作品の主人公は神戸でちいさな洋裁店を営み、初代から受け継いだデザインとその仕立て直しとサイズ直し、そしてすこしの新作しかつくらない南市江。そんな彼女の職人ぶりと服に惚れこんだデパート勤務の男性、藤井が、市江の仕事への本当の想いを見ぬくのです。揺れうごく市江の心、その先にあるものとは?
今回は、本作の監督・三島有紀子さんに作品への想いや、人生の転機で背中を押してくれた言葉を伺いました。
―ーこれまでの作品『しあわせのパン』や『ぶどうのなみだ』はご自身で脚本を務めていました。今回は原作があり、しかも連載中です。不安はありませんでしたか?
まったくありませんでした。原作を読んだとき、誇り高く、細部までこだわるストイックな市江のキャラクターに惚れこんだのです。
洋服を着る人が本当に大切にしているものは何なのかを静かにくみ取り、それを言葉にすることなく縫いこんでいく。そして、着た人の心や行動が少しずつ変わっていく......。そんな市江という人物に寄り添いながら、彼女の生き方をあらためて自分の視点で描きたかったんです。
それから、世のなかに大量生産の同じようなものが氾濫するなか、「市江がつくるようなこだわりがあるものがこの世に残ってほしい。それこそが美しいのだ」という想いも市江のキャラクターに託しています。
監督業は自分と向きあうこと
―ー「いつかテーラーという職人の生き方を撮りたい」と思っていたそうですね。
父が神戸のテーラーであつらえたスーツを生涯ずっと大切に着ていたんです。そこで、いつか「洋服のつくり手」を描く作品を撮りたいと思っていました。
―ー監督という仕事も市江のように「自分と向きあう仕事」だと感じています。
生きることは「変化」すること向きあうばかりです(笑)。今回の撮影では「市江にとって本当に大事なことはなんだろう?」と考えつづけました。それはつまり、「自分にとってなにが大事か」を考える作業でもありましたし、他者と向きあい続ける作業でもありました。
―ーところで監督自身はNHKに11年勤めたあと独立して助監督、そして監督になったと伺いました。年を重ねると「新しい一歩」を踏みだしたくても、夢を夢のまま終わらせてしまう人も多いと思います。
思いこみを壊して、大切なものを見つける私が本当にやりたいことは映画づくりでした。ある日、友人に言われたことがあって。「会社にいる自分と、監督になれるかどうかわからないけど、もがいてる自分とどっちが好き?」って。そのときにはなぜかムカッときましたが、そういうすごくムカつくとか、すごく嬉しいとか、感情が揺れうごくときっていうのは何かあるもので、本質をついていたりもするんです。
ほかにも「私は、NHKを離れた三島さんの演出が見たい。だって生き方が変わるもの」とも言われて、これまたムッと来たわけなんですが(笑)。
夢が実現するかどうかはともかく、「変化することが生きていくこと」かもしれないと思うんです。『繕い裁つ人』の市江にも「頑なにならずに、また新しい自分に出会えばいいやん」と思っていました。
―ー最後に、迷っている女性に伝えたいことはありますか?
迷いを感じ、だれかに少しだけ背中を押してもらいたい人にこそ、この作品を見てほしいです。
「きっとそうだ」と決めつけていることには「本当に?」と問いかけ、思いこみを壊す。そうして、捨てていって最後に残ったものが出た結論がいちばん大事なものな気がします。私にとっては映画をつくることですが、誰にとってもカラダと心の奥底にいちばん大切なものがあるはずだと思います。
映画『繕い裁つ人』は1月31日から全国順次ロードショー。きっとあなたにとっての「人生で本当に大事なもの」が見つかるはずです。
[繕い裁つ人]
2015年1月31日(土)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー!
©2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会
配給:ギャガ