こころとカラダの調子にまつわる素朴な疑問に、専門家が答える連載「こころとカラダQ&A」。今回は公認心理師の佐藤セイさんが、いやな夢を見るメカニズムと対処法について紹介します。

いやな夢には、何か隠された意味がある?

Q:いやな夢を見ると、「自覚していない潜在的な悩みや不安があるのかな」「何かのお告げかな」……などと想像しています。かといって、夢占いを頼ってもピンときません。夢がどんな意味を持つのか知りたいです。

A:夢には、これから起こることを予言する力はありません

いやな夢を見ると「何かのお告げかな?」と不安になる人もいるかもしれません。夢占いに「〇〇の前兆」など書いてあれば、余計に心配になってしまいますね。しかし、夢には「これから起こること」を予言する力はありません。

ただし、いやな夢はネガティブな記憶や感情の断片からできているため、「自分が抱えるストレスの要因」や「自分が抑え込んでいる不快な感情」を知る手がかりになる場合があります。あまりにいやな夢が繰り返される場合には「いやな夢が自分に何を伝えたいのか」を考えてみましょう。

夢を見るのは「レム睡眠」のとき

私たちはどうしていやな夢を見てしまうのでしょうか。まずは夢が生まれるメカニズムといやな夢が持つ役割を見ていきましょう。

睡眠には大きく分けて2パターンあります。それが「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」です。私たちはこの2つを交互に繰り返しながら睡眠をとっています。

レム睡眠:筋肉がリラックスして緩んでいる一方で、脳波は覚醒に近い水準を保っている。
・ノンレム睡眠:筋肉の緊張は保たれている一方で、大脳はしっかりと休息している。

「脳も筋肉も同時に休めばいいのに」と感じるかもしれませんが、6~8時間の睡眠中、脳と筋肉の両方を休めてしまうと緊急時に身動きが取れなくなります。例えば、夜間に地震などが起こった際にすぐ覚醒できず、命の危機に晒されてしまうのです。そのため、私たちの体は睡眠中でも脳と筋肉のどちらかは活動を維持し、万が一の事態では素早く行動できるよう準備しています。

そして、夢を見るのは脳波が比較的活発なレム睡眠のときとなります(※1)。

いやな夢はトラブルに対応する練習

レム睡眠で見る夢はいい夢もあれば、いやな夢もあります。どうしてわざわざいやな夢なんて見てしまうのでしょうか。

実はいやな夢は、日常生活で直面したトラブルへの対応を練習する機会だと言われています。日常生活で出会った敵や問題を夢の中で再現して、次はうまく対処できるようにリハーサルをおこなうのです。

そのため、日常生活でのトラブルになかなか対応できない子どもは悪夢を見る頻度が大人よりも高いといわれ、一説には子どもの見る夢の約9割がいやな夢ではないかと考えられています。

大人になると夢でリハーサルをしなければならないようなトラブルは減ってくるため、いやな夢を見る頻度も1か月に6%まで下がります(※1)。

睡眠中、脳はネガティブな感情を整理する

私たちはレム睡眠中に記憶や感情の整理をしています。この整理の過程でこれまでの記憶や感情の断片が結びつき、奇妙で恐ろしい夢になってしまう場合があります。

しかし、レム睡眠で「いやな夢」を見ながらも感情を整理するからこそ、寝る前にネガティブな感情を抱えていても起床後にはスッキリしていた……ということが起こります。

例えば、2018年に発表された研究(※2)では、いつも通り睡眠をとったグループ(統制群)とレム睡眠を短縮したグループ(レム睡眠短縮群)とでは、レム睡眠短縮群のほうが就寝前のネガティブ感情を翌朝まで引きずるということが明らかになっています。

いやな夢はスッキリとした気分で新しい1日を始めるために必要な“副作用”といえるでしょう。

いやな夢を回避する方法と、見てしまったときの対策

「いやな夢にも役割があることはわかったけど、それでもできるだけ見たくない!」という人に2つの対策をご紹介します。

1. 良質な睡眠がとれるように気持ちや環境を整える

レム睡眠でネガティブな記憶・感情を整理する際に生まれるのが「いやな夢」です。つまり、いやな夢を減らすためには、整理しなければならないようなネガティブな記憶や感情を脳に残しすぎないことが大切になります。

寝る前には安心できる活動に取り組みましょう。大好きな小説を読むのもいいですし、ストレッチでリラックスするのもいいですね。大きなぬいぐるみを抱えて眠ると安心できる人もいるかもしれません。

また、睡眠が浅くなりレム睡眠の状態が長引くほど、悪夢を見る可能性も高まります。

・寝酒を避ける。
・睡眠リズムを整える。
・寝具や温度・湿度など、寝室の環境を整える。

など、質の良い睡眠を確保できるように工夫しましょう。

2. イメージ再記述法(IRT)

いやな夢を見ないことは難しくても、いやな夢を別のストーリーに書き換えることはできると考えるのが「イメージ再記述法(IRT)」です。

IRTでは次の3ステップでいやな夢とうまく付き合うことを目指します(※3・※4)

1)いやな夢をメモする
ここでは一例として「モンスターが自分を追いかけてくる夢」としてみます。実際に取り組むときにはもっと詳しく書いてくださいね。

2)いやな夢のストーリーを変える
いやな夢のストーリーを自由に変えていきます。例えば「モンスターが自分を追いかけてくるけど、途中でスーパーマンが来て助けてくれる」などハッピーエンドにしていきます。

3)新たなストーリーを頭の中でリハーサルする
新たなストーリーを頭の中でリハーサルします。1日に3~5回のリハーサルを続けると、いやな夢を見る機会が減少したり、なくなったりするとされています。

いやな夢を見るのは私たちがネガティブな記憶や感情を引きずらないために仕方がないことです。しかし、必要以上にいやな夢に襲われないように、ぜひ上記の対処法を試してみてください。

参考資料
※1 内山真/悪夢障害 ドクターサロン60巻4月号(2016年)
※2 小川景子/睡眠の感情調整機能に関する心理生理学的研究 科学研究費助成事業 研究成果報告書(2018年)
※3 大江美佐里/「怖い夢を変えよう」(2012年)

佐藤セイ(さとう・せい)
臨床心理士、公認心理師。精神科・心療内科、神経内科(もの忘れ外来)、リハビリテーション科、児童相談所、療育施設、刑務所などに勤務。現在はスクールカウンセラーをしながら、ライターとしても活動する。

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