フランスを拠点に、欧米で絶大な影響力を持つヴェトナムの禅僧がティク・ナット・ハン師。
"息"に気づくことの素晴らしさ下記の言葉は師の教えです。忙しい日常のなかでも、ときどき「息」に気づくことへのすばらしさを教え、この詩を口ずさみながら、意識的な瞑想を行なうことを説いています。
現代人は自分から逃げ出している息を吸って、私は静か
息を吐いて、私は微笑む
このいまに生きることこそが
私には、すばらしい一瞬(ひととき)(「ティク・ナット・ハン師/インタービーイング・イン・ジャパン」より引用)
師はまた、消費社会のなかで身動きができなくなっている現代人に関して、こう観察しています。
私たちは、いつも何かに「占領されている」ことに慣れきっていますから、もしそれがとりはらわれるようなことがあったら、自分が空っぽで見捨てられたような気になってしまうのです。私たちは自分自身にむきあうことを拒み、その代わりに自分から逃げだして友人を求めたり、群衆のなかにまぎれたり、ラジオやテレビを視たり聴いたりすることで、なんとか空虚感から逃れようとするのです。
(「ティク・ナット・ハン師/インタービーイング・イン・ジャパン 」より引用)
現代人ならば、思い当たる節がありそうなことをスバリと指摘してくれています。そしてこんな息つく間もなく生きる現代人に対し、「幸せ」を感じるための「意識的な呼吸」を提案をしています。師によれば、「幸福への道はない。幸福そのものが道」であり、今この現在の瞬間に気づいて生活することこそが、幸せなのだといいます。
平和にシンプルに生きる方法を説く
ティク・ナット・ハン師は、20年代にベトナムに生まれ、西欧世界で非暴力による平和運動を実践してきた人物です。欧米では、ダライ・ラマ14世と並ぶ人物として知られています。現在に至るまで、その著書は100冊以上にものぼるといわれ、仏教の教えを分かりやすく説くことで親しまれているのだそう。ベトナム戦争中には、「平和のための提案」をみずから携え渡米して、戦争の早期終結を訴えています。この時、マーティン・ルーサー・キング牧師と出会い、翌年にはノーヴェル平和賞への推薦をも受けています。
現在は、フランス南西部に仏教共同体である「プラム・ヴィレッジ(すもも村)」を本拠地として平和にシンプルに生きる方法を提唱しながら、さまざまな取り組みを行なっています。
「幸せになりたい」という思いは誰もが抱くもの。そんな時は、師の「呼吸への気づき」の教えを実践してみるのも良さそうです。
[プラム・ヴィレッジ,禅への鍵,微笑みを生きる,インタービーイング・イン・ジャパン]
写真提供:東京サンガ すもも村
photo by Thinkstock/Getty Images
(下野真緒)