まだ外国人が自由に国内を旅行することができなかった明治時代、日本の奥地をひとりで旅したイギリス人女性がいます。ヨークシャー出身のイザベラ・バード。当時は世界的に見てもめずらしかった女性の旅行家で、1878年6月から3か月にわたって東北を歩き、そのときの様子を「日本奥地紀行」という本にまとめています。

イザベラがこの地を訪ねた1878年は、日本最後の内戦となった西南戦争が終結した翌年。農民の生活は幕末よりも一層困窮を極めていた時期でした。そんな時代に彼女が東北で見たのは、美しい自然に囲まれた山峡の村々と、村人たちの外国人に対する異常なまでの好奇心。行く先々で群衆に囲まれ、宿屋に入れば中庭まで伸びる人垣。人々の好奇な目に辟易しながらも、彼女は訪れた村々の風景から村人たちが身に付けている着物、育てている作物まで、日々の営みをこと細かに観察し、記しています。

イギリス人女性が見た、1878年の東北の農村

それには時に、非常に貧しい村の様子も記述されています。ですがそのいっぽうで、東北の山奥にまるで理想郷のような村が存在していたことも記されています。農民にとってとても厳しい時代だったこのころ、他の歴史本でそのような記述を見いだすことはできず、とても貴重な記録だといえるでしょう。とくに蝦夷地に入り、アイヌの人々と過ごすくだりは秀逸。アイヌの民族文化を丁寧に観察した手記で、その精神性までもがよく描かれています。

明治初期の日本の農村の様子を浮き彫りにするこの旅行記は、外国の人々にとってはもちろん、現代の日本人にとっても非常に興味深いもの。また、著者のイザベラ・バードにも注目です。彼女は病弱な幼少期を過ごし、大人になってからもけっして健康な身体の持ち主とはいえませんでした。それでも、まるで自分の限界を知ろうとするかのように世界中を旅します。とくに40歳を過ぎてからの時間は大半を旅に捧げたといってもいいでしょう。人としての強さを感じさせる人物です。

1880年の初版から、版を重ね続けている「日本奥地紀行」。昨年もまた、新訳が発行されました。ぱらぱらとページをめくっていると、日本の山村を旅してみたくなります。この秋、美しい日本の風景を探しに、小さな旅へ出かけてみるのもいいかもしれません。

日本奥地紀行

Momiji, Rice paddies via Shutterstock

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