それを「心」という形のないものではなく、「脳の機能」という観点から捉えることで、根本的に解消しようというのが『こころのもやもやを脳のせいにしてラクになる方法』(WAVE出版)のテーマ。ここでは「コミュニケーションが苦手な人」の脳に多いという、ある傾向についてご紹介します。
悩みが消えないのは「脳が止まっている」から
著者は、脳内科医・脳科学者として1万人以上を分析してきた知見から、脳の働きを成長させる「脳番地トレーニング」を提唱する加藤俊徳先生(加藤プラチナクリニック院長)。本書では、人によって異なる脳の働きを「脳番地」という考え方で分かりやすく解説し、もやもやをラクにする方法を伝授してくれています。
そもそも、人間はなぜ同じようなことでもやもや、くよくよするのでしょう。加藤先生によると、「悩んでいる」と私たちが思うとき、脳は「停止状態」にあるのだそう。フル回転しているようでいて、実はまったく機能していないのです。
いったいなぜ、こうした停滞が生じてしまうのか。加藤先生によると、脳には1000億を超える神経細胞が存在し、その働き別に「思考系」「感情系」「伝達系」「理解系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「記憶系」の8つの「脳番地」に分けることができます。
脳番地はこれまでの経験や生活スタイルによって発達具合が変わり、人によって弱いところと強いところが出てきます。ある人は思考系はよく使うが、運動系はあまり使わない。視覚系は得意だが、記憶系は苦手……。こうした「脳の癖」ができることで、弱いところはますます使われなくなり、成長しにくくなっていきます。
その結果、弱いところを使わなくてはいけなくなると、脳が「停止」することに。考えばかりが堂々巡りして、具体的な行動に結びつけられない、もやもや状態に陥ってしまうのです。
コミュニケーション力が高いのは「視覚系脳番地」が強い人
この状態を改善する近道は、自分の「脳の癖」を知り、弱いところを鍛える方法を学ぶこと。その第一歩となるのが、加藤先生が考案した「脳番地チェックシート」です。
まずは一例として、次のチェックリストを試してみてください。
□空気が読めない
□片付けが苦手
□美的センスがない
□自分から話すのが苦手
□道に迷いやすい(『こころのもやもやを脳のせいにしてラクになる方法』34ページより引用)
このリストでチェックが多かった人は、「視覚系脳番地」(目で見た情報を集め、処理している脳番地)が弱い人。以前、加藤先生が明石家さんまさんの脳を見たところ、この視覚系脳番地がとても発達していたといいます。
明石家さんまさんの「トーク力」に注目しがちですが、楽しませる会話ができるのは「見る力」がとてつもなく高いからこそなのです。
逆に視覚系脳番地が発達していない人は、人の様子やものの状態を「見てわかる」ということが苦手です。目からの情報の処理が苦手なので、空気が読めない、片付けができない、美的なセンスがないといった傾向も見られます。
(『こころのもやもやを脳のせいにしてラクになる方法』39ページより引用)
コミュニケーションが上手な人には、「共感力が高い」という特徴もあります。加藤先生によると、実は「共感力が高い」人の脳も、「視覚系脳番地」の認知力が高い傾向があったとのこと。人の変化に気づきやすく、言葉や状況の端々からの情報をキャッチできる力が、相手の感情を読み取る「共感力」につながっているのです。
ここから類推できるのは、「視覚系脳番地」を鍛えれば、コミュニケーション能力を向上させることができるということです。現時点で「視覚系」が発達していなくても、あきらめることはありません。脳の質的成長(神経細胞同士がネットワークを繋げていく成長)は経験を重ねるごとに新たな回路がつながるため、20代を過ぎても成長させることが可能。「視覚系脳番地」は、「電車の広告を隅々まで読む」、「自分の顔をデッサンする」、「1日1枚写真を撮る」といった簡単なトレーニングをおこなうだけで、機能を向上させることができるといいます。
また、人と目を合わせることが苦手な人は、特に「視覚系脳番地」が弱くなりがち。まずは「目線を上げて、相手の顔を見る」習慣をつけることで、コミュニケーションへの苦手意識がなくなっていくと加藤先生は述べています。
心の悩みを脳に置き換えれば、今まで「どうしよう」と悩んでいたことも、「何とかなるかも……」と思えてくるはず。ぜひ「脳番地チェックシート」を参考に、自分の脳の傾向と対策を学んでみてください。
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