具材の冷凍保存で「手作りおすし」がもっと身近に
著者の料理研究家・松田美智子さん(撮影:鍋島徳恭)ハレの日の食卓の主役として、日本で昔から作られてきた「おすし」。本書で松田さんがおすしに焦点を当てたのは、人と人をつなぐ橋渡しになってきたおすしという料理を、次世代に受け継ぎたいという思いから。そのレシピには、日本の伝統的な家庭料理の知恵と工夫が凝縮されています。
「料理は科学」「理を科る(ことわりをはかる)」といいます。簡単な方程式を理解して、手を抜くのではなく、無駄な手を省きます。一度きちんと作るとおすしの具材も冷凍の保存法や真空パックの利用などで使い回しがききます。そこも参考にしていただけると手作りおすしがもっと身近になります。
(『普段もハレの日も作りたい、家族が喜ぶ おすし』2ページより引用)
おすし作りは具を揃えるのが大変だと思っていましたが、卵料理、干し椎茸・かんぴょう・高野豆腐などの含め煮、下味をつけたにんじんやごぼう、鯛でつくったでんぶなど、冷凍できる具がたくさんあるというのは本書での発見。 時間と心に余裕があるときに作り置きをしておき、それを活用すれば、パーティーでも緊張せずに、落ち着いて用意ができそうです。
おすしをよりおいしくする、7つのこつ
年末年始の華やかな席にぴったりのおすし。「手巻きずし」のページには、小皿使いのアイデアも紹介されている(写真:本書58〜59ページより/撮影:鍋島徳恭)料理をなりわいにして約40年。昨今は「簡単」「スピード」「手抜き」という言葉をよく目にするけれど、簡単料理は簡単なお味であり、やはりちゃんと作るとおいしい……と松田さん。本書で紹介される「おすしのこつ」にも、そうした著者のポリシーが感じられます。
「ばらちらし」は、江戸前の握り寿司から派生したとか。そんな歴史や文化が学べるのもうれしい(写真:本書8ページより/撮影:鍋島徳恭)おすしをよりおいしくするこつ
1.味、色、食感、3つのバランスが大切です
2.旬の食材を積極的に取り入れましょう
3.おすしの華、魚介は新鮮でいいものを
4.味を“ならす”ことでうまみが増します
5.おすしのもと(具)は作りおきを活用して
6.きゅうりは地味に光る名脇役です!
7.なくてはならないガリは自家製で(『普段もハレの日も作りたい、家族が喜ぶ おすし』3ページより引用)
松田さんによると、おすしは具をほぼ同じ大きさに切りそろえることで食べやすく、すし飯ともなじみよく、見た目も華やかになるのだそう。やわらかいもの、歯ごたえのあるものなど、食感の違う具を組み合わせるのも、おいしいおすし作りの秘訣です。
松田さんの料理では、無駄な手間を省くとともに、素材は丁寧に下ごしらえをして、本来のうまみを引き出すことが大切にされています。例えば、きゅうりを「名脇役」にするためには、 切り方に工夫を。薄切り、 笹打ち、せん切りと、さまざまなバリエーションがあります。
そのすべてがプロセス写真とともにくわしく解説され、冷蔵庫で具材を休ませるときの注意点まで書かれているのが、本書のすごいところ。「ひと手間」を惜しまないことが、美しい仕上がりと深い味わいを叶えてくれる──そんな和食の心も思い出させてくれました。
「おすし歳時記」で旬を味わう
長崎・大村に約500年も前から伝わる「大村ずし」は、ちらし風に。2層の重ね盛りにし、錦糸卵をたっぷりと(写真:本書20ページより/撮影:鍋島徳恭)本書には、師走や冬至といった歳時記と、旬の食材、その時期におすすめのおすしをまとめた一覧表が掲載されています。
例えば12月のおすすめは、まぐろや塩鮭、れんこんを使った「ばらちらし」や「蒸しずし」。お正月や成人式などお祝いごとが続く1〜2月は、「恵方巻き」や「手巻きずし」に加えて、長崎・大村に約500年前から伝わるという「大村ずし風ちらし」が取り上げられていました。
ちらしずしを器ごと蒸してアツアツをいただく「蒸しずし」(写真:本書16ページより/撮影:鍋島徳恭)本書で紹介される27品のおすしのレシピは、旅先で味わった印象的なおすしや、小さい頃から食べていた母の味をもとに、松田さんがアレンジを施したものです。
思い返せば私の実家でも、人が集まる日には母が大きな飯台を出してきて、手早くすし飯を作っていました。うちわでごはんをあおぐ係のご褒美は、まだほんのりと温かいすし飯のつまみ食い。本書のページをめくると不思議と幸せな気持ちになれるのは、おすしをめぐる楽しい思い出が心に浮かぶからかもしれません。
本書があれば、おすし作りはお手伝い専門だった私でも、おいしく作ることができるかも。心をこめて丁寧におすしを作る休日、このお正月休みにぜひ実現したいと思います。
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