないのですか?

「もちろんすごく落ち込みますよ、でもすぐ立ち直ります。失敗したらまず自分が悪いと思うこと。原因はなんだったんだろう......土作り、管理、手が足りなかったのか。じゃあ来年はこうしてみようと、逆に燃えちゃうんです」すでに来年のトマトの栽培で頭がいっぱいのようです。

「24時間畑のことを考えていて。よく『いっつもニヤニヤしてるね』って言われるんですけれど、『あ、あれやってみよう』とか、ひらめく瞬間があるんです。それが間違っていることもあるけれど畑のことを考えるのが楽しくて」

収穫が終わるとすぐに出荷の準備です。出荷場では妻の佳代子さん、スタッフが畑からつぎつぎと集まる野菜の仕分け作業を進めています。

玉ねぎの袋詰めをするスタッフの難波真由美さん、以前は柴海農園の野菜を届けもらうお客さんだったそうです。

「ウチの子がここの野菜だと食べるんですよ。今まで青い野菜はいっさい食べなかったんですが、ここの野菜はおいしい!とおかわりもするようになって。子どもの舌の敏感さに驚きました」大人だと有機野菜だからおいしい、と頭で感じてしまいがちだけれど子どもは素直な心で味わうのかもしれません。

「近所だし農業に興味があって手伝いを始めました。農園で働くようになって無農薬で育てるって大変なんだなって。今までは野菜のありがたみが分からなくって冷蔵庫で古くなったナスをひからびさせちゃったり。けれど、作る人の苦労がわかると野菜を大事にするようになりました」ピカピカに光るきれいな野菜を見ていると真由美さんの気持ちがよくわかります

さてそろそろお昼どき、作業の手を休めて皆で集まりお昼ごはんです。祐也さんのお昼ごはんは佳代子さんの手作り弁当、美味しそうです! 今日のおかずは何ですか?

「キュウリとコリンキーの浅漬け、フィレンツェナスと豚バラのラタトゥーユ、ピーマンの塩昆布炒め、それにキュウリのぶっかけ漬けです」もちろんどれも穫れたて野菜、イキイキしていますね。

「ぶっかけ漬けはたくさんあるのでどうぞ」。ポリポリッとした食感と十分に漬かったお醤油味、お弁当にぴったり。これはきっと代々、柴海農園に受け継がれた漬け物ですよね。

「いえ、マルシェで野菜を買ってくれたお客さんが教えてくれたレシピなんです。そういう漬け方があるんだな、って作ってみたら保存がきいて作ったその日から食べられておいしい。気に入っちゃって今では農園の商品として販売するようになりました」お弁当の定番漬け物になり、商品として販売されるとはレシピを教えてくれたお客さんもびっくりですね。えへへっ、と楽しそうに笑う佳代子さんの大らかさにみんなも爆笑。楽しいお昼ごはんの時間でした。

駅前の飲食店だった場所を借りそのキッチンを加工品の調理場に。スタッフの三本木絵未さんが作っているのは収穫されたばかりのコリンキーのピクルス。

瓶詰めまで全て手作業。笑顔にくりぬかれたローリエの葉がかわいい。

ピクルスには季節野菜のみを使う。人気の商品はすぐに売り切れる。

甘糀ジャムは祐也さんの元気の源。お砂糖は使わず米と糀のみ。糀の甘みがやさしい。

お昼ごはんが終わると午後の作業へ。祐也さんはこの後再び畑へ、出荷の準備が終わったら配達、その後は事務作業。終わるのは深夜になることもあるそうです。

「楽しいんです。育てたい野菜がいろいろありすぎて。今年の秋冬はどんな野菜を育てるか計画を立てるのが楽しみで。去年できなかったことが今年はできるかもしれない。チャレンジを続けられる農業がおもしろくて」

最後に記念写真をパチリ。つねに前向きでチャレンジし続ける祐也さん、おおらかな佳代子さん、野菜を愛するスタッフ全員ニコニコ顔。笑顔があふれる農園でした。

キュウリのぶっかけ漬けのレシピ

煮立てた汁を何度もかけることでキュウリの細胞にしっかりと味が染み込んだお漬け物。作りかたを佳代子さんに教わりました。

◆材料
キュウリ、塩、しょう油、酢、砂糖、ショウガ

◆作り方
1. キュウリを1センチほどの輪切りにし塩をふり下味をつけ、バットに並べる。
2. 鍋にしょう油、酢、砂糖で漬け汁を作り煮立たせる。沸騰したらキュウリに回しかけ10分ほどおく。
3. キュウリを取り出し、漬け汁を再び沸騰させキュウリにかける。これを4回繰り返す。
4. 最後に漬け汁に刻んだショウガを入れ、もういちど沸騰させてキュウリにかける。

柴海農園の野菜・加工品を買えるところ

太陽のマルシェ

はりまざかマルシェ

伊勢丹新宿店

柴海農園の野菜を食べられるところ

リコス・キッチン

[柴海農園]

取材・文/柳原久子

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