現在、大分県北東部に位置する国東半島で開催中の「国東半島芸術祭」は、そんな数多くある芸術祭の中でも、いままでとはタイプの違うアートフェス。「歩いて旅して、感じる芸術祭」なんです。さっそく、訪れてきました。
熊野磨崖仏/Photo: Naoki Ishikawa ©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
そもそも国東半島は、古くより神仏文化が根づき、とてもスピリチュアルな土地。この歴史や文化と、アーティストの感性が出会うことで、国東半島でしか鑑賞、体験することができない作品が誕生しました。見どころとしては、海岸線や山間部、集落など国東半島の特徴的なエリアに作品を設置する「サイトスペシフィックプロジェクト」。
場所の持つ力を作品によって引出し、その場全体をひとつの作品としているのです。
全部で6つの「サイトスペシフィックプロジェクト」かつては、耕作放棄地だった香々地エリアにある長崎鼻では、2006年から地域のNPOらが花を植える活動を開始し、今では季節ごとの花が彩る「花の岬」として知られるようになりました。
見えないベンチ(2013年)Yoko Ono/Photo: Takashi Kubo ©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
この場所にオノ・ヨーコさんは13基のベンチ型の作品を設置。このベンチに座り、添えられた彼女の詩を読むと目の前の風景が異なる世界へと変容していきます。
色色色(2013年) Choi Jeonghwa/©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
また、チェ・ジョンファさんは、岬全体を俯瞰できる段々畑の頂上に花のピラミッドを造りあげました。私が訪れた時には、ひまわりとコスモスが広がり、まるでお花の中に包まれている気分に。花畑全体がひとつの作品なんて、なんともロマンティックです。
自然の中に広がる唯一無二の作品国東半島の精神や哲学を考える上で非常に重要な場所、千燈。ここでのプロジェクトは、峰道を登った場所、断崖絶壁の上にイギリスのアーティスト、アントニー・ゴームリーさん自身をかたどった鉄の彫刻が設置されているというもの。
ANOTHER TIME XX(2013年) アントニー・ゴームリー Antony Gormley
/Photo: Takashi Kubo ©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
かつて、豊富な砂鉄を資源として有していた国東市は、たたら製鉄も盛んな場所。無垢の鉄の固まりであるゴームリーの像の表面はさび、徐々に変化を続けていき、遠い未来、いずれ、この像は風雨とともに山に還っていきます。
五辻不動尊/Photo: Naoki Ishikawa ©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
この作品にたどり着くためには通常約70分も山を登るのですが(体力に自信のない人に向けた最短ルートは約10分)、目にした作品は圧巻、そして達成感もあいまって、瀬戸内海の一大パノラマが望める景色に、本当に登ってきてよかったと感動でいっぱいでした。
さらに、この作品は重量629kgもあって、輸送がほぼ不可能とされていましたが、地域の人々の知恵を結集することで最終的に峯を渡り、岩場に到達したのだそう。その過程を振り返りながら山を登ったので、さらに胸がいっぱいになりました。
Hundred Life Houses(2014年)宮島達男/Photo: Takashi Kubo ©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
月の木(2013年)勅使川原三郎/©KUNISAKI ART FESTIVAL Committee
そのほかにも、縄文期の出土品が発掘された遺跡に面した岩場に作られた宮島達男さんの作品や、ダンサーで振付家、演出家の勅使川原三郎さんによる、ダムのほとりに建てられたガラスでできた塔など、国東半島をめぐりながら、その場所でしかありえない作品を鑑賞することができます。
屋外のアート作品というと、街中や自然の中にポツンと唐突に置かれているケースもよくあります。しかし、国東半島の作品は、すべてその土地とリンクしているので、違和感もありませんし、どちらかだけが主張をしているわけでもない。溶け込み合って、さらにその土地、場のパワーを盛り上げていました。
「サイトスペシフィックプロジェクト」以外にも、ダンスや音楽が自然と一体になる瞬間を目撃できる「パフォーマンスプロジェクト」は、国東半島でしか成立しない演目ばかりですし、国東半島に滞在して制作した作品を発表する「レジデンス プロジェクト」では、国東だからこそできる発想、行為やプロジェクトを若手のアーティストがそれぞれ発表しています。
週末にはプロジェクトを巡るバスツアーも実施されるので車がなくても鑑賞できます。また、トレッキングと融合したツアーやトークなどさまざまなイベントも開催されます。
プラスアルファの魅力も2日間滞在したのですが、作品を観てまわることはもちろん、ボランティアとして参加している地元の方との触れ合いや、おいしい郷土料理など、プラスアルファの魅力がいっぱいの旅となりました。何よりも国東半島という場所にいるだけで、気持ちも穏やかになり、自然に感謝するなど、日頃の生活で忘れがちなことにも改めて気がつくことができました。
実際に作品に参加した地元の方たちが、とてもいきいきとしていたのも印象的。コンテンポラリーアートというと難解なイメージもありますが、一部の人のものではなく、みんなに開かれたものだということにも改めて気がつかされます。
「国東半島芸術祭」は、11月30日(日)まで。少し足を伸ばし、自然に身を委ねれば、いろんなインスピレーションを受けて、日常に戻ってこられます。特に、ふだん忙しい日々を送っている方にはおすすめです。
[国東半島芸術祭]
会期:2014年10月4日(土)〜11月30日(日)水曜日休
時間:10:00~17:00(最終入場16:30)
※公募写真展は~16:00
料金:無料(一部有料)