「エシカルファッションやフェアトレードの間口をもっと広めることができるなら、手段はファッションに限らないと思っています」。
こんな風に言うと、ビジネスパートナーに叱られるんですけどね、と笑顔でさらりと話すのは、エシカルファッションブランド「INHEELS(インヒールズ)」共同代表の岡田有加さん。インヒールズが描く、自信があって強く、セクシーであることを恐れない女性に重ね見られることも多いのでは?と尋ねると、
「よくパワフルだとか、女性起業家のイメージなのか、キラキラした感じとか言われるんですけど、自分では全然そんな風には思えないんですよね」。
率直な言葉のなかに、時折見られる柔らかな笑顔が印象的。伺ったお話からは一貫して、岡田さんがロンドンで見つけたある「視点」が感じられました。
異色のエシカルファッションブランド、INHEELS(左)Back T Long Dress(black/green/brown)1万4580円。(右)High Neck Cropped Top(black/grey)4860円、Jersey Wide Trousers(black/grey)7884円。
インヒールズは、岡田さんと大山多恵子さんのふたりが共同代表として、2012年6月にローンチ。現在、岡田さんが日本、大山さんがロンドンを拠点に活動しています。
「淡く」「やさしく」「フワッとした」イメージが強いエシカルファッション業界に、「who said ETHICAL is not SEXY?(エシカルがセクシーじゃないなんて誰が言ったの?)」と現れたインヒールズは大きなインパクトでした。
「エシカルブランドを立ちあげるにあたって、今までにないコンセプトが必要でした。それが、クールでセクシーな勝負服=インヒールズだったのです」。
ミステリーツアーの果てに得たパートナー
大学卒業後は、大手コンサルティング会社でM&Aコンサルタントとして働いていた岡田さん。当時は「とことん利益を追求すること」がテーマだったと言います。
「いわゆる、『バリバリのキャリアウーマン』になりたかったんです(笑)。でも時が経つにつれ、この仕事だったら私より向いている人がいる、と感じるようになりました」。
そこで、大学の頃から関心のあったフェアトレード、エシカルをビジネスにしようと、3年続けた仕事をすっぱりと辞め、2010年4月、ロンドンへと旅立ちます。
しかし、おりしもアイスランドの噴火があり、日本を発った飛行機が着陸できる保証はなかったのだとか。
「スタートからミステリーツアーのようでした(笑)。運よく、ヒースロー空港に着くことができたものの、泊めてくれるはずだった友人がロンドンに戻ってこれず、宿なしの状態に。そこで思い出したのが、趣味のサルサを通して知り合ったロンドン在住の大山でした」。
SNSをたどり、大山さんになんとか会えた岡田さんが、ロンドンに来た理由、これからやりたいことを話したところ、そこで初めて、大山さんも同じ夢を描いていたことを知ったのだそう。
それからは、エシカルファッションブランドを立ち上げるために必要なものを、おたがいがそれぞれに吸収する日々を過ごしインヒールズをスタート。そのインヒールズは、今年6月、3周年を迎えます。
ロンドンで見つけた、本質を見る「視点」職はおろか、住む家もない状況から始まったロンドンライフは、岡田さんの生きかた、物の見かたに大きな影響を与えました。
「ロンドンでは、移民の人たちと過ごすことが多く、たくさんの場面で助けられました。そんな経験の中でさまざまな思考が取り払われていき、まず、なにが大事なんだろうと考えるようになったんです。行動の源となるもっとも大事な本質的な部分、「そもそも何がしたいのか」を見失わずに生きたいと思うようになりました」。
インヒールズが目指すのは、30年後も持続可能なものづくりと消費のあり方。この本質的な部分を叶える方法は、必ずしもひとつではないと、岡田さんはおっしゃいます。
「100%エシカルな人がひとりいるより、ちょっとだけエシカルなライフスタイルをより多くの人が楽しんでいる状態の方が、持続可能なあり方に近づくのかもしれません。
使用する素材も、バンブーとオーガニックコットンから始まり、昨年はより環境負荷の軽いと思われるテンセルを採用し、今年はコレクションすべてをテンセルに移行する予定です。でもテンセルもあくまで現時点でのいちばん。より環境に負荷のない繊維をつねに求めますし、そこに議論があってもよいのではないでしょうか」。
プロボノ発のビッグプロジェクト社会的意義を持つエシカルブランドには、インターン(就職前の一定期間、将来の夢やキャリアにつながる企業で働く学生)や、プロボノ(専門的な知識やスキル、経験を生かし社会貢献するボランティア)といった形で多くの人が関わるのが、ひとつの特徴ともいえます。
中でも、インヒールズは、スタッフのひとりひとりに任される裁量が大きい印象。聞くと、サポートといったレベルではないようです。
「インターンたちには、基本的に『全てを』任せます。(アシスタントとして)なんでも手伝います、というタイプではなく、自分のやりたいプロジェクトとして自身の力で動かしていくような人がインヒールズには集まっていますね。わたしが、細かい指示をするのが苦手だからというのもあるかもしれませんが......(苦笑)」。
さらに現在、プロボノとインターンからなるチームとともに、まさに冒頭の岡田さんの発言を体現する大きなプロジェクトが進行しているそう。
「プロボノを中心に執筆・制作したエシカルフォトエッセイ集『午前0時のハイヒール ーHONNE no ethical by Jenniferー』を、2月2日にWebサイト上で発表しました。おもに執筆を手がけた人物を一言で言いあらわすと、彼女はインテリジェント&セクシー。エシカルという文脈ではあまり取り上げられないテーマや、口には出さないけれど、なんとなく疑問に思っていることなどに対して核心をつく言葉たちが紡がれたインヒールズらしいエッセイ集に仕上がりました。このエッセイが、エシカルが限られた人のものと感じていた多くの人のもとにも届くよう、メディアへの展開も考えていきたいと思います」。
インヒールズらしさを前面に
新しい動きも楽しみなインヒールズ。2015年の新コレクションにも期待が膨らみます。
「5月から発売予定の2015年春夏コレクションには、イギリス在住のネパール人デザイナーを迎え、クールでセクシーなインヒールズらしさをどんどん出していきます。
ずっとこの仕事をしていると、誰もがエシカルに興味があるように錯覚しそうになりますが、決してそうではない。ひとりよがりにならず、みなさんが身近に感じ、身につければより魅力的になる、そんなものづくりと情報の発信をしていきたいと思います」。
インヒールズは、バレンタインシーズンのスペシャルなイベントに出店予定です。
「FOR YOU 特別なアナタに贈るギフトby Ethicaloop」
日程:2015年2月4日(水)~2月17日(火)
場所:恵比寿三越 2階 アトリウム イベントスペース
[INHEELS]