じつはとても個性的な東京の街のあれこれを、街自身が話し出したら......。そんな一風変わったストーリーを描いているのが、山内マリコさんの小説『東京23話』(ポプラ社)です。主人公は、東京23区・武蔵野市・そして東京都。全25話の「街が話すマイストーリー」は、「ああ、○○区って確かにこんなイメージ!」と思えるエピソードがつまっています。
ザ・ビートルズの来日を語る千代田区
たとえば、国会議事堂、最高裁判所、皇居がある千代田区が、ザ・ビートルズの来日時を語ったら。
ビートルズが来日したときは、そりゃあもう大変な騒ぎでした。はっぴ姿で日航機から降り立つと、タラップに横付けされたピンクのキャデラックに乗り込んで、羽田からわたしの――そう、わが千代田区の!――東京ヒルトンホテルまで、高速をピューッと飛ばし、わずか三十分くらいでやって来たんです。なんとビートルズにために、首都高を全面通行止めにしちゃったんですから。いやぁ、壮観でした。パトカー五台に護衛されて、夜明けとともに、彼らはこの街にやって来たんです。
『東京23話』P7〜8より引用
永田町や霞ヶ関など、日本の中枢部があるおカタイ街・千代田区。当時、女性から黄色い声援をばしばし浴びるビートルズが、武道館を使ったときのドタバタ劇や、街がひっそりとみた様子が臨場感たっぷりに書かれているのです。
おしゃべりな女子高生風の渋谷区 装丁:寄藤文平+鈴木千佳子、イラスト:鈴木千佳子
対して、ハチ公像や渋谷109がある、渋谷区は......
あたしがいつも人で混みまくってる理由の一つが、めっちゃたくさんの電車が乗り入れてることなんだけど、もう自分でもよくわかんないくらい電車が走りまくってんだよね。(中略)
相互直通運転してるのもあって、もうわけわかんないよね。ほら、ぶっちゃけあたしって谷じゃん? だから銀座線とか超ヤバくて、地下鉄なのにあたしのとこだけ電車が地上三階に到着すんの、超ウケるよね〜! あたしどんだけ高低差あんの、みたいな。キャハハ!
『東京23話』P94〜95より引用
元気がよくて、密度が高くてちょっとだけ暑苦しい、ギャル文化を生み出した渋谷区ならではの語り口!
思わずくすりとさせられたり、そんな歴史があったんだと発見があったり。表紙や巻末にある区のイラストと解説もかわいい、散歩のおともにぴったりな一冊です。
(マイロハス編集部)
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