颯爽と現れたふたりは、「2006年のスタート当時を思うと、いま日本にいるなんて信じられない! ねぇ」と笑顔で頷き合います。
設立から9年目となる現在、約120名の職人が生産に携わり、世界20か国で販売されているスマテリア。これまでの9年の道のりを伺うなかで、彼女たちの言葉からにじむのは、「母」をポジティブに捉え、その力を最大限に発揮してもらうためサポートを惜しまない姿でした。
自分の基準で選び、長く使い続ける
お話を伺ったのは、9月2〜4日に開催された東京インターナショナル・ギフト・ショーのスマテリアブース。ブース内に展示されたバッグは、カラフルで形のバリエーションも豊富です。ふと気になり、日本とほかの国では、好まれるタイプに違いはあるのかを伺ってみました。
エリサ(左)のお気に入りは、スクエア型の大きなバッグ。ジェニファー(右)は、丸みのあるバッグが好き。
ジェニファー(以降、J):「日本では、比較的コンパクトで機能性が高いものが好まれます。ななめ掛けできるストラップや、内側にポケットをつけてほしいという要望もあるわね。たとえば、イタリアなどヨーロッパでは大きめでゆったりと肩にかけられるものが選ばれやすいわ」
さらに、まとめ買いやシーズンごとの買い替えは、日本独特とのこと。イタリアでは人それぞれおしゃれのこだわりを持ち、自分の基準でじっくり選んで長く使う、というのがスタンダートなのだそう。
出会いは必然、スタートは即決
ふたりの出会いは、2006年初旬。ジェニファーが住むカンボジア・プノンペンに、移住してきたエリサ。お互い小さな子どもを持つ身だったこともあり、出会いは、子ども同士を遊ばせようと開かれた集まりだったといいます。
J:「エリサは、もともとイタリア・ローマでジュエリーデザイナーをしていたの。出会ったときのエリサは、まだプノンペンに来たばかりだったけれど、アイディアにあふれていたわ。話が弾み、1日では時間が足りなくて、翌日もコーヒーを飲みながら話して。その場で、そのアイディアを実現させるために動き出そうと言ったの」
エリサ(以降、E):「本当に始めるの?とわたしは驚いたんだけれど(笑)」
即決で行動をはじめ、プノンペンに小さなお店と工房を構え、デザイナーのエリサ、セールスマネージャーのジェニファーを中心に7人のメンバーで商品づくりがスタートしました。
スペイン&バケーションをイメージした最新コレクションのビジュアル。「流行にとらわれず、"スマテリア"という個性を発信していきたい」 左:12,000円(税抜)/右:8,000円(税抜)
スマテリアのバッグにメイン素材である廃棄予定の蚊帳(ネット)を使うアイディアも、エリサの発案。素材選びは9年間変わらず、「ある人にとってはゴミでしかないものが、ある人にとっては宝となる」というアップサイクルの精神に基づき、行われています。
最初はカンボジア国内での販売を考えていたものの、商品を見た友人からのアドバイスで輸出も視野に入れたことで、現在、世界20か国にスマテリアのバッグが広がっています。
長く一緒に働きたいから、フェアトレード
アップサイクルの精神とともに、スタート当初から決めていたのが、フェアトレードによる組織づくり。
E:「カンボジアに来たばかりのころ、働く人々の厳しい労働環境を見て、以前住んでいた中国の10年前を見ているようだと感じたわ」
J:「私は、エリサより長くカンボジアに住み、ツアーガイドをした経験があったけれど、その会社ではみんな笑顔で働いていた。だから、ふたりの経験を合わせて、正当な賃金を払い、働きやすい環境を整ようとすることは自然の流れだったのよ」
賃金設定は19段階に分かれ、スタート時、スタッフにリサーチした生活に十分な金額を、いわゆる初任給のボーダーラインとしていて、そのボーダーラインもこの2年間で5回上方修正されているのだそう。さらに1か月分のボーナスも、ふたりの意思で支給されているのだとか。
細かく設定された賃金設定に込められているのは、「長く続けてほしい」という思い。
E:「長く続けてもらうために、技術が必要な一部の仕事を除いて、仕事内容はローテーション制をとったりもしているのよ。そのほうが楽しいし、可能性も引き出せるから」
J:「設立から9年が経った今も、オープニングスタッフの7名が誰ひとり辞めていないのは、本当に嬉しいこと!」
世の男性たちに見習ってほしい!
スマテリアでは、カンボジアで働く約120名の職人のうち、小さな子どもを持つ女性が85%を占めます。お話を伺っていくと、どうやらそれは単に母親を支援する、という目的ではないよう。
E:「『お母さん』ほど、同時に多くのことを高い完成度で進められる人はいないじゃない! 世の男性たちは、母親のフレキシブルな対応力を見習ってほしいわ(笑)」
なんという、ポジティブな視点! さらに、お母さんの能力をより発揮してもらえるよう、ふたりが整えたのは福利厚生でした。
J:「工房内に、年長用と年少用それぞれの保育園があり、学校が終わって帰ってきた子どもたちも、母親の仕事が終わるまで預かっているわ。将来のために英語の先生もつけているし、スタッフ用の図書館もあって、休日には、字が読めない女性のための読み聞かせの機会も設けているのよ。子育てに困ったときに役立つ本を選んだりもするわ」
ほかにも、保険や有給休暇など手厚い福利厚生が設けられており、管理職の70%が女性というのもスマテリアなら頷けます。
エリサとジェニファーが母親の可能性を信じたからこそ実現できた、子を持つ女性が安心して能力を発揮できるブランド「スマテリア」。お話を聞けば聞くほど、日本にもこんな働く場所が増えていってほしいと願わずにはいられません。
Don't give up! Never give up!!
最後に、日本の働くお母さんへメッセージをいただきました。
E・J:「母親がみんな働かなければいけない、というわけではないけれど、働きたい気持ちがあるなら、あきらめちゃいけないわ。自分が活力になるようなゴールを持って働くと、少しずつでも近づいている実感が持てるはず。お母さんが幸せなら、子どもも幸せ。決してあきらめないことよ」
インタビュー中、「大変だったことは?」という問いには、答えが出てこなかったふたり。その裏には、悪い出来事をバネにより良いものを生み出したり、その瞬間は心配したけれど、今はOKだから、と、つらいことをそのままで終わらせず、次の一歩に結びつける姿勢がありました。
[SMATERIA]