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収穫してすぐ食べられる、まちなかの畑。田辺農園(東京)【やさいの現場】

2015/05/01 08:00 投稿

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こんにちは、フォトグラファーの柳原久子です。私のここ数年の春の楽しみは「ノラボウ菜」をいただくこと。「ノラボウ菜」とは、夏の終わりころタネをまき、さむい冬の間も露地で育ち、暖かくなった春、芽吹いた新芽を食べるアブラナ科野菜。

見た目は地味であまり目立たない存在です。けれどひとくちかむごとにじわっと感じるうま味、味の濃さはまるで春の野山で採れる山菜のよう。

もとは東京の多摩地方や埼玉で栽培されている伝統野菜ですが、最近では少しずつ育てる農家が増えています。どんな風に育てられているの? とさっそく東京・三鷹市の田辺農園さんを訪ねました。

冬の寒さに耐え糖分をたくわえるので甘みが強い。春先にしか味わえない貴重な野菜。

住宅街に畑が広がる。手前はカツオ菜、田辺農園の人気野菜のひとつ。

「おはようございまーす」。都心から車で30分、住宅街を抜けて到着した畑で、あたたかく迎えてくれたのは田辺農園の田辺陽介さんです。もとはサラリーマンだった田辺さん、礼儀正しくて思わずこちらも背筋が伸びます。農園を受け継いで11年の若手農家、家族や近所の農業ボランティアと一緒に、レストランや直売所向けの野菜を育てています。

ノラボウ菜は気温が高くなってから収穫すると葉が弱ってしまうので、午前中か夕方に収穫。

ちょうど収穫真っ最中、青々としたノラボウ菜の畑を見せてくれました。「タネを蒔いたのは昨年8月、ようやく出荷シーズンです。ノラボウ菜はわき芽を食べるので、収穫してもつぎつぎとわき芽がでてくる。長く出荷できる、ありがたい野菜です」。わき芽、といってもかなり大きく食べごたえがありそう。江戸時代には飢饉を救った野菜だそうですね。「強い野菜なんですよ。このあたりの気候にもあっていると思います。虫もぜんぜんつかないし」。ポキッポキッと手で簡単に収穫できて茎もやわらかそうです。

「3年前からタネを変えたんです。それまでタネは種苗会社で買っていました。けれど茎がスジっぽくて固かった。それであきる野市に『ノラボウ菜名人』がいるって聞いて、紹介してもらったんです。育て方を聞いたり、代々採り続けているタネを分けてもらったり。そのタネで育てたら、茎は前より太いのにやわらかいしおいしいノラボウ菜ができました。やっぱりこっちだなーって」。さすが名人のタネ、同じノラボウ菜でもぜんぜん違うんですね。

茎は太いけれどやわらかく甘い。

アスパラガスの栽培は7年目。4月中旬から9月ころまで収穫する。

次に案内してくれたのは大きなビニールハウス。ガラリと戸を開けるとまるで南国のような気温と湿度! カメラのレンズも曇ります。

「ここではアスパラガスを育てています。収穫するのは4月中旬くらいからでしょうか」アスパラガスの産地って北海道とか九州って思ってましたがまさか三鷹産とは驚きです。「アスパラガスは特に『鮮度が命』なんです。収穫してから時間が経つと甘みがどんどん落ちていきます。うちではここから車で10分ほどの直売所に出荷しています」。東京でも鮮度抜群のアスパラガスがいただけるんですね、おいしそうです。

ハウスの中はとても暖か。ホウレン草、春菊などが順調に育つ。

敷地内には果樹や桜なども。キウイの足元にはニラが植えられている。まちなかの畑ならでは。

「陽ちゃん、おはよー」。さっそうと長靴姿であらわれたのは西荻窪にある「たべごと屋 のらぼう」店主の明峯(あけみね)牧夫さん。お店は連日予約でいっぱい、三鷹産の野菜がいただける人気の和食店です。この時期は、野菜を仕入れにほぼ毎日畑に通っているそうです。毎日って大変ですね。

「自分で畑を見たいし陽ちゃんたち生産者と話もしたい。ただ野菜がおいしい、ってだけじゃなく、どんな畑かどんな人が作っているかをふくめて料理を提供したい。お客さんに風景を伝える役割がある、と思っていて」。

仕入れが楽しくてしょうがないという明峯さん、お店でノラボウ菜はどんな料理になるんでしょうか?「アサリと一緒に蒸し煮にしたり豚バラとの酒蒸し、ベーコンと炒めたり、お出汁のゼリーに閉じ込めたゼリー寄せ、あとは......」。ああ、どれもおいしそう、聞いているだけで幸せな気分になります。

畑ではフキの栽培も。明峯さんのお店ではフキノトウはてんぷらやフキ味噌に。フキ味噌はたくさん仕込み、エシャレットに添えたりと、長く楽しめる。

タネのカタログを見ながらこれから育てる野菜の作戦会議。

昨年6月、三鷹市周辺に局地的にひょうが降りました。ビー玉よりもおおきなひょうは30分ほども降り続き、田辺農園や仲間の農園の野菜もかなりの被害にあいました。その様子を明峯さんがお客さんに伝え、傷んで出荷できなくなった野菜を店頭で販売、売り上げを募金に。するとたくさんのお客さんが喜んで賛同してくれました。

「あのときはうれしかったですね。伝えることの意味を感じました。生産者と消費者がつながっていくのはすごく大事なこと。陽ちゃんの畑はほんとうに貴重でありがたい場所です」。

田辺さんもうれしそうです。「僕もありがたいです、明峯さんと出会えて。お客さんの声が聞こえるとやりがいもありますよ」。鮮度がよいし、なによりていねいにつくられている、「やっぱり田辺さんの野菜だね」と、お店でも評判になっています。

収穫したノラボウ菜は鮮度を保つため一度水にくぐらせる。

このノラボウ菜は三鷹市内の病院へ出荷され、患者さんのもとへ。

「じゃあまたね」。明峯さんを見送ると、田辺さんと一緒にさきほど収穫したノラボウ菜を出荷しに、三鷹緑化センターへ向かいます。東京にもこういう直売所があったんですね。旅先の道の駅のように新鮮な野菜が並んでいてワクワクします。あらっ、でもノラボウ菜は一つも無いようです。

「午前中には売り切れちゃいます。特に田辺さんの野菜は人気が高いんです」。話してくれるのは、JAむさし 三鷹緑化センター長の依田圭二さん。「見映えがいいんですよ、田辺さんの野菜は。みんな同じビニールに入っているけれど、彼のはキチンと野菜がそろっておさまっている。そうすると葉が乾きにくい。そういう細かい気配りができています」。センター長のお墨付き、売り上げもトップという田辺農園、なにか秘訣ってあるんでしょうか?

「月に一回、当番で生産者が売り場に立つんです。売り場にいるとお客さんの動きが見えて意見も聞ける。せっかく来店しても野菜が無いとお客さんは手ぶらで帰っちゃう。じゃあ来年はちょっと時期をずらして作ってみようとか」。

地場野菜はどうしても収穫する時期が集中します。収穫期には大量の野菜、端境期になると品薄に。そこで、田辺農園ではタネの蒔き時を少しずらす、品種を変えてみるなどの工夫をし、途切れなく野菜を並べられるよう研究をおこたりません。

野菜のほかに地元農家の育てた花、苗、植木などの販売も。週末には向かいの農園で農家による野菜の育て方講習がひらかれる。

地元産の旬の野菜がたくさん並ぶ。人気の野菜は午前中で完売。

「田辺農園は300年くらい続いていて僕は九代目です。じつは妻の実家なので、ぼくが野菜を育てることは『たまたま』でした。でも家で新鮮な野菜を食べるうちに、こんなに違うんだって気づかされた。今までも食べていた野菜なのに、鮮度、採る時間で違うんだって。夏はトウモロコシやエダマメ。穫れたて茹でたてだとこんなにおいしいのかって。食べ始めたらとまんなくなっちゃって(笑)」。トウモロコシは夜中のうちに糖度があがるので朝が一番甘い。なので収穫は早朝5時から。朝9時開店の直売所には目当てに来るお客さんが並びます。

「こんなにおいしいものを小さい頃から食べてる妻はうらやましいなぁと。この感覚をお客さんにもあじわってほしいんです。ねえねえおいしいよ、食べてみてって」。うわーっ、私もあじわいたい!朝9時に集合しますっ(笑)。

取材を終えて

トウモロコシが店頭に並ぶのは6月下旬から7月、エダマメは5月下旬から8月中旬、トマトは5月下旬から7月、小玉スイカは7月から8月にかけて。夏野菜が待ち遠しい! 畑が身近にあり、しかもその野菜が近くで購入できるとは。しばらく三鷹通いが続きそうです。

ノラボウ菜のサッといためのレシピ

JA東京むさし 三鷹緑化センターの鈴木和子さんにノラボウ菜のサッといためを作ってもらいました。茎も柔らかいので葉と同時に炒めます。ノラボウ菜のゴマ和えもおすすめだそうです。

◆材料:ノラボウ菜、塩、オリーブオイル

◆作り方

1. ノラボウ菜を茎と葉に分け、茎は火を通りやすくするようナナメ切り、葉は3、4センチ幅に切る。

2. フライパンを中火で熱し、オリーブオイルを入れる。温まったらノラボウ菜の茎と葉を同時に入れ炒める。

3. だいたい火が通ったら塩を入れる。

田辺農園の野菜を買えるところ

JA東京むさし 三鷹緑化センター

田辺農園の野菜を食べられるところ

たべごと屋のらぼう

[田辺農園]

撮影・文/柳原久子

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