「ジェンダー・メディシン」という言葉を耳にしたことがありますか? 日本では「性差医療」と呼ばれ、ジェンダー(性別)間の違いを念頭に置いて行う医療のことを言います。
同じ症状に対してつくられた薬でもジェンダーによってまったく違う効き方をしたり、また、同じような症状が現れても、男性と女性では別の病気である可能性があるのです。
たとえば、更年期障害もジェンダーの違いが現れやすい例でしょう。更年期障害といえば女性特有のものと思っている方も多いと思いますが、じつは男性にも現れます。
ジェンダーで異なる症状と対処法女性の場合は40歳を過ぎたころから卵巣に機能の低下が現れるといわれます。それにともない、精神の安定や体調管理を担う女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量がじょじょに減り、さまざまな症状が現れるそう。症状の強さはまちまちで、なにも感じずにはつらつとしていられる人がいる一方で、全体の約3分の1の女性はホットフラッシュや動悸、発汗、イライラ、不眠などに悩まされるといいます。
これに対し、男性の場合は少し事情が複雑。男性は閉経のようなはっきりとしたサインがないため、症状に気づきにくいといった特徴があります。45歳ごろから男性ホルモン(テストステロン)量が減り、女性とはまた違った症状、たとえば性欲が減退するなどが挙げられます。
対処法も女性と男性では異なります。女性の場合は自身の症状にあった効果的な治療法を探すこと。ホルモン剤を処方してもらうなど、早めに病院へ行くか専門家に相談することが大切だそう。また、症状を悪化させないため、あるいは長引かせないために、家族やパートナーなど周りの人たちの理解と、精神的に頼れるサポート機関やグループを見つけることが大事でしょう。
一方、男性の場合は、なによりもまず食生活を改善することが先決。そして「体の声を聴き、過労になったり、ストレス過多にならないようにするなど、そもそもの予防知識を得ることが不可欠である」とバイデン大学の泌尿器科医、テオドア・クロッツ氏は述べています。
男性と女性とは根本的に違ってできている、そういうものなのだ。賢い予防法を探すこと、例えばスポーツや食生活においても、男性と女性、それぞれに見合った的確な道を探すことが必要だ
(「ZEIT ONLINE」より引用)
更年期障害というひとつの病名でありながら、そのアプローチ法はジェンダー間でこんなにも違うのですね。
また、ドイツで行われた調査では、女性の平均年間通院回数が3.4回であるのに対し、男性の通院回数は 2.5回。これを受け、クロッツ氏は「男性は自身の健康に無頓着であり、さらに、病院に行くことも億劫と感じている。病気の予防ということをあまり真剣に考えない」と発言しています。また、これは「医者に行くことで、周囲に負け犬だと思われる」という恐怖感が潜在意識にあるのでは、とも。
ドイツの病院では、病気の予防やセラピーにジェンダーの概念が積極的に取りいれられるようになっています。例を挙げるなら、糖尿病や高血圧症、心臓循環器疾患に関しても、その症状の診断方法とセラピー過程が近年、大幅に変化してきているようです。
体の構造だけでなく、病気や病院に対する考え方にも、男女間には大きな差が存在しています。「ジェンダー・メディシン」という言葉、自分や身近な人が健やかに暮らしていくためにも、覚えておきたいと思います。
[Harvard Medical School、Klinikum Weiden、ZEIT ONLINE]
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