第一回は、スタイリストの石川顕さんにインタビュー。雑誌「POPEYE」や「GO OUT」などのスタイリングを始め、TOKYO CULTUART by BEAMSの相談役やオリジナルブランドのプロデュースと、ジャンルを問わず縦横無尽に活躍する方。また、キャンプやスノーボードなどアウトドアカルチャーにも造詣が深いので、コスメはもちろんロハスな生活をしているはず。と思いきやはなしは意外な方向に......。
スタイリスト
石川顕(いしかわあきら)
最近、スタイリストといったらなぜか「ぷっ」と笑われますが、スタイリストですから。パリコレというよりツール ドフランスですし、ラガーフェルドよりローラン・フィニョンです。
左:キールズ ブルーアストリンゼン(廃盤・私物)、中:キールズ ハーバル トナー CL アルコールフリー 250ml、右:キールズ クリーム UFC 49g(グランドスターセット by エリック・ヘイズ)
ーーまずは、普段使っているコスメについて教えて下さい。
いま使っているのは、去年の暮れに買った「キールズ ハーバル トナー」のエリック・ヘイズバージョンですね。ロハスとかオーガニックとか全然わからないんだけど、「キールズ」はスタイリングに使うのに良かったんですよ。デザインしすぎてないパッケージにキレイなブルーというのが画期的で、写真に撮るとすごくキレイ。なので、ルックスが良いという理由だけです。
ーー男性は、まずは見た目からという人も多いですよね。
正直わかんないだよね、システムがね。化粧水ってどういうこととか、乳液の使い方とか。でも「キールズ」だけは持ってます。
ーーどのくらい愛用していますか?
いまは廃番なんだけど、ブルーアストリンゼンは20年以上になるかな。「ブルータス」とか「ターザン」でもよくコスメの撮影やってて、「キールズ」だけはカッコいいから自分で買いました。けど、効力はよくわかりません。
効き目抜群の「蚊」に効くオーガニック軟膏ーールックスという意味でも気になる「蚊」と書かれたこちらは?
これは、知り合いのカメラマンの奥さんが作ってる痒み止めですね。蚊に刺されたあとすぐ塗れっていうんだけど、塗っても痒いままなの。市販品みたいに毒をもって毒を制す、ごまかす感じとは違う。だけど、1~2分経つと跡が残ってなくて、ちょっとびっくりする。成分は、ビーズワックスとヘンプオイルとかかな。
ーーこれは売ってるんですか?
売ってはいない。知り合いに配ってるだけだと思う。でも、いまはこれをすごく信用してる。なんの成分が素晴らしいのか全然わからないんですけど。
ーー食生活でロハスやオーガニックを意識することはありますか?
全くないですね。化学調味料も使うし甘いものも大好き。ロハスとか自然の味とか、正直苦手なんですよ。天然の素材で美味しいんだったらなんの文句も言わず食べるけど、不味いんですっていうエクスキューズをされるのがね......。マクロビオティックとかも、それだからいいってことではなくて、美味しければマクロビオティックでもいいんですよ。逆なんだよね。
ーーでもキャンプなどで山奥に行くと
すぐ感化されちゃう(笑) これだけの成分で効くんなら、化学ダメだねって思い知らされる。キャンプ行った時なんか虫除けに関しては、良い悪いは抜きにしてとりあえず全部試すんですよ。やっぱり刺されたくないから。そこで使ってみて、化学とは違う効き方をするんだなっていう実証がなければ信用しないですね。
理由があるから天然素材を使っているーーファッションに関しても同じですか?
そうですね。ぼくは化学も否定派ではないけど、冬になると天然素材の良さが分かる。いま流行りの化学素材のインナーは、肌がカサカサするんですよ。真冬の北海道ってずっと暖房の中で暮らしてるから、じつは日本一暖かい。それで、ハイテク素材を着て寝たりすると、カサカサになってちょっと痒くなる。なんか、吸い取られる感じ。だから、雪山に行く時もこれさえあれば大丈夫っていう考え方はやめた方がいいですね。すごく上手だったり熟練の人だったら問題ないけどね。
ーー自分なりの着方を知ることが大事だと。
そう。スペックは、相手に与えられるものじゃなくて自分でつくるものだから。パタゴニアでも、ウールのファーストレイヤーが一番だって原点回帰してますよ。アウトドアの世界でも、最終的にコットンに戻ると思います。
ーー女性の間でも冷えとりファッションなど、コットンや絹などが流行ってますね。
やっぱりそれを使うことには理由があるんだよね。昔のサイクルジャージも天然ウールだったし。あと、ヒラリー卿とかエベレストに登った人たちも、ウールのセーターを着てたりとか。
たとえば、自転車の選手にとってなぜウールのジャージが良いかというと、走ってすごい汗をかいて、お腹だけすごい冷える。汗をかくって冷やすってことだから、それでレース中にお腹だけこわしちゃうんだって。でも、ウール素材のジャージだとお腹の部分がポカポカして冷えない。表現としては暖かいんじゃなくて、ちょっとぬくい。そこの違いなんだよね。
だから、パタゴニアのウールも高いけど素晴らしい。あれだって、じつはハイテク化なんですよ。今まで化学繊維でしか作れなかった細さの糸が天然素材でも出来るようになったという、すごいハイテクな話なんだよね。
ーー単純にハイテク(化学)だからNGではない。
必要なとこだけなんだよね。だから、ハイスペックが街で通用するかっていうとダメなんですよ。アラスカに行けるスペックで歩いてるわけでしょ、いまのアウトドアブームの人たちは。けど、ゴアテックスの短いジャケット着てても雨降ったらケツ濡れるんですよ。で、傘さすでしょ。まあ、カッコいいし楽しいからいいんだけどね。
それに「カッコいいから」って、理由としてはすごく良い。カッコいいとか美味しいとこだけで、まずいものは頂かない。まずいものを頂くってことは荷物が多くなるってことだから。余計なものを買ってしまうとか、回り道するとか。重くなるから登山に荷物をあまり持っていかないのと一緒。これ一本持っていればなんとかなる、男の化粧品ってそういうことかもね。
一番カッコいいのは必要なものをうまく組み合わせられる人「Bonzaipaint ULTRA HEAVY」は、すべてのアイテムを軽量にするUL(ウルトラライト)もいいけど、自分のスペックにあっていればダッフルコートでキャンプしてもいいよねという石川さんの考えを体現したプライベートブランド。
最近「Bonzaipaint ULTRA HEAVY」というブランドを作ったんだけど、これはUL(ウルトラライト)に対するアンチテーゼではなくて、キャンプでアルミの椅子なのか、わざわざソファ持ってくのかは俺たちの自由だから。どんなアイテムを使うかは自分で選ぶだろと。
僕がカッコいいなって思うのは、登山のときにジーパンでくる奴。そいつは、このくらいの登山だったらジーパンでいけるっていう自分のスペックを分かってるわけだよね。そこの加減なんだよ。
アウトドアのギアを選ぶようにコスメを選ぶメンズコスメって、必要ないけどカワイイとか素敵だからってことだと思うんですよ。女の子の化粧品の買い方とはあからさまに違う。女の子は、アラスカの登山家みたいな買い方するでしょ。何度もテストして機能を試して。でも。ぼくらは一発で決めたいんだよ。男はいっぱい使っちゃいけないってダンディズムがあるから。あと、これ一本でやってくんだっていうのがすごく好きなんだよね。そうなるとやっぱりルックスは重要になってくる。
ーーたしかに、家に一本だけ置くならデザインが重要になりますね。
その先に、これオーガニックだったねということがある。さっきのウールの話じゃないけど、時代の流れとしては感じますね。ぜんぶ、そうなるかもしれないなって。でも、自然素材が威張っちゃダメなんですよ。買ってみて、使ってみてそっちの方が意外と良かったよっていうのが、正しい。化学にも頼ってはいるし、全否定はできないから。それで不味い、効かないっていうのが一番困るし、カッコわるい。自分のスペックにあってないでしょ。蚊に刺されるとこに行ってるのに、蚊に効かないなんてそんなバカバカしい話はないよ。かっこいい、美味しいかどうか。それがすべてですね。
インタビュー開始時から、ロハスもオーガニックもわからないという石川さんでしたが、スタイリストとしてのものの選び方には一貫した哲学がありました。とくに、登山になぞらえた「まずいものを頂くってことは荷物が多くなるってこと」という言葉は、コスメ選び以外でも役立つ名言。自分のスペックにあっているかを考え、無駄のない選択が出来るようになれば、必然的にロハスな生き方に繋がるのだとおもいます。
(マイロハス編集部/金井)