昔から沖縄の集落には、道幅を細く取り、両脇にフクギの木を植える習慣があります。これは、背が高く伸びるフクギの木が夏の強烈な日差しをさえぎる天然の日陰を作り出すと同時に、台風時の防風・防潮の役割を果たすという先人たちの知恵によるもの。
石垣を積んだ集落の壁に沿って並ぶフクギ並木と、枝の隙間から顔をのぞかせる屋根の上のシーサーは、ひと昔前までは沖縄のどこにでもあった典型的な昔ながらの集落の景観です。
フクギ並木がつくりだす陰影を楽しむ残念ながらそんな昔の佇まいを残す集落も今では減る一方で、残っていたとしてもごく一部。そんななか、ここ備瀬では沖縄の原景へのタイプトリップしたような静かな時間を過ごすことができます。
集落の中を碁盤の目のように通る細い路地を歩いていると、木陰の向こうに見えるエメラルドグリーンの海が眩しく、その色彩に惹かれるよう海岸線へ出ると目の前には勇ましくタッチュー(城山)がそびえる伊江島の姿。フクギ並木が作り出す光の陰陽が、太陽に満ち溢れる沖縄の風景の中にあって、集落全体に微妙な陰影と色彩で輪郭を際立たせるのがよくわかると思います。そこでは、風もまた涼しげな色彩をはらんでふんわりと吹き抜けるよう。
子や孫のために植えられた幸福を呼ぶ木ちなみに、沖縄ではフクギ(福木)は幸福を呼ぶ木として、昔から人々の生活に用いられていました。と聞くと、いかにも成長が早そうですが、じつはフクギの木が、垣根となり防風林の役を果たすほど大きく育つためには相当に長い時間がかかります。そのため、先人たちはみな自分たちのためではなく、子どもやその孫たちのためにフクギの木を植えたといいます。
次回、美ら海水族館を訪れたなら、ぜひ備瀬のフクギ並木まで足をのばしてみてはいかがでしょう。伊江島を眺める素敵なカフェもあるので、ゆっくりと集落の時間を感じながらの散策がおすすめです。