私たちの生理の回数は、昔の女性の8~9倍も多い
日本女性の2人に1人が悩んでいるといわれているのが生理痛です (※1) 。
生理痛はほかの人の痛みと比べにくく、悩みの程度を人に伝えるのも難しいもの。「多少つらくても、婦人科へ行くのはハードルが高い」と思っている人も多いと思います。
でも、毎月の生理が快適になれば、生理とともに過ごすこれからの数十年をもっと有意義に使えるはず。生理痛に対しても自分にあった対処法を知っておくと、快適な毎日につながります。
(※1)Journal of Medical Economics 2013; Vol. 16, No. 11 :1255-1266.
つらい生理痛は、決して「自然」ではありません
生理痛は、痛みの程度も、症状も、痛む場所も、千差万別です。
生理は自然なことですが、つらい生理痛は、決して自然ではありません。それなのに「生理痛があるのは、あたりまえ」「いつもの自然なこと」と我慢をしていませんか?
ある研究で「生理痛がない」と答えた女性は、約2割。残りの約8割が生理痛を経験していて、さらにそのうちの約4割の人が、実は治療が必要な状態だったという結果もあります (※2) 。
生理痛には、病気のサインの可能性もあります。背景に隠れている生理痛の原因が何かによって、その症状や起こり方は違うのです。
生理痛がある人は、まず、そこに原因となる病気がないかを確かめておくことが大切です。なぜ痛みが起きているのかを知ることで、より適切な対処法がわかるからです。
(※2)武谷ら「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究」(総括研究報告書)2000年度
現代女性の生理回数が多いのは、ライフサイクルが変わったから
現代女性が生理痛に悩む人が増えている背景には、一生のうちに経験する生理の回数が、昔に比べてかなり増えているという事実があるからなのです。
今の女性の一生の生理回数は、およそ450回。それに対して、昔の女性の生理回数はおよそ50回という興味深い研究があります (※3) 。
その理由は、昔の女性に比べ、現代女性は出産回数の減少、授乳期間が短い、出産年齢が上がった、晩婚化、初潮(初経)年齢が早い、閉経年齢が遅い……などが挙げられます。
一生の生理回数は、この100年でも変わってきていて、1840年(江戸時代後期に相当)の女性は約100回。現代女性の4分の1程度だったとも言われています。
生理回数が増えたことにともなって、セルフケアだけではコントロールできない生理痛に悩む女性が増えているのです。
女性の体は、本来、こんなに生理が多いようには、つくられていないのです。
(※3)American Journal of Obstetrics & Gynecology:AUGUST,201-203,2016
生理回数が増えたことによって、ひどい生理痛が
妊娠・出産回数が減り、生理回数が増えたことが、女性の痛みや不調とつながっています。
生理回数が多いことが、女性が悩んでいるひどい生理痛(月経困難症)、PMS(月経前症候群)と関連していると考えられています。
ほかにも、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫など、婦人科の病気のリスクを高めていて、その原因にもなっているといわれています。
また、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫があると、不妊症の原因にもなります。
ほかにも、赤ちゃんを産む回数が減って、生理回数(=排卵回数)が増えること、出産回数が少ないことなどが、女性特有の病気のリスクを上げているのです。
現代女性のさまざまな病気が、生理回数が増えていることによって引き起こされていたのです。
生理痛の大きな原因は“プロスタグランジン”
生理痛が起きる原因はいくつかあるのですが、なかでも大きな原因になっているのが“プロスタグランジン”の分泌といわれています。
プロスタグランジンとは、ホルモンに似た働きをする物質。排卵後に、妊娠が成立せず、いらなくなって、はがれ落ちた子宮内膜を、子宮を収縮させて、血液と一緒に子宮外へ、押し出す働きがあります。つまり、生理の出血は、プロスタグランジンの分泌によって起きているのです。
もうひとつ、プロスタグランジンには、子宮の収縮にともなって、子宮への血流を減少させ、子宮内の神経を痛みに敏感にさせる作用があります。
そのため、プロスタグランジンが過剰に働くと、必要以上に、子宮が収縮してしまい、痛みを引き起こしてしまうのです。
ホルモンに似た働きをするプロスタグランジンの分泌で、子宮が収縮すると痛みが出ると聞くと、「つらい生理痛は、我慢するしかないの」と考えてしまいそうですが、それは少し違うのです。
痛み止めを手放せない人は疑ってみて
生理痛の中で、日常生活に支障をきたすほどのつらい症状は、“月経困難症”と呼ばれ、ひとつの病気として扱われています。月経困難症には、大きくふたつの種類があります。
ひとつは、“機能性月経困難症”といって、原因となる病気が存在しないのに、症状が出る場合です。プロスタグランジンの分泌が多いことや、思春期で子宮が未成熟であることによります。
もうひとつは、“器質性月経困難症”。これは、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などの直接的な原因となる病気が存在します。
たとえば、生理中に痛みが激しくて、痛み止め(鎮痛剤)が手放せず、仕事など日常生活に支障をきたしていれば、それは月経困難症という病気と診断されます。
月経困難症は、日本で800万人以上もの患者さんがいると推定されるほど、多くの女性を悩ませている病気です。
けれども、800万人のうち、医療機関を受診し、治療を受けている人はたったの10%です (※4) 。
日常生活に支障が出るほどの生理痛があるのは、それ自体が月経困難症という病気なのです。
婦人科で原因を明らかにしてもらって、治療をすれば改善します。我慢だけはしないでください。
(※4)日本子宮内膜症啓発会議「Fact Note P3 図4 月経困難症患者の現状」
生理痛は我慢しない
自分自身が生理痛などでつらい症状があると思ったら、我慢せずに婦人科を受診してください。
生理痛の原因となる病気があっても(器質性月経困難症)、なくても(機能性月経困難症)、症状を改善する治療法があります。痛みを我慢していると将来、不妊で悩むことになる可能性もあります。
器質性の月経困難症であれば、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などの病気を治療することで、痛みの改善がはかれます。
原因となる病気がない機能性の月経困難症の治療には、低用量ピル、痛み止め(鎮痛剤)や漢方薬などから選べます。
低用量ピルは生理痛に悩む女性の味方
低用量ピルは、低用量のエストロゲンとプロゲステロンを組み合わせたホルモン剤です。
種類はおもに、避妊目的で使用される経口避妊薬(OC)と、生理痛などの治療で使用され保険適用されている低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP)の2種類があります。依然として避妊薬というイメージが強い低用量ピルですが、実はどちらも、生理痛に悩む女性の強い味方なのです。
低用量ピルの副作用としては、悪心、嘔吐、頭痛などや、わずかですが血栓症もあります。ピルへの不安がある人は、別の治療法もありますので、心配せずに婦人科で相談してください。
「低用量ピルを使うのは、不自然では?」「体に悪い影響があるのでは?」と思っている人もいますね。
しかし、そもそも、現代の私たち女性のように、生理回数が多い状態は、本来の女性の体にとって不自然なことなのです。つらい症状を抑えるために、低用量ピルで生理痛を治療することは、決して不自然なことではありません。
生理痛は、かかりつけ医を見つけるきっかけになるかもしれません。自分の体について、相談できるかかりつけの婦人科医をもっていると、安心できます。
婦人科医は、自分らしく快適に生きるための頼もしい健康のパートナーになってくれるはずです。
その悩み、解決するかもしれません
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増田美加・女性医療ジャーナリスト
予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)ほか、『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)など著書多数。 NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ
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