イラスト/docco

自分や人に対する「こうあるべき」という捉え方が、人生を重く、生きづらいものにしてしまうことがあります。今の世の中で「それって幻想じゃない?」と喝を入れてくれる存在といえば、中村うさぎさんマツコ・デラックスさん

「サンデー毎日」の人気連載をまとめた新刊『幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談』(毎日新聞出版)から、「べき」の檻を痛快に壊してくれる至言の数々をご紹介します。

生きることは「幸せになること」ではない

痛い恋愛、コンプレックス、依存、家族関係──。読者から寄せられる人生相談に、中村うさぎさんとマツコ・デラックスさんが対談形式で答える形で書かれた本書。他では聞けないようなシビアな疑問にも、自らの人生経験を踏まえて考察し、赤裸々に語り合うふたりのやり取りがおもしろく、200ページ超のボリュームをあっと言う間に読み終わってしまいました。

「アタシたちの言うことなんて真に受けないでねって、読者の方々には先におことわりしておきます」と、本書の「まえがき」で述べているマツコさん。それでもマツコさんが考える“人と幸せ”との関係に、はっとさせられる人は少なくないと思います。

『幸福幻想』なんて大層なタイトルだけど、そもそもアタシ自身は「幸せになりたい」なんて思わないようにしているのよ。 最近の「幸せにならなきゃいけない」みたいな風潮が、いろんなことを面倒くさくさせているんじゃないかしら? 生きることは幸せになることではないんだから、ちゃんとしなきゃなんて思わなくていいの。人生なんて、目の前のことを日々着実にやって、人様にご迷惑をかけないようにするだけで充分なのよ。

(『幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談』2ページより引用)

幸せを探すことは人間の仕事のようなもので、どこまでいっても「これ以上は望むまい」なんて思えないものだ──とマツコさん。幸福幻想に振り回されてしまうのは、SNS等で誰かの幸せを簡単にのぞき見できてしまう今、ある程度はしかたのないことなのかもしれません。

「愛される毒舌」は何が違う?

人間関係とコミュニケーションのテーマのひとつとして紹介されていたのは、「毒舌で周囲との関係が悪化する」という37歳の女性のお悩みです。

「弟に彼女ができたのが気に入らない」と愚痴をこぼす人に、「弟に嫉妬なんて気持ち悪い」と言って話が止まってしまうなど、つい毒舌を放って相手を絶句させてしまう……という相談者。これに対するふたりの返しが痛快でした。

うさぎ これは毒舌じゃなくて、空気が読めないだけ。この質問にある例なら、「あんたの弟程度のご面相で彼女ができただけ、ありがたいじゃない」ってのが毒舌よ。(中略)
マツコ 空気を読めない人は、そこはその人の勝手じゃないかっていう、突いちゃいけないところを突いてることが多いのかもしれない。アタシたちは、相手の思想や信念といったものを茶化したりはしない。アンタもそうよね。

(『幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談』149~150ページより引用)

毒舌家と言われる人が吐く毒は、あとでみんなが笑いにできる「触れてもいい真実」なのだと話すマツコさん。さらにうさぎさんは、相談者から「愚痴を言う人を見透かす自分への優越感」を感じると洞察します。

そういう人が、他人に離れていってほしくないと思った場合はどうするべきか──。うさぎさんの回答は「相手の靴を履く」こと。他人の靴の履き心地を知る、つまり相手の立場で考えてみることで、相手を傷つける物の言い方を卒業できるのではないかと提案していました。

達人の「毒舌」が世間から求められるのは、むしろ相手の弱点を親しみや魅力に変える表現だから。言いたい放題のようでいて、最後はまじめに解決策を考えてくれる懐の深さもあり、この連載が長く愛される理由が伝わってきます。

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ここに相談を寄せる人々もそれぞれ自分の弱さにうんざりしながら立ち向かおうとしている。それが『生きる』という事なのかもしれないね」とは、本書の「あとがき」にあるうさぎさんの言葉。

気心の知れたふたりのやり取りは、過激な描写もあってドキッとする人もいるかもしれません。でも、人に相談しにくい悩みがあるときには、ふたりの率直な意見が力になるはず。例え同じテーマではなくても、新しい解決の糸口を見つけることができそうな気がします。

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幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談

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